第223話 うたげはバチクソ派手に
作者警告。今回はそこそこエグいです。
悪趣味な総黒曜石の祭壇。召喚陣の真ん中で私とレミリアードは召喚されていた。
見渡せば大観衆。数万人は収容できるサッカースタジアムのような建造物。
彼らは人間ではなかった。一つ目の、巨人たちだった。
召喚された私を『邪神』として崇め、シュプレヒコールしてくる。
またロクでもない召喚に巻き込まれたらしい。召喚中にまた召喚とか、ないわ。
私、冷静にげきおこ。
少しだけ本気で、こいつらをしばき倒す決意をする。具体的には、喰う。
静かに、高らかに大罪権能を使う。そう、『暴食』を。←今ここ。
――ぎしっ、と空間が一瞬、しかし誰の目にも明確に歪んだ。
刹那。
ぐわっ、と真っ黒な肉食獣の口腔染みた奈落が地面から突出する。ばくんと
それは、お前を(性的に)食べるためさ!
(性的は)嘘ですぅ。普通に狂信者たちを
あ、でも赤ずきんちゃんはわりと好きです。可愛いし、血も美味しそうだし。
まあ、ともあれ暴食で丸呑みだね。何でも食べる。好き嫌いはない。
ニートであろうと怪物であろうと核廃棄物であろうともぐもぐ食べ尽くす。
大罪権能の暴食は、対象を食べれば基本的に細かく素粒子レベルまで分解、やがてはエネルギーまで還元、私の中へ強化吸収されるのだった。
一応、食べ分けもできる。
後で飲み込むか、今飲み込むかの違いでしかないけれどね。それで生贄となった可哀そうな女の子たちは暴食の奈落の中でも消化せずに保存ができるわけで。
この件が落ち着いたら――
私を召喚するために生贄となった彼女たちを、せめて弔ってあげよう。
そして混沌たる私へ還れ。無に還れば転生もなくなる。脱輪廻。素晴らしい。
それはともかく、お残しはいけないね。……そうでしょう?
出された贄は、なるべく食べてしまわないと。
オレサマ、オマエ、マルカジリ、なのよ。
そも、生贄の多種多様な少女たちだけでこの私が満ち足りるわけがない。
狂信者よ。お前たちは私を召喚をした。無礼千万である。まして私を邪神などと。
その罪、万死に値する。どこへも逃さない。必ず食い殺してあげよう。
もうお前たちは、私の舌の上。
召喚陣を据えた(私が現在いる場所)スタジアムは一変して阿鼻叫喚の様相だった。
あはは。逃げろ逃げろ、逃げ惑え。どうせ無駄だよ。その努力は実らないから。
さながらそれは神々の宴のよう。殺戮の宴。弱き者を文字通り食い物にする。
迫る死の恐怖に顔を歪め、逃げ惑う単眼の巨人たち――もとい狂信者たち。
愚者を踊り食いする暴食という名の奈落。いくらでも入る。いくらでもイケる。
ばき、めき、ぐしゃ、もぐもぐ。がじがじ、がりっ、ごりっ、もぐもぐ。
ごりゅ、ぐしゃ、めきめき、ぐしゅ。めきめき、ごきん、ばりぼり、もぐもぐ。
骨の折れる音が管楽器の重奏のように。噛み潰される身体がハミングしてくる。
肉が裂ける、悲鳴が上がる、そうか、これが一部で有名な
ごりっ、めきっ、もぐもぐ、ばき。ごりっ、めきっ、もぐもぐ、ばきぼきごきん。
めきめき、ごきっ、もぐもぐ、もぐ。めきめき、ごきっ、もぐもぐ、もぐ。
心の臓が踊り狂う。大型肉食獣かくありき。血まみれの食事風景。
美味しいかい、私の暴食。気に入ったかい、私の暴食。たんとお食べ。
とめどなく上がる悲鳴のシンフォニー。絶望の断末魔。苦痛と恐怖と血飛沫。
(悲鳴は苦痛に満ち満ちて言語化が不可能。沈黙こそが唯一の救い)
「わ、我らが、神よ……」
「……話しかけるな、無礼者」
「申し訳ありません。で、ですが……ど、どうしてこのような」
「お前のやり口が気に食わない」
「い、生贄のをなごがお気に召さなかったですか? をのこのほうが……?」
「それもある。イチイチ殺すな勿体ない。でも最大の罪は、私を召喚したことよ。のみならず私を指して邪神呼ばわいが許せない。こんな屈辱、ちょっとない」
「な、なぜに……?」
「頭、空っぽなの? 仮にお前が召喚されたとして『伝説のアホを呼び出したぞ!』って召喚者に言われたらどう思うのよ? 何が『邪』神よ。侮辱しすぎよ!」
「……!!」
「お前には罪と罰を与えましょう。私を
「か、神よ……うぶちゅっ!?」
私は、私を召喚したと思われる単眼巨人の司祭の首を手ずから捻り落とした。
ぴぴっと青い血が頬について、口の中に入る。ぺろり。意外と味は悪くないわね。
「ふむ、これで意外と若くて童貞だったと。オジサン童貞の血はマズいからね」
「か、彼らは異界の神を祀る、女神ドルメシアスさまの敵対者です! 未だ一定の勢力を持つ魔の軍勢! 単眼の巨人司祭の存在がその証拠です!」
「へえー。じゃあリスリジェアスがいないのは、彼らの領域に入ったからなの?」
「それは……なんとも言えません。が、単眼の巨人司祭の話は昔話しにも出てくるほど有名な話なんです! きっとここは遥か西の、魔の孤島なんですよ!」
「……そっか。一応、想像魔法『空の雫』で詳しく検索してみるわ。世界そのものを跨いでないのはわかったので、座標さえわかれば帰ること自体は簡単だから」
一応この世界にもビーコンを立てておこうかしら。……ともかく、想像魔法『空の雫』を行使する。しばし沈黙。その後、ふむ、と頷く私。
「たしかにこの惑星はリスリジェアスの管理する惑星ね。ただし遥か西ではなく、南半球の
「
「具体的には、南緯48度52分5秒、西経123度23分6秒の南太平洋上ね」
「そこに私たちがいると」
「そうなるわね」
私は暴食権能を振るい次々と邪悪な狂信者を食らって行く。
宴もたけなわである。いくらでも食べられる。なんでも食べられる。
召喚された腹いせに、猫が獲物をいたぶる様相でじわじわと狂信者たちを追い詰めていく。なお、絶滅させるつもりはない。恐怖を告げる語り部が必要だから。
「んっふっふっ……」
「ママ、凄い悪い顔してる」
「やられたらやり返すのよ。二度と相手が立ち上がれないくらいにね」
「は、はい」
「大切なのは、半端はダメってコト。やるときは一気にドカッとやりなさい」
「はい」
とかなんとか、
「……あら?」
「どうされました、ママ?」
ゴゴゴ、と私由来ではない魔力と神気の変調を一帯から感じ取ったのだった。
かなり以前に語った通り、吸血鬼とは『地霊』であり『魔力』の塊なのであった。
ゆえに鏡に映らない。実像が特殊だから。デジカメだと私はきっと映らない。
望めば霧に、狼に、蝙蝠に変怪する。数、規模も才能次第で自由自在。
そんなこんなで、私は明敏に魔力と神気を感じ取る。
レミリアードは吸血鬼初心者なので、まだこの機微は感じ取れまい。
……そうね、この魔力と神気。レベル自体はそう高くないわ。
せいぜいが200~300億レベル程度。もちろん人間目線では途方もないレベル。
『――捧げ物。大量の血。潤沢な神気。我、一万年の時を経てこの世界に帰還せり』
元がどんな色で、どんな形状だったのかわからないボロボロの装束の青年が立っていた。黒髪頭はボサボサ、目元は隠れ、肌は荒れ放題。まるでホームレス。
「何こいつ。……かなり臭うんだけど。真夏の剣道部部室みたい」
『……うおっ!? び、びっくりしたっ!!』
「……本気でビクってなってるし」
『わ、我は女神とこの星の覇権を争った者。名をAAIIIInEERRRgGGAATTT……』
「ああ、いいわ。要するに敵ね。早速だけど、死んでくれる?」
『待て待て待て! 我が不審者なのは自覚している! が、我はコトを起こすつもりはない! もう封印はうんざり! お家帰る! つーか、リスリジェアス! あのロリっ子狂犬! あいつ、手段を選ばないからムチャクチャなんだよ! 怖い!』
「戦意がないならあなたを見逃すのもやぶさかではない。むしろ、それならそれであなたのかつての状況を知りたいわ。何なら多少の支援をしてあげてもいい」
『そ、そなた。優しいな……』
「そうよ。敵対しない限り私はとても優しいの」
『……でもその前に、なんか凄いことになってないか、ここ。我の子たちが喰われているんだが……いや、一万年経っていればもう我が子たちも世代交代を繰り返して当初の子たちはもはやいないのだが。……あっ、なんか変にハートブロークン』
「失恋してどうするの……」
『似たような感じ?』
「……いいわ、それで。現状を伝えると、私を喚び出した罪に罰を与えただけよ」
『うわ、こっわ。ちなみにどんな権能を?』
「暴食の権能からの、最終的な行く先は混沌の中かしらね?」
『……えっ。こ、混沌って……その……宇宙の外に無限に広がる……?』
「真空とも言うわ。私、混沌の顕現体だし」
『げぇっ、関羽!?』
「なんでそんなネタ知って……っええ!?」
とツッコミを入れるや否や、彼にとっては本気も本気だったらしい。
白目を剥き、口から泡を吹いて背中からびたーんっと倒れてしまったのだから。
「なんなの……この、あー。名前、聞いてなかった。えーと、鑑定。……インリガシィセン? 変わった響き。略してインガくんでいいわ。因果のインガくん」
暴食によるウタゲはまだ続いている。
それとは関係なく――
いえ、関係あるのかしらね? 一つ目巨人を我が子たちと言ってるし。
ともあれ。
なんの因果か、封印されていたらしいインガくんは復活を果たしたのはいいが。
私の正体を知るや否や目を剥いて気絶してしまっていた。
「おーい、大丈夫かー?」
「……ぶくぶく」
「うーん、だめだこりゃー」
さすがにちょっと心配するわ。口からカニみたいに泡を吹いてるし。
私は、地面に落ちていた棒切れで彼の頬とか脇腹をつつくのだった。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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