第2話 友達同盟
夜。自宅一軒家。
自分で作った和風キノコハンバーグを食して風呂に入ってから、パジャマを羽織って二階の自室に戻る。ちなみに商社マンの両親は現在二人とも海外赴任中で、高校一年生からこの港南市の一軒家に独り暮らしだ。
充電中だったスマホを確認すると、『友達同盟』のダイレクトメッセージが来てた。
メッセージを見る。差出人は、『まいっち』。予想通りではあったが、ふぅとため息を吐いた。
『友達同盟』というのは、中高生の多くが使っている大規模SNSだ。無料で登録は簡単。匿名性も担保されていて、SNS内には私的なトークルームも設置できる仕様で、大勢のアカウントでにぎわっている。
用途は様々。基本、トモダチ同士の交流や、そのトモダチの募集等に使われるのだが、個別の個人トークルームには趣味全開の物も多数あったりする。
俺は友達同盟に『オーナー』アカウント、『友達クン』として登録している。オーナーというのは、昔流行った匿名掲示板の管理人みたいなものだろうか。数々の権限、アカウントやトークルームの開設許可や削除権限を持っており、巨大匿名SNS『友達同盟』の創始者みたいなものなのだが――というか創設者なのだが……
そして俺がフォローしている数少ないメンバーの一人が、こいつ、『まいっち』。
『まいっち』は、友達同盟設立初期からの腐れ縁というか、かなり昔からの付き合いだった。「朝目覚まし三つかけてたけど起きれなかった」とか「転んで足が痛い」とか、グダグダな事を延々と毎日伝えてくるポンコツ、オブ、ポンコツなのだが……
どうにも見捨てられず、またやり取りするうちに慣れっこというか日課みたいになってしまって、毎日送ってくるダイレクトメッセージに律儀に返答している。
友達クン☆:どうした?
まいっち:返信キタコレ!
友達クン☆:……
まいっち:げふんげふん
まいっち:ええと……返信、ありがとう。スマホ片手に一時間。メッセージの確認を一分おきにしていたところだから!
友達クン☆:難儀だな。相変わらず。
まいっち:いや、楽しくもあるから
友達クン☆:俺も、なるたけ返信早くしようとしてはいるんだが……日常生活もあるでね
まいっち:ありがとう! 気を使ってくれて!
友達クン☆:いや……お礼を言われる程の事じゃないが……。でもキミも飽きないねぇ。俺とチャットして楽しいのなら、それでいいんだが
まいっち:楽しい! というか、他に話す人、いないから!
友達クン☆:……まあ、それなら俺が付き合うが
まいっち:楽しいといえば!
友達クン☆:いえば?
まいっち:今日、学園で気に入らないことがあって
友達クン☆:確か……まいっちは俺と同じ高校二年生だったよな
まいっち:そう。気に入らない『リア充』に絡まれたの。落し物拾ってやったぞ、ドヤッって! 私がトモダチ作れないの見下しているようですっごく気に入らないヤツなの。陰キャ草ってっ! このクソリア充、気に入らないうらやましい恨めしい……って怨念を込めて思いっきりにらんでやったわ。ドヤッ!
友達クン☆:そうか。難儀だったな。まあ、ここでゆっくりしてくつろいでくれ。寝るまでは俺が相手するから
まいっち:ありがとう。普通に話せるの、ネットの『友達クン☆』だけなの
友達クン☆:そうなのか? まいっちはJKだということなら、わりと、気さくに、周りに声かけるといいと思うぞ
まいっち:うーん……
まいっち:クラスのあのクソリア充は気に入らないんだけど……
まいっち:…………
まいっち:友達クンには嘘つきたくないから正直に言うと……本当は私もリア充になりたいの、すっごく。でも人と付き合うのが、ものすごく苦手で。リアルで話しかけられたりすると、頭混乱して何と答えてよいのかわからなくって、にげちゃうっていうのか、な
友達クン☆:そうか……。難儀だな……
まいっち:で……
友達クン☆:で?
まいっち:クラスのクソリア充も友達に相談しろとかちょっと言ってたからこの際だから勇気出して言うけど……
友達クン☆:何でも言ってくれ、俺とお前の仲? だろ?
まいっち:オフ……二人だけで……お願いできない? 私、このまま友達できないままで青春終わっちゃうのかな? って、時々思ってウツになるの。親しい友達ならお願いできるかなって思って……
友達クン☆:オフ……か? まあ、会って話してトモダチになる程度なら。もうオンラインでは長年の付き合いだしな
まいっち:やたっ! これで友達が一人できるっ!
友達クン☆:俺、横浜なんだけど?
まいっち:私も神奈川。すごい。偶然
友達クン☆:なら、渋谷駅改札前にこんどの休みに、ということで
まいっち:わかった! おめかししてくね
友達クン☆:場所は駅前広場の……
という流れで、腐れ縁の『まいっち』と二人だけで合うことになってしまった。まあ、詳しい個人情報までは知らないが、長年の付き合いでどんな奴かはよくわかってるつもりだ。めんどくさいポンコツだが嫌な奴ではないし、自称JKの『まいっち』に合って一日付き合うのも悪くはない。
なんと言っても、表層的なトモダチ付き合いは俺の得意分野だ。
ベッドに横になると、『まいっち』――どんな奴なんだ? というぼんやりとした薄い興味と一緒に、俺の意識は眠りの中に沈み込んでゆくのだった。
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