第84話 ユグドラシルギルティ
『――Eclipse。シナリオ難度を考慮。当該者の肉体をカミラ・ノスフェラトゥの御霊に合わせるため作り替えを開始……魔神皇ボディ移植……吸血鬼化……完了。カミラ・ノスフェラトゥの御霊を降霊。定着まで待機……完了。階位、星の太祖』
目が覚めると、知らない天井だった。
暗い部屋。魔導陣。等間隔に立てられたロウソク。怪物を模したオブジェ。充満する抹香の匂い。そして、ローブを目深に被った術師と思われる不審者たち。
なんとなく事情を察する。またこのパティーンかYO。
私は即時、自らに置かれた状況を呑み込む。
どうやらまた転移したらしい。
さて、今回はどこへ飛ばされたのやら。
「バカな……因子を取り上げれば、反動で母体は絶命するはずでは……?」
全員が黒のローブ姿の、即時職務質問級に怪しい人たちの先頭。
フードを取り払い、切迫した様子で、知らないおじさんが呻いている。
というか、さ。
手足を束縛されてしんどいのだけど。え、何? そういうプレイ中なの?
私は後ろ手に荒縄で拘束されていた。足も厳重に縛り付けられている。
しかも全裸。ミーナちゃん以来、再び全裸かYO。すっぽんぽーんのぽーん。
子どもだから平気だけど、そろそろ異世界からアグネス的な児ポ法に睨まれそう。
意外と余裕がある? そりゃあ当たり前だよー。
いったいこれまで何回転移していると思っているのさー。
非現実な日常も、繰り返せばそれはただのつまらない日常になり下がる。
ふむふむ。
どこかで見たようなワンシーンなのは気のせいか。いや、実体験はしていないが記憶にあるようでないような、妙ちくりんな気持ちが脳裏に浮かぶのだった。
まあ、このままではあまりよろしくなさそうなので。
私は霧化して束縛から脱出する。それに驚嘆する変なおじさん。おや、この人。吸血鬼っぽいな。血族の匂いはしないけど同族の血の匂いを感じる。
「き、きさま……トリュファイナ!! なぜ変怪できる!? お前は人間のはず!」
「トリュファイナ……?」
どこかで聞いた名前だけど、思い出せないな。えーと、何だったか。はてさて。
とりあえず現肉体はカミラ・ノスフェラトゥの幼女ボディではないと理解。
「こ、こっちへ来るな化け物!」
変なおじさんではなく他のローブの術師たちが一斉に呪文を唱えだした。
その数、10名くらい。
否応でもわかる。呪文内容は分からないが単体で唱えるならともかく、数を揃えてと言うなら。なるほど、私を牽制ではなく確実な殺害を前提としているらしい。
「こちらに攻撃を加えるということは、逆襲されても文句は言わないよね?」
半歩。縮地。詠唱中のローブ術師の目の前へ征く。そいつの首筋を手で掴む。指を肉に刺し込んで吸血する。空腹感もあるし、ちょうどいいファストフードだ。
「不敬罪で吸血&エナドリ執行!!」
一瞬で鑑定して死の一歩手前までレベルを吸う。約70レベルを得る。ついでにレベル上限も吸い尽くす。約1500レベル。この弱さ。どうやらコイツは人間だね。
吸いカスは、味の抜けたガムみたいにポイとその場に捨てる。
ちなみに噛んだガムは、包み紙にくるんでからゴミ箱へ。私との約束だよ。
「こ、こいつ……っ」
私の吸血行為に動揺するローブの不審者たち。
なんで? 覚えはないけど
吸血鬼は人の血を吸うから吸血鬼なのよ?
当たり前のことを言わせないでほしい。こっちが恥ずかしいよ。
なので、みんな、私の糧になれ。突撃隣の晩御飯ならぬ突撃オマエが晩御飯!
「アハハッ。弱き者、汝の名は人間。あと弱い吸血鬼よ!『権能、暴食』発動ッ!」
私は宣言する。有効範囲はこの儀式部屋と思しき全体。全体吸血してあげる。
「弱くても活きの良い食事は好きよ。できれば童貞の男の子の血が吸いたいけど。さあ、吸血、吸血! エナドリ、エナドリ! レベル上限も奪う!」
一人を除いて平均70ほど。人間にしては頑張っているレベル。
不審者ローブたちは11人いた。フードを外して呻いていた変なおじさんは同族みたいなので人間のみを換算して10人。大体700レベルを奪う。
そうしてから、せっかくなのでフードを外して呻いていた
700+3300=4000。
元の私のレベルは2100。計、レベル6100。
――と思ったら、この身体は自ら吸血鬼に転じた生まれ変わりらしかった。
吸血鬼固有スキルと権能のおかげで軽く危機を脱したが、実は紙一重だった。
何せ、初期レベルがたったの15だったから。
どうやらこの肉体、ビカムアンデットで吸血鬼化した直後であるらしい。
でなければこの弱さ、有り得ない。
吸血鬼が人類などを眷属化した場合、元となる吸血鬼の階位に基づいて眷属は自動でレベル設定される。が、ビカムアンデットで自ら吸血鬼化した場合は別。
基本的に生前の能力を元にして、レベル1からの吸血鬼化を遂げるからだった。
ただしレベリングすれば爆発的に強くなれる。
が、鍛えないままだと強さは生前の肉体とさほど変わらないのだった。
もちろん肉体的に弱くても、吸血鬼固有スキルを駆使出来たりその他スキルや権能があればそれで弱さを補うこともできるけれど。
先の通りこの身体のレベルは15。なので、4000+15=4015レベルとなった。
ここからは私専用の強化について、少し。
私の場合『嫉妬』に付随していた権能を使ってしまえばレベルに凄まじい下駄を履かせられた。大人モードは現在のレベルの一万倍となる。インフレが酷い。
さて、私がローブの術師たちを全員ノックアウトさせたところから再開を。
んんー、としばらく考える。こいつらどうしよう。処分に困るな。
死体は探すより作ったほうが簡単。
……よし、下級の、使い捨て眷属化させてしまおうかな!
私はごく微量の、私の吸血鬼としてのエキスを彼らの頭に撃ち込む。
そうすれば奴隷階級の『レッサーバンパイア』がインスタントに出来上がる。
働き次第で正式な眷属に迎えても良い。騎士級か、準男爵級くらいにね。
超頑張るなら貴族階級の男爵級にしてやらなくもない。
同族のおじさんには上書きをする。
子爵級のようなので『色欲』権能で伯爵級に格上げ、忠実な下僕へと変貌させる。
……それに伴い、これはどうしようもないのだけど、奪ったレベルが魔性変化にてどこからともなくレベルが向上、8000レベルとなってしまう。
下僕のくせして私よりレベルが高いとは……まあいいけどね。
私は全裸のまま、すたすたと怪しげな儀式部屋から出る。後にゾロゾロついてくる下僕たち。道すがら、彼らから情報を聞き出す。特に、この世界についてを。
そして私は愕然とする。この世界、私は知っている。
まず、ここは私の住まう世界とは違う世界。つまりは異世界である。
だけど、いろんな意味で、よく知っている世界でもあった。
「まさか女性向け18禁の逆ハーレムゲーム、ユグドラシルギルティ世界とは……」
うーむ、どうも私の前世は女だった確率が高いな。滅茶苦茶やり込んだ記憶がぼろぼろどこからともなく湧いてくる。イイ男たちとスケベやりまくりゲームである。
しかも私のこの身体、そのゲームでの主人公のライバルキャラなのだった。
『魔女、トリュファイナ・アーカム魔族公爵令嬢』
現在はまだエニグマ家の養女なのでトリュファイナ・エニグマ侯爵令嬢だが……。
予想だにしないエロゲー世界転移に、違う意味で自己の身の危険を私は感じた。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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