第97話 リキ・ドーンフレア王子は狼狽する
バニーなハーフバンパイアでしかも男の娘といういささか属性の詰め込みが過ぎる少年――アルカード・ラピスは魔族王国の第三王子だった。
その正体は、私と仲良くしたい一心で股間の一物を変怪で無くして女の子化したマザコンで男の娘のダンピール、アーカード・ドラクロワ伯爵子息という無情な事実。
アルカード=アーカード。名前が似ているので覚えやすいったらないね……。
とりあえず彼がどんな格好をしているか言っちゃおう。かなり凄いから。
アーカードは白の流れるようなサラサラロングヘアだった。
一方、アルカードの雪兎を連想させる白のマッシュルームカットとくる。
そして吸血鬼ならではの血を想起させる赤い瞳――と思いきや、白兎のアルビノアイの可能性もあるのでこの瞳についてはなんとも言えない。そもそもアルビノアイは虹彩に色素がなくて、身体を巡る血の色がそのまま表面化したものでもあるし。
それよりも、ウサ耳である。
白くて長いウサギの耳。超絶きゃわいい。
人型の耳もついているらしいが(つまり彼には耳が4つある)髪で隠れている。ウサ耳は飾りではなく、精霊の声を聴くためだと前世記憶に残っている。
黒に赤のラインが特徴的なハイレグレオタード風ドレス。一応、黒のチュールミニスカート付きだけど透け透けなので意味がない。両肩口に浮いて留まる魔道具ショルダーガード、短めの赤マント。黒のニーソックス風タイツ。黒のラバーブーツ。
エロい格好だわ。スマホゲーの客寄せ用きわどい衣装の美少女みたいな恰好。
よく見ると股間が微かにもっこりしているね。おや、変怪で消さなかったのか。
胸は男の娘らしくペタンコ。
と、思いきやA……いや、ギリギリBカップはありそうな膨らみが。
ぐぬぬ。男の娘のくせに、なぜゆえ。こちらでもそうなのか。
我が幼女ボディでは胸の大きさなどむべなるかな。大人モードになればむしろ乳と表現すべきHカップおっぱいとなって足元は見えないわ重いわ肩を凝るわなのに。
ともあれ。
男の娘なのにおっぱい作るなYO! 後でイタズラするぞ! むしろ今! なう!
――おっと、違う。そうじゃなくて。私の秘密の性癖を抑えないと。
私が言いたいのはおっぱい脱線話ではなく、ここからが大事な点であって。
リキ・ドーンフレア王子とアルカード・ラピス王子の関係性について触れたい。
実は……彼は、男の娘のアルカードに密かな恋心を抱いている。
ホモセクシャル? いや、この場合はBLと称すべき。ホモとか汗臭そうで嫌。
これは公式設定であり、エロゲー世界ならではの健全な(?)性嗜好であった。
なのでというか、作中における
これがまた結構なお手前で、御腐れ女子でなくても『ウホッ』となるのだが……。
しかして。
ゲームではない現実の男の娘アルカード、もといアーカードは年下のちんまい私を指してママとのたまう奇行種マザコンであった。リキになど見向きもしない。
しかも出会うなり眷属の上書きを私に申し込むという国際問題爆弾発言までやらかしてくれる。この子、もしかしなくてもやっぱり歩くボンバーマンかしら。
とりあえずどうするか迷ったので大人モードになり――
さっと私は逃げ出した。
回り込まれました。
「ママ、どこへ行くの? ボクはママのいる場所がボクの居場所だよ」
「わたしはあなたのママじゃないの。それに、お互いに目的があるでしょう?」
「ボクの目的はママを探し出すことだよ」
「あー、うーん」
あまりにも迷いなく真っ直ぐな目で見られてたじろぐ私。
マッシュルームカットのウサ耳美少年、もとい男の娘とか破壊力あり過ぎるわ。
ああ、ナデナデしたい。いや、何言ってるの私。
「ママ、行かないで」
「う、うーん……」
「ママ……ボクたちと合流、しようよ。……ね?」
もちろんここでアーカードと合流してしまってもいい。
しかしそれでは当初の目的が遅れてしまう。すでに遅れがちなのに。
今回の目的は知っての通り。私は聖女一年生となったアリサと、吸血鬼一年生のフォーリタインの二人に力の使い方と戦い方を教導せねばならないのだった。
しかし……むう……可愛いは正義……可愛い男の娘は性癖に刺さる……。
負けました。
なんでやねんとお思いになるかもしれない。アナタも思えば私も思う。
が、作中の彼の初出は、初顔合わせなのに妙に懐かれたアルカードの頭をモフるというケモナー垂涎の心温まるシーンなのだった。それを今思い出した。
作中に聖女が彼に懐かれる理由は、私の因子にあった。
聖女因子の元々の持ち主は誰だったか。そう、トリュファイナ。聖女因子とはいえ魔女の体内にあったもの。アルカードは魔族だった。聖女因子の陰にある本当の強烈な因子――魔女の因子を嗅ぎ取って、ほぼ無意識に懐いてしまったのだった。
単なるエロゲーの癖して、設定が思いの外細かくなされているわけで。
ただ、そういうのをまったく無視して、アーカードは私の元へまっしぐら。
ここまで懐かれて打ち捨てるとか、どこの鬼畜なのか。少なくとも私には無理。
「……わかったわ。合流しましょう」
「やったあ!」
というわけで、ちょいとごめんなすって。
彼をお姫様抱っこにする。素直に抱かれるウサ耳男の娘のアーカード。
「大人ママに抱かれるのも、好きぃ」
「そうだねー。だからわたしにナデナデされなさいよねー」
「はーい」
「ウサ耳の男の娘ってほとんど反則よね。可愛いったらないわ」
モフモフ、ナデナデ。
「ママぁ……ボク、優しいママンのこと、だいしゅきぃ……」
いい感じに洗脳(?)されてきたアーカード。元々の人称は僕っ子だったが女の子版ボクっ子のようになってきた。うひひ。美少年はみんな男の娘になればよい!
と、自前の歪んだ性癖はひとまず横に置いておくとして。
色々と考えて、情と欲望と理性のバランスを取ったと建前を立てておく。
情はパパの眷属の子であり、血族でもあり、知らない仲でもない子だったから。
欲望は……もう知っているだろうから語らない。私の性癖の問題だし。
理性は、この世界を早くクリアして元の世界へ帰る最短距離への思考を指す。
特に理性は何が一番大切で、今何を成すべきかに重きを置いている。
先ほども言ったように、現時点での最優先は新米聖女アリサを早く一人前にすることだ。次点で新米吸血鬼フォーリタインの力の制御を覚えさせること。
しかしここに、二人のゲーム内主要キャラが現れてしまった。
特にアルカード・ラピスの中身は私の知るアーカードであること。
……アーカードはもう、私から離れないだろう。奇行種のマザコンであるし。
となれば、彼を御してその上でアリサとフォーリタインを鍛えるしか道はなさそうだった。それに一緒にいて触れ合っていれば『眷属替え』の欲求も抑えられ……は無理だろうとしても変な場面で国際問題発言を防げる……かどうか微妙だとしても。
うーん、出会った以上は野放しにしているよりかはマシかな思ったわけですよ。
……という建前を立てたわけで。誰に向かって? それはこの世界に向けてだよ。
はあ……頭が痛いわ。
でも、ウサ耳って良いよね。(現実逃避)
私はアーカードもとい男の娘ウサ耳ハーフバンパイアのアルカードの頬に優しくキスをする。そして、そっとお姫様抱っこから降ろして、立たせてやる。
手を繋いでほしそうに見つめるのでそのようにしてやる。アーカードは女の子みたいに絶妙な内股で、しかも幼い子どものように親指をしゃぶり出していた。
洗脳(?)が進んで幼児退行まで起こしたかもしれない。
甘えん坊の基本は精神の退行にあるとか、ないとか。
もういいや。ならばそのまま甘え好きな女児化してしまいなさい。
おっと、アリサが空いたもう片方の手を繋いできた。こっちは指を交差させる恋人繋ぎを敢行してくる。15歳の少女のようで、実際は10歳女児にしか見えない彼女。
甘えん坊が二人も出来て母親の気持ちを満喫する。二人とも可愛い。(現実逃避)
ちなみにフォーリタインはニコニコと微笑みつつ一連を見て楽しんでいて、実はずっと一緒だった死神のサンズはウブ過ぎて明らかについていけない御様子。
変態小公爵とウブな死神様の対比ときたら、どうだ。
まあ、私が一番ロクデナシなのは言うまでもなく。自覚してます、はい。
「な……なんなのこれ……」
リキ王子が、うつろな目でこぼれ落とすように声を発する。
「突然なんなのですか……あなたは。幼女だと思ったら大人の姿にもなるし」
「わたし? わたしはトリュファイナ。エニグマ侯爵家の娘。同時に魔女でもある」
「く……魔女は聖女と違って王権が届かない……でも……私の……」
「私の?」
「私の大切な人を返せ!」
「大切な? アーカードくんが?」
「アルカードだ。初めて出会ったときから、彼女が、す、好きだったんだ……っ」
「ふぅん? あなた、男の娘を女子と認識するのね。素敵な捉え方ねぇ」
「だから、返せ!」
「……好悪は個人の自由よ。それこそ王権は届かない。貴族は義務的に好きでもない相手と婚儀を結ぶけれど、愛する人まで義務的には決められない」
「美少年同士のBLって心が踊りますよね、お姉さまぁ」
「本当の現実では見るに耐えなくてもね。花のような美少年はレア中のレア」
「うふふ。だからこその非現実なBLに夢を見ちゃうのですよ~」
「そこっ、黙れ!」
「……いいわよ、話を聞いてあげる」
「だから、わ、私と……決闘しろ! アルカードを賭けて! 決闘を!」
「アーカードくんは所有物じゃないわ」
「ボクはママのモノになりたい」
「ここでそれを言っちゃうと話がややこしくなるから、少しだけ黙っててねぇ?」
「うん、ママ」
「……負けたら、私はあなたの忠実な下僕となろう! そう、咬んで良い!」
「熱いわね。……まあいいわ。受けましょう。魔女の戦闘力に勝てるものなら」
「「「「「お、お待ち下さい!」」」」」
割り込んできたのはリキ王子の分隊隊員たち。多分彼の従者たちだと思われる。
「王子殿下は少しばかり興奮により正気を失っているご様子。トリュファイナ侯爵令嬢殿。どうか、ひらに、決闘はお断りくださいませ! ひらに、ひらに……っ!」
「あなたを想う忠臣がそう言ってきてるわよ?」
「ダメだ。トリュファイナよ、あなたは既に決闘を了承した!」
「……だ、そうよ」
「あああ……そんな……戦闘力の塊の魔女に決闘を申し込むだなんて……」
ちなみにアーカード側の従者は、私謹製、彼の男の娘メス化調教を目の当たりにしても冷静そのものだった。もちろんこれには理由がある。しかし今はそれどころではないので後日に持ち越そうと思う。
私はアーカードとアリサを背後に退避させ、ゆらりとリキ王子と向かい合った。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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