第143話 商業都市パーセク防衛戦 戦闘中
「矢を射れるものは矢を射れ! 魔術が得意なら魔術を放て! スキルは出し惜しみするな! 貴君らの能力は聖女バフによって10倍に上げられている!」
「「「「「応ッ!」」」」」
勇者セラフ、初手からいきなり奥の手をぶっぱなす。
彼のチート『
まあ、すべてはシナリオ通りなのだけど(幼女、計画通り悪人顔)。
知っての通り――
何せこれ、私プロデュースのマッチポンプスタンピードなのだから、ね。
現状報告!
最初に語ったようにセラフの初手チート能力によりスタンピード魔物は半々に分断された。その魔物どもに対応するため、こちらも二手に分かれる。
東に勇者セラフ率いる防衛隊を。西に聖女役のママ氏率いる防衛隊を。
そして戦闘再開。スキルで胸壁より雨あられの如く降り注ぐ弓矢と攻撃魔術。
夜晴れ。ところにより弓矢&攻撃魔術の豪雨。魔物ども死にまくり。
えっ? いくら十倍能力バフで強化されていても、こちらも敵に合わせて分かれちゃダメって? 各個撃破されるって? うんうん、確かにそれは正論だね。
だけど忘れないでほしい。これは、マッチポンプなのだから。
プロデューサーは私。つまりスタンピード魔物側の、真の指揮者は私なのだ。
自作自演万歳!! 攻めも守りも、塩加減はお手の物なのにゃーッ!!
みゅふふっ。
というわけで、ポテチ片手に安心して戦闘観戦と洒落込もう。
まずは勇者セラフの方を見ないとね。ママ氏はものすごく強いから心配ないのよ。
彼は東側の街を守る壁の、その胸壁最前部で指揮を執っているわけだけど……おっと。彼、なんだか異様に長い、物干しざおみたいな刀を天に向けて掲げてきたね。
銀光の刀身がバチバチと帯電を始める。ややあって彼は刀を袈裟懸けにするりと振るう――と、同時につんざく爆発音がどっかんどっかん連続で炸裂する。
ただの爆発ではない。これは雷か。轟雷に次ぐ轟雷ってヤツだねー。
アレだね? ギ○デインかな? 雷系魔術を使うとはホント勇者っぽいね。
その威力はなかなかのもので前方一帯の魔物どもをすべて高電流で焼き焦がした上で発火、爆発四散させるほどだった。アイエエエッ、サヨナラ! なのである。
「セラフ、やるぅー!!」
観戦する私も熱が入ろうもの。鼻息が荒くなるよ!
鑑定してみる。対象はあの異様に長い刀。想像魔法『不思議な第三惑星』発動!
入神雷刀『
勇者特権セラフ専用武器。刀身部、240センチ。通常の刀の約4倍。
1時間に一度、任意に雷を落とせる。雷光速度『150km/s』ほぼ回避不可能。
……なるほど! タケミカヅチかぁ。色々とネタが混じっていて面白いね!
ふむ、あの物干し竿が雷刀ね。ふーむ、ふむ……。
私はダンマスを支配する『魔王』特性を持つためか、ムクムクと『勇者』に対する妙な対抗心を持った。こう……格好良いのは確かなんだけど、悔しいというか。
ポテチを摘む右手を、上へと掲げる。
「みゅー!『EL・DO・RA・DO!!』作っちゃうもんねーっ!!」
私はポテチを触媒に一振りの鉄塊みたいな長刀を、想像魔法にてクリエイトする。
魔神雷刀『
武御雷ではない。武甕槌神である。
モデルは某クラウドくんのバスターソード。刀身180センチ。それはまるで鉄塊のような――もはや、刀と呼ぶべきか、鈍器と呼ぶべきか、大雑把な片刃武器。
装備者に魔神じみた怪力を与え、刀身は木気が常に纏い、力と質量と雷で敵を粉砕する。まさに
「えっ……!? な……使徒さま!?」
「にゃははっー! ぶんぶんぶーん! つよいぞー! すごいぞー!」
「あ、危のうございますッ、使徒さまッ!! お部屋で暴れると、危険ですっ!」
困ります!! 困ります!! 使徒さま!! 困ります!! あーっ!! 困ります!! 使徒さま!! あーっ!! 使徒さま!! 使徒さま!! 使徒さま困り!! あーっ使徒さま!! 困りますあーっ!! 困ーっ!! 使徒困ーっ!! 困ります!! 困りさま!! あーっ!! 使徒さま!! 困ります!! 困ります!! 使徒ます!! あーっ!! 使徒さま!!
「にゃー! じゃあハンス、これあげる! 使用者権限をハンスに移譲っ!」
「えぇーッ!? こんなの困ります使徒さまっ!?」
作った鉄塊みたいな刀(?)をひとしきり振り回して満足した私はハンスにプレゼントしてしまう。驚くハンス。でも受け取っちゃうハンス。見た目に反してめちゃくちゃ軽いことに驚愕するハンス。ただそれは刀に付与された剛力能力であって、実際重量は500キロ超えのため取扱注意だよ。ちなみに主素材はタングステンだよ。
「今日から武闘派枢機卿にゃ!」
「あー、えーっと……ど、どうしたものやら……」
「と、ここでダンジョンコアを使って街に急速雨雲召喚! ヨウ化銀弾爆破! ゲリラ豪雨にゃー! そんで極伸長冷却ッ! 南極もびっくり冷凍攻撃にゃー!!」
「ちょ」
「発動……はつど……あれ? 不完全どころか不発……? 小雨がしとしと?」
「使徒さまだけに、しとしと?」
「そうそう……って、違うにゃ! またママに防がれたにゃ! すっごい!」
一体、どうやってこちらの行動を察知しているのだろう。ほとんど超能力だね。
ちなみに私がやったのは一帯の空気を極限まで希薄にするモノだった。圧縮されれば分子の影響で熱を持つ。反対に伸長(膨張)させれば分子の影響で冷却される。
どうやったのか推量の域を出ないけれど、私の行動を瞬時に察知したママ氏は大量の空気をその場に召喚したのかもしれない。そうすれば圧縮比は大まかとはいえ相殺されるだろう。併せて雨を呼ぶヨウ化銀弾爆破効果も押し出されて霧散する……。
なんだかもう、わけがわからなくて、変な具合に感動すら覚える。
この気持ち、あえて言葉にするなら。
「大好きなママのおっぱい吸いたいにゃ!! モミモミチューチューしたい!」
「えぇ……」
突然の発言にハンスは若干引いていた。でも、私はお子様だから良いのだ!
……映像では東壁を担当する勇者セラフは100万体の魔物の約半数、50万体を相手にしてなお防衛に適応し、兵たちを的確に指揮して見事に戦い抜いている。
勇者セラフは
「よし、セラフ側はこれくらいにしてママのいる西側を見ようっと」
私は、にゃーと口づさみつつママ氏サイドに映像を切り替える。正直言って、結果は既に見えている。セラフ側を支援しつつ戦っているくらいだからねー。
「え……これは……」
「みゅふ? ママたち、剣とか鈍器を手に踊ってるにゃー」
ハンスが絶句する。彼の側近たちも同じだった。ありえないものを見る感じ。彼らの口はパカンと開いたまま戻らない。私は小首をかしげてまずは観察に入る。
ママ氏と西担当となった防衛隊は、ほぼ全員が壁外に出ていた。そして、綺麗なステップで緩やかに踊っていた――剣舞に近い動作で、魔物と戦っていた。
その一歩で敵に近寄り、半歩分すり足で敵の攻撃を紙一重で見切り、一歩前に出て一撃で敵を屠る。見た目は緩やか。だがそれはすべて未来予知の如くのもの。
「まさかの絢爛舞踏祭にゃー」
たぶん聖女スキルなのだろう。
しかし恐ろしい。
一分の隙もない動きの一つ一つが。
必殺を作り上げている。
せっかくなので想像魔法『不思議な第三惑星』で鑑定してみる。もしかしたら、状態異常枠(ある種のバフ)に書き込みがあるかもしれない。
聖女スキル『聖戦輪舞』。
その一歩は無駄なく敵に近寄り、その一歩または半歩であらゆる攻撃を躱し、その一歩で確実に敵を倒す。まるでそう、輪舞をするかのように。
注意点。
このスキルを受ける者は自らの寿命を削って自らを助ける。消費される寿命は聖女の練度に上下される。神の恩寵が最高に深い聖女なら消費はほぼゼロになる。スキルが有効される間、圧倒的レベル差や必中スキルでもない限り敵の攻撃を紙一重で躱し、そして必殺の一撃を常に繰り出す。素手でも良いが武器があればなお良し。
……あまりにもヤバすぎるスキルで冷や汗が出る。聖女ってもっと穏やかなスキルを持つのかと思えばとんでもない。めちゃくちゃ凶暴じゃないのさ。
この聖女、凶暴につき、だわ。
世界が違うけど、私を愛した聖女アリサも、もしかしたらこのスキルを持てたかもしれない。……そりゃあ魔王討伐に勇者と聖女がセットにもなるね。
「こら!
「「「「「「「オス!!」」」」」」」
母音の強いイントネーションでママ氏は兵たちを叱咤する。関西弁……ではない。もっと西の、土佐辺りかな? テンションが上がって地の言葉が出ているようだ。
「にゃー。アンチバベルでも土佐言葉は土佐言葉のままなのよー」
凄いな、土佐。たぶん薩摩言葉もあまり変換されない気もしないではない。
しかし、それよりも。
本当に剣舞を見ているようで怖い。
くるりとステップを踏んだら数体の魔物が絶命しているのである。しかもそれが防衛隊全員で殺戮を繰り広げられている点がミソとなる。控えめに頭おかしい。
「「「「アッー、アッー!?」」」」
ほら、ハンスたちがもはや頭の処理が追いつかなくなって変な声上げてるし……これはチャンネルを勇者セラフサイドに戻したほうが良さそうかも。
「絢爛舞踏は人が人であることを極めた一境地にゃ。英雄の世界ともいう。その気になればお前も成れるよ。だから落ち着くにゅ。ほら、お茶でも飲むの」
「アッー!? ……はあはあ。なんですかアレは!? とても人の動きでは!!」
「ソレはそういうものにゃ」
「ワシ、人の限界を超えた世界を見ちゃった……もうお婿に行けない……」
「婿って……」
この人の思考形態も大概人間離れしているよなぁ、と思うが口には出さない。
……あっ、そういえば。ハンスに今後の展開の話をするの、うっかり忘れてたわ!
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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