第232話 逆侵略しちゃうもんね
バンドオブヴァンズ南方連合国軍は、マリーの吸血鬼化攻撃によってあっさり崩壊した。連合国側の兵が全員マリーの血脈下に加わってしまったためだった。
そもそも軍隊とは二割から三割の兵力を奪われると全滅扱いされる。それが、形を変えて全員寝返るという異色の全滅。戦う相手を間違えた者どもの末路。
私は、みゅふっふっとほくそ笑む。
マリーもクスクスと微笑んでる。
サイキョーロイヤルファミリー。
片膝をついて私を拝する、生まれ変わったばかりの吸血鬼たちの軍隊。兵士級から騎士級の下位吸血鬼たち。マリーの下僕。と同時に、新たな我が帝国臣民。
魔帝として私はお前たちを歓迎する。
まあ、その前に。
すべきことをしないといけないけどね。
逆侵略である。
やられたら、やり返すのである。
まさか自分たち連合国だけが殴って相手からは殴られないなど思っていないはず。
いや、どうかな。
自分たち連合国だけはセーフィーとか勘違いしている可能性も否めないなー。
彼ら新人吸血鬼はこれから祖国を攻める。
私は目を細める。
心のモードは我が帝国を導く最高責任者。
すなわち魔帝。暴君カミラ。
カミラ・マザーハーロット・スレイミーザ4世。
それがゆえ。
私を排し、公の存在として決断する。
ある種の滅私奉公である。
私の逆侵略の意思は固い。
降伏する連合の小国は多数あるだろう。
だが私は彼らを許すつもりはない。
連合国支配者層は殺処分。いわんや公開処刑。例え女子供であっても例外はない。
連合国の民草には、我が兵たちの乱取り対象になってもらう。兵への与えて肚の傷まぬ報奨であった。どうせ彼ら民草は帝国に隷属するのだ。私物など必要ない。
非情? うん、そうだよ? 冷酷? うん、そうだよ?
国家の運営は綺麗事では成り立たない。冷徹非情こそ我が帝国と我が臣民のため。
この先向こう、私が統治する帝国のため大きく見せしめする必要があるわけで。
私たちは上空から勇者たちを睥睨している。私の殺意で爆発四散した魔術師勇者の女性――たしか名前はヒトミだったか、彼女も蘇生していた。
「で、カミラ。どうするの?」
「うーん、逃げた魚は大きかったにゃー」
「ああ、うん。カミラの中では次のフェーズになっているのね。まあそれくらいでないと皇帝になれないか。でも、もう一度だけ降伏勧告しても良いかも?」
「現時点での勧告はもはや捕虜投降にゃし」
「それでもよ。勇者に力を与えた女神もこっちについたし、最後通告くらいはね」
「みゅー。勇者とか押し潰してさっさと連合国を打ちのめしに行きたいのだけど」
「私は寛容なカミラが好きよ」
「うにゅ……むぅ……わかったにゃー」
私が彼ら勇者たちへの降伏勧告に消極的なのには理由がある。既に機は逸しているのだった。こういうのは打ちのめす前に寝返らせないと価値がないのだから。
「……再度、降伏勧告するにゃ。もう抵抗は無意味。勇者たち、投降しにゃさい」
「……」
「投降するなら勇者としての立場も身の安全も保証する。ただしお前たちの魔族特攻スキルは奪う。封じるではなく、奪う。我が帝国にそのスキルはいささか迷惑なのは言うまでもにゃい。立場は残念、当初の配下候補の食客からただの捕虜に降格。でも衣食住は保証してあげる。当面は貴族向けの捕虜施設で大人しくしてもらう」
「……」
「3時のオヤツは、残念、つかないよー」
「ちなみにカミラが作るお菓子はとっても美味しいのよ。私も大好き」
「作ってたら
「……」
返事がない。三人ともまるで梅干しでも食べたみたいな表情で身構えている。
そんな彼らに私は無邪気に笑いかける。
にゃはっと笑うのだ。うん、このタイミングでこれは怖いかもね。わざとだけど。
「もし、戦闘継続するのなら直後にお前たちは爆死するよ。三人同時にボンッて。たとえ何かのチートで逃れても、ボン。それはそういうもの。諦めも肝心にゃー」
と、ここまでマリーの顔を立てるため付き合った。この先は勇者たちの判断次第。
投降するのも死ぬのも、どっちでもいいよ。私はもうお前たちに興味ない。
「……わかった。私たち三人は帝国側に投降する。身の安全保証を信じる」
「グレッグ!?」
「魔族特攻スキルが通用せず、兵もすべて奪われた。逃げるにしても時すでに遅し」
「そだねー」
「ヒトミ、チヒロ。私たちは負けたのだ。そも、我らにスキルを与えたもうた女神が向こうについてしまっている。いくらなんでも勝ち目がない」
「わらわは紹介状にわくわくなのじゃ」
「この迎撃戦が一段落するまで待つのにゃ」
「合点承知の助!」
「グレッグ……わかったわ……あなたがそう言うなら私も従う。……チヒロは?」
「私、既に2回爆死してるんですけどー」
「3度目はさすがに復活させられないかもしれないから」
「……わかった。投降する。爆死損だわ」
「松永爆弾正を選ばなくて正解にゃ」
「アンタ……なんでそんな知識が……もしかして転生者?」
「その答えは魂的に見ればノーにゃし。お前たちの知識に沿う例えを上げただけー」
「そうなんだ……」
話はついた。煙に巻いたが、肉体的にはともかく、魂的に見れば転生していないのは本当のことだった。混沌に転生の概念などない。初めもなく終わりもないから。
曰く、私はアルファでありオメガの真逆。
真空、或いは均一化したエネルギー状態。
上へと落ちる存在。まさにそれが混沌なのである。
わけがわからないかも知れないが、私は、そういう存在であることに気づいて混沌の顕現体に戻ったわけで。個であり全のナニカなのであった。
「じゃあ、騎士団。一部部隊を彼らの護送にまわしてね。ゲートを作ってあげるから帝都に送還だよ。扱いは帝国敵性下位貴族捕虜規定に従うように」
簡単に言えば敵性国家の騎士爵〜男爵程度の下位貴族を捕虜にした際に適応される帝国法で、地下牢にぶち込むことはしないが完全警護の帝都郊外貴族捕虜施設に監禁となる。中位、上位、王族と位があがるほど帝都中心部へ場所が移動するのが特徴。
ともあれこれにて。
我が帝国に牙を剥いた勇者たちは割とあっさり退場となる。
ちなみに彼らの魔族特攻スキルは強欲権能で奪い済みである。もしかしたら彼らは私にチートを奪われたことにまだ気づいていないかもしれないけれど。
「さて、じゃあ……お礼参りに行くにゃし」
「……お、お待ちを!」
「ん? あれ、ガロー辺境伯。せっかくダンジョンに回復施設を作ってお前たちの兵に開放したのに、寝てなくて大丈夫なの? 無理は禁物だよ?」
「帝国の
包帯で全身ぐるぐる巻きで歩きかねている、狼ライカンスロープのガロー辺境伯がおそらく気合だけで負った傷を無視して私の前に参じたのだった。
「例外的な魔族特攻チートを持つ特殊な勇者を相手してこの地に敵軍をとどめた任、大儀であるにゃ。お前はなすべきことをした。全うしたのにゃ。胸を張って良い。だから安心して休んでいなさい。……褒美は土地が良いかにゃ?」
「し、しかし……」
「どうしても付いていきたい?」
「どうか、お願いします!」
「じゃあこれ飲んで。ダンジョン産の最上級回復ポーション。身体は癒やさないと」
「ご配慮、ありがたき幸せ!」
「連れて行くお前の兵にも飲ませるにゃ。ストックはあるから好きなだけあげる」
「重ね重ね、ありがたき幸せ!」
魔帝直下精鋭騎士団に元連合国兵――現マリーの下僕吸血鬼軍、これにガロー辺境伯精鋭部隊が加わって、我が軍は南方連合国バンドオブヴァンズにお礼参りに行く。
作戦は単純。ローラー作戦である。
追い詰めて踏み潰す。
私は彼ら連合国支配者層が逃走しないよう連合国全域に内向けの結界を張った。
ここからは殺戮の宴である。
各小国首都を順に襲い、じわじわと連合国を締め付けていく。
王族貴族、支配者層は全員処刑にする。
先に言ったように、女子供であっても容赦しない。打ち首獄門である。
世界に私を暴君として喧伝する。帝国に手を出した末路を脳に刻み込んでやろう。
それが我が帝国のため、ひいては我が臣民の健やかな生活を守るためとなる。
滅私の心。魔帝としての、お仕事。
まずは隣接する連合小国、国名はテスタメントらしい、そこを攻める。特殊勇者を失った、しかも出兵で少数の防衛兵しか持たない小国王都などモノではない。
瞬時に呑み込んでしまう。
捕らえた王族ならびに貴族どもは老若男女に関わらず全員斬首。小国王都中心広場にその首を晒してやった。そうしてこの地を逆侵略に使った精鋭騎士団部隊に乱取りの許可を与え、また治安維持軍として限定的に統治する権限も与えた。なお、この国の平民たちは全員奴隷堕ち、帝国所有物としての隷属首輪をつけさせた。
次に進む。ローラー作戦である。
こうやってドンドン兵を進めていく。
士気は天にも昇る勢い。
我が軍の侵攻を止められるものなど、誰もいない。戦って死ぬが良い。
そもそも勇者たちを当てにしすぎなのよ。
彼らは異世界人。この世界の存在ではないのだ。そこに義理も忠誠もあるはずもない。あの守護の勇者も仲間の女の子たちを守るためもあるだろうが、あっさりと投降した。最後まで抵抗して操を立てようなど、心にも思わない様子が見て取れた。
逆侵略による血の宴は続く。
そして、とうとう。
南方連合国の盟主国にたどり着いた。
まず私は温存していたマリーの下僕軍勢に凸をかけさせた。
盟主国だけは特別である。
この国がいらぬことを考えたため、今回の騒動になった。
ならば見知った顔の元軍勢に滅ぼされると良い。存分に恐怖を感じて欲しい。
続いて、やる気満々のガロー辺境伯精鋭兵にも出撃命令を出してやる。好きなだけ暴れて良いと激を飛ばす。喜び勇んで首狩族化する辺境伯精鋭部隊。イイね!
そうして、とうとう。
「くそっ、魔族の新皇帝は傀儡だと謀ったのは誰なんだ! 嘘をつけ! あの幼女、魔神もかくやではないか! ええい離せ! 予は連合国盟主、アンサナム・トルーガンなるぞ! この無礼者が! 頭が高いわ! ああクソ! なんて馬鹿力なんだ!」
「お前が盟主ね。言い訳は聞かない。処刑」
「はい、陛下。御心のままに」
「ま、まて……あひっ!?」
処刑は、隠れていたコレを捕らえ、私の前まで強引に引っ張ってきたガロー辺境伯が行なった。綺麗な切り口。噴き出す熱い血飛沫。重く転がる首。
処刑後、片膝をつくガロー辺境伯。
「……ガロー辺境伯。この国、丸ごと欲しい? 欲しいならあげるよ」
「はい、いいえ。ワタクシめにはちと手に余る広さでございます」
「まあー。連合国の形を取って、領土だけは広いもんね。なら、搾取用の小国をいくつか与える感じで良いかにゃ? 数年間の統治準備資金も用意してあげよう」
「ははっ、謹んでお受けさせていただきます! ありがとうございます!」
「残りは帝国直轄の隷属領にしようっと。マリーの下僕もここで飼うと良いよ」
「また広い土地を得たわねぇー」
「内外への見せしめ用だからね。最初にガツンと態度を表せと君主論のマキャベリも言ってるから。愛される王より、恐怖される王になれってねー」
「うん……私の可愛いカミラがこんなにも強い皇帝ぶりを発揮しちゃって……」
「普段のぷっぷく生活と魔帝の顔と使い分けるのにゃ。おうちに帰ったらまたちゅっちゅしよう。血を一杯見たせいで、オンナノコが疼くのにゃー」
「えっち大好きだものね」
「マリーのこと、大好きだから。好きな人とちゅっちゅほど幸せはないにゃし!」
「うふふ……」
ばさりと淫魔翼と尻尾を展開する私たち。
手と手を恋人繋ぎにして、キスを交わす。
足元には首だけになった連合国盟主。名前はもう忘れた。どうでもいい。
この一連で、スレイミーザ帝国が存在するリーン大陸のすべての国家は再び思い知らされた。自分たちは、国家としての存在をこの帝国に許されているだけだと。
歴代最強魔族皇帝――魔帝、カミラ・マザーハーロット・スレイミーザ4世が世界的に認知された瞬間だった。それは味方には頼もしく敵には恐怖の象徴となった。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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