第14話 お泊り会

 それから、俺たちはユリカとも学園でつるむようになっていった。


 朝のホームルーム前に二年二組での会話。放課後の一緒の下校。


 最初は学園内で注視されてゴシップのネタにもなったが、一緒にいる時間を学園生たちに意図して見せつけるようにしたため皆徐々に慣れて、まあ氷姫と言えども親戚の後輩とは仲良くするよね的な感覚に落ち着いてきていた。


 そして今、ユリカも加わった昼休みのカフェテリアで、これから食事をしようという時間だった。毎日のお決まりの日課の一つだ。





 新築の厚生棟二階のカフェテリア。少しお値段が高いため、一階の食堂ほどの混雑度はないが、この時間帯だと広めのファミレス程の空間がほぼ埋まっている。


『氷姫』舞依。

『陽キャど真ん中』の日奈。

『金髪ツインテール百合っ子ロリ』ユリカ。


 美少女三人に囲まれている男子は俺一人。当然俺に対する嫉妬的な憎々しいという目線も、未だにちらほらとあるが、まあ流せるレベルのものでもある。


 俺は『トモダチキャラ』だからだ。前から日奈や舞依たちとは一緒にいる男子だが、イワユル男女関係の男子ではない。そういう立ち位置の奴だと、嫉妬する系のヤツにも陽キャグループの話題拡散力を通して徐々に浸透してきているのは我ながら流石の『仮面リア充』だと思っている。


 そしてテーブルに座っている俺の前には、和風ハンバーグランチがあって。

 日奈はサラダサンド、ダイエット中。

 舞依。シーフードグラタンとアイスティー。

 ユリカは、クラブハウスサンドウィッチにアイスコーヒー。


 四人そろって『いだだきます』をして、わいわいとにぎやかな食事会が始まった。


 舞依がグラタンを口に入れて熱い熱いと一人で騒ぎ立てた後、それをアイスティーで無理やり呑み込んでこんどはげほげほとむせる。


 最初、一緒に食事をしたときはおいおいと思ったのだが、もう慣れた。


 相変わらずの不器用な食事の所作で、舞依のポンコツ具合を再認識する俺なのだが、日奈もユリカも何も言わない。逆に舞依が会話を振ってきて、少し驚く。舞依が会話のきっかけになるというのは大した進歩だった。


「日奈たちとの会話はかなり慣れたけど、他の人と話すのは、まだあわあわして……」


 やはり慣れた俺や日奈が相手だというのが重要ポイントなのだろう。舞依のコミュニケーション技術の問題は、肉体的なものではなくて精神的なものなのだ。


「だから、特訓したいと思って。練習、手伝ってくれる?」

「「「特訓?」」」ですか?」


 俺と日奈とユリカが同時に反応した。


「そう。もっと言うと、私の家で今度の休み……合宿したいなぁって。その……」


 舞依がもじもじと少し恥ずかしいという様子を見せた後、続けてきた。


「お、お互いの、親睦も兼ねて」


 日奈が、いの一番に反応した。


「お泊り会。いいねいいね」


 ユリカも同意する。


「舞依さんとの一つ屋根の下、素敵です」


 舞依がおずおずとした様子で俺の顔をうかがってきた。


「桜木君の都合……は?」

「男の俺はマズいだろっ。舞依の親御さんも同意しないだろ?」

「そこの所は信用してるから。私たちに変な事しないってのは。あと、ちょっとまって」


 舞依はスマホを取り出すと、ぎこちない指の動きで、何やらメッセージを送ってる様子。


「返信きた! お泊り会、桜木君もいいって。私、母子家庭で、母親は出張で長期留守中なの」

「もっとマズいだろ? それ。親御さんはマジいいって?」

「ええ。ちゃんとホントの事連絡はしてOKもらったわ。私……」


 舞依がその顔に、いつものポンコツ少女には似合わない、少し寂しいという色を浮かべる。


「幼い頃から……放置気味だから……」


 思わず、その憂い顔の「深さ」にドキッとしてしまった。綺麗な顔の造りと相まって、庇護欲をそそるというか、もっと言うと抱きしめてあげたいとさえ思ってしまった俺がいるのだった。


 その鷲掴みにされた心の印象を打ち破ったのはユリカだった。


「大丈夫です、舞依さん! 私、合気道やってますから、舞依さんに手を出すエロい優斗はボロ雑巾にして切って捨てますから!」


 俺も我に返って、ユリカに対峙する。


「いや、手、出さないから」

「信用できません。優斗は舞依さんや日奈さんにも手を出して、エロ魔人にしか思えません」

「まあ、現状は実際そうだから否定はしないが……。ユリカはそんなに俺がエロく見えるか?」

「見えます!」

「そうか……。そんなか、俺?」

「そうです!」

「まあ、ユリカはまだ一年生だし、俺みたいなの警戒するのも仕方ないか。ユリカ……」

「なんですか!」

「すごく綺麗だし」


 するとユリカは、俺の言葉に驚き射抜かれたという顔をした後、面を茹でたタコの様に真っ赤にして、頭の上から蒸気を発した。


「き、きれいとか、何言ってるんですか! エロま、魔人! セクハラですっ! うっ、訴えますからっ!」

「って、クソリア充の俺のセリフを本気にされると困るんだが」

「え?」

「いや、ちょっとしたジョークのつもりだったんだが」

「な、なんですとー!」

「話し方がキョどって、舞依みたいだぞ」

「ほ、ほっといてください!」


 ぷんっと、その赤ら顔のままそっぽを向くユリカ。金髪ツインテールがテンプレのごとくツンデレっている様は、俺から見ても別格に可愛くて、心の中に入り込まれないように気をつけねばなと『仮面リア充』の俺は気を引き締める。


「決まりですね」


 と、日奈がにっこり場を絞める。


 そして今度の土曜日に、舞依の家で、舞依のコミュニケーション能力向上の為の合宿、通称「お泊り会」を開催することに決まったのだった。

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