第90話 シナリオ『1ー1』 王立士官養成学院
「先程も言ったように、このダンジョンの玄室はゲームステージを結構な精度で模しているにゃ。フィールド、敵ビーストの配置・思考・行動パターン、味方ユニットの出現、敵の増援、または敵の逃亡。つまり、実戦そのままの予習が可能なの」
「トリュファイナお姉さまと私のえっちシーンはありますか! 原作みたいに捕らえられてペロッとイタズラされちゃたり! もう私の心はお姉さま一色ですが!」
「なんでソコまで鼻息荒いの……」
「大事だからです!」
「えーと、たしか魔女と聖女の絡みはアドベンチャーパートだったはずだから……どうなんだろう? 聖女が魔女に凌辱っぽい百合系のイタズラされるんだっけ」
「ウホッ、これはいつ来てもいいように勝負パンツを履いておかねば!」
「ダメだこの子(以下略)」
……しつこいのを承知で言わせていただきま
成人指定ゲームがこの世界の下敷きになっているだろうなのはご存知の通り。
つまるところ、どうしてもアレな展開になりやすいのだった。もちろん今回の場合は私も原因の一端でもあり、アリサ自身の資質にも依るのではあるが。
あと、ショーツは下手にランジェリーなものよりも、シンプルに白でリボンのポッチリ付きのほうが男性ウケは良いらしい。これ、なんでだろうね?
その辺どうなの、男性諸君?
……いや、そんなことよりも訓練をしよう。男なんてどうでもいいや。
私たちはダンジョンがダンジョンたるを否定する一本直線道を行き、玄室に入る。
「シナリオ1−1はエニグマ侯爵家の支援を受けて通う王立士官養成学院から始まるにゃ。実際、アリサは回復支援職として12歳から学院に通っているでしょ?」
「はい、お姉さま。前世の記憶が戻るまで、併設された兵学校の兵士たちと毎日回復と指揮の訓練をしていました。記憶が戻ってからは怖くて震えていましたが……。でもお姉さまと一緒なら、私、頑張れます! 愛と百合と凄いえっちのために!」
「あ、うん。凄いえっちのために……」
「あのゲームの聖女と魔女の絡みはどちらかが妊娠しそうなほど激しいですから!」
確かに作中の魔女の、聖女への関わりは一種の狂気じみたものがあった。
そりゃあそうよね。えぐり取られた自分の因子を持つ女の子がいる。
いわばもう一人の自分のようなもの。因子とは自分自身の鏡姿でもあるのだから。
自分自身を愛さない人など滅多にいない。自分が憎いなら死を選べばいい。
だからだろう、魔女はことあるごとに聖女に絡んでは魔女独自の愛し方をした。
聖女(作中の、と一応つけ加える)も自身の心情に不思議に思いつつも受け入れる。
というのも知っての通り、身体に定着した聖女因子は元は魔女のものだったから。
繰り返すに、自分自身の愛情を受け入れない人など滅多にいない。
ただあまりにも歪んだ愛し方であって、聖女は魔女に性的に何度も喰われたが。
……まあ、とにかく。ゲーム開発側の力の入れようが尋常ではなかった。
「はああ……私、妊娠したらどうしよう。そんな、もう、嬉しいよぉ……」
いや、そんな……期待に満ち満ちた目で見られても……私は知らないよ?
これはドン引きですわ。
「そ、それで。シナリオでは実戦教練として五人一組を、士官候補生のアリサ、参謀役の下士官候補生が一人、兵学校の兵士候補生の三人で一個分隊を組むよね。アリサたちは王都城壁外の試練の森手前まで警邏のタスクを教官から与えられ、命令を履行するために徒歩移動、現れる低レベルビーストなぎ倒し、また戻ることになる」
玄室内部は簡素なサンドボックス――箱庭形式に作っている。
普通にただっ広い天井高のダンジョンに最低限表現の草原平野。一本の街道を伸ばし、奥まったところで試練の森を模した森林地帯を広げているのだった。
1-1、序盤戦は街道にちょこちょこと現れる弱いはぐれビーストを倒しながら目的地へ向かう。始まりのシナリオだからと甘く見ると痛い目に遭うので念のため。
戦闘配置準備。アリサを中央に置いたインペリアルクロス陣形を取る。
「目的の場所、試練の森の手前に到着したアリサ分隊は貸与された撮影魔道具で写真を2枚撮る。下士官候補生が撮影したものと、アリサが撮影したものを」
「そうして突然森から現れる手負いの巨大ビーストとイーレン公爵家次期当主と目されるフォーリタイン・イーレン率いる分隊の5人。……ですよね、お姉さま」
「その通りにゃ。でも、今回はフォーリタイン小公爵は出てこない。にゃあたちはシナリオでは彼らの撃退の補助として迫りくるザコ敵の相手をするだけだから」
と、いうわけで状況開始。
私たち二人と一柱と二体はダンジョンに作った人工平原を進む。
「覚えていると嬉しいのだけど、後半戦のザコビーストは森の中から向かって『左右左左右右』と六度に渡って現れる。数は一律4体ずつ。これを討滅するにゃ」
「そしてフォーリタイン・イーレン小公爵から助力の感謝され、併せて自己紹介が始まるのですよね。もはや私にはどうでもいいですけど。どうでもいいですけど!」
「なんで2回も言うのにゃ……ダメだこの子(以下略)」
攻略法を知っている私たちにとって1ー1は至極簡単となろうもの。本来的には雑魚出現パターンを知らないとハードモードを強いられるのではあるが。
行き道のはぐれビーストを討滅しつつ進む私たち。つつがなく目的地点に着く。
これでシナリオ1−1が半分消化された形となる。ね、簡単でしょう?
本来のゲームでは『森の手前イベント』が始まるタイミングでもあった。
証拠の写真を撮る。ぱちり、と。
そうして他愛もない会話シーンが入った直後に、手負いの巨大ビーストとフォーリタイン・イーレン小公爵率いる分隊が乱入してくる突発風イベントが挿入される。
もちろんこのダンジョンではそのような面倒くさいのは省略し、そのまま後半戦にもつれ込む仕様となっている。そういうのは実地で体験してね、と。
なお、経験値は戦闘後一律で各キャラに振り分けられる。課金アイテムの砂時計を使っても同じ。撤退後に倒した敵の数だけ経験値が振り分けられる。
部隊資金(ゲーム内通過)も戦闘後に振り込まれる。これも課金アイテムの砂時計を使った際には、撤退後に倒した敵の数だけ振り込まれる。
戦闘中に得られるのは戦うなどの能動的行動で得られるスキルポイントのみ。このポイントを集めてスキルを得たり上位転職に使ったりもする。
「うん、順調にゃ」
「さすがに1−1ですからー」
「じゃあ、後半戦を始めるね。増援ビーストは左右左左右右の順を忘れずに」
「はぁーい」
と、そのとき。
あり得ないことが起きた。
森の奥から、バキバキと音を立てて――猫系大型肉食獣型ビーストが転がり出てきたのだった。続けざま、五人一組の戦闘集団も駆け出てくる。
「「――はあ!?」」
異常事態。
突如出現した、手負いの巨大ビースト。
それを追うのは……あれはそんな、あり得ない。ここは私のダンジョンなのに?
フォーリタイン・イーレン小公爵率いる五人分隊が、抜身の剣を携えて。
なんで攻略対象キャラの一人が、こんなところに現れるのよっ!?
想定外過ぎて私とアリサは同時に素っ頓狂な声を上げた。
いや、だって、このダンジョンは私の管理下にあって、そもそも巨大ビーストなんて初めから用意していないし、付随する人員も作っちゃいない。
ど、どうなってるの、これ……っ?
私は空を仰ぎ見る。そしてハッとなる。
そう、空があった。気持ち悪い太陽が照っている。ダンジョン内なのに。
そもそも私は幻術で空など作っちゃいないのだ。フィールドは簡素な天井高の箱庭形式で構成されている。必要最低限を地で行く予習空間であった。
それもそのはず。
あくまで戦闘訓練による経験をアリサに積ませて、聖女因子を受け入れる素地を確立させるのが目的で。敵パターンを覚えれば有利になるようにも意図はしたが。
それが、いつの間にか、私たちはリアル郊外の試練の森の前にいる!?
「ど、どうなってるのにゃ……?」
私は今一度、呻くように現状への疑問符を漏らした……。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます