第70話 レベルを上げて物理で殴れ
どうも。カミラ15歳バージョンです。前世では15歳少女とか手を出したら案件扱いですが、この世界では立派な成人女性として扱われます。飲酒結婚何でも来い。
はあ、それはそれとして、自分について。
尻まで伸びたソフトウェーブの銀髪に深紅の瞳。ただし眠そうな目つき&泣き黒子のサキュバスプリンセス顔。吸血鬼なのに血を吸わずに男の精気を吸いそうな。
血染めの魔女帽子。赤と黒を主としたボンテージ風ドレス。女王様ピンヒールブーツ。魔法少女作品なら悪役または癖の強い訳アリのライバル役みたいな格好。
こんなはずでは、なかったんだけどなぁ……おっぱいデカいし揉み揉みぃ。
もっとこう、バンパイア・リリィとかさ、清純系AV女優みたいな矛盾を醸す百合系の純白ドレスとか着てさ、美少女たちを
まあ、いずれにせよエロサキュバスになってしまう件。念の為、私、吸血鬼です。
さて、さて。
学院施設を継ぎはぎして作られた意味不明ダンジョンも、ダンマスとしての勘ではかなり奥深くまで潜っていると踏んでいるのだけど、はて、いかがなものか。
もちろん当初の予想通り、他者などどうでも良くて自分だけを第一に助かりたいなら初期位置でジッとして五感を研ぎ澄まし、ダンジョン区域が移動するのを感じ取るたびに扉を開けて出口の確認するのが一番だと思うけれども……。
ノブリスオブリーチェ。高貴なる者の務め。
他の女生徒たちは良くても、公爵令嬢たる私や学院理事長のアモル侯爵はそういうわけにもいかない。貴族が貴族たるに、人品性根が卑しくては話にならぬ。
何よりこれは、変な形で魔神を召喚してしまった学院の教師陣=研究者のやらかしではあれど、しかして同時にある種の変形した私の転移現象ではないかと思うのだった。そもそも教師陣の研究熱を煽ったのは私とアモル侯爵なのだから。
いずれにせよ、である。
正直なところ私は冒険なんてしたくない。おうちでまったりしたい。
でも、巻き込まれた少女たちを、何より身内をね、マリーとセラーナを始めとするメイド隊を助けないとね。教師陣は……アモル侯爵にまかせよう、うん。
……どうやらカートゥーンモンスターもあまりにも強い相手に攻撃されると、冗談みたいな不死身能力は発動しないらしかった。私の現レベルは2100万だった。
レベルを上げて物理で殴れ。これぞ世の真理――って、どこのクソゲーなのだか。
ひらりひらりと、6対12枚のコーモリ型力翼で飛来する私。
それに加えて変身時に自動的に持たされた魔法杖も、鑑定して見ればメルヘン属性が付与されていた。つまりはカートゥーンと同じ『理不尽』属性である。
これでモンスターをぶん殴ると、テキトーでもちゃんと倒せる。素晴らしい。
先端部分に融合させられている小型悪魔は物凄く痛がるけど。
しかもキーキー煩い。
なのでもっとこの杖を使ってぶん殴る。ぶんぶんである。ぶんぶん。
アモル侯爵や教師陣、そして学院少女たちは良いとして、あの死神のサンズまでもがなぜかこちらを見てドン引きしているのが印象的だった。
後になって、冷静に思い返せば、それも当然のこと。
理由は言わなくてもわかるよね。
『痛い痛い痛いっ! やめてとめてやめてとめて! わっちで殴るのストップ!!』
「この杖、生意気にも痛がるのよねぇ。私はちっとも痛くないけど。ほーら、亜神奇跡ブッパするよ。『
『ぎゃあああああああああっ!!? わっちの目からビームぅぅぅぅ!!???』
「失明しないでねー」
『それなら撃たないでぇぇぇぇぇっ!!!??』
「うっふふふー♪」
『この悪魔ぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁーっ!!!??』
「やぁだ。私、吸血鬼だもーん♪」
『悪魔吸血鬼ぃぃぃぃぃ!!!!!?』
「そして油断したところに、物理でドゴォッ! バスターホームランッ!!!」
『おぶふぇぇぇぇっ!!???」
うん、なんか楽しい。嫌がる杖を武器にぶんぶんしちゃうの。
そこに人としての良心はあるんかと聞かれれば、私、人じゃないからと回答。
「じーんせい、らくありゃ、らーくばーかーりー」
『なんなのですか、そのお気楽ニート根性人生歌はっ!?』
「知ってる?」
『何がですか!』
「その昔、宿屋の台帳に『無職』って書くのは一種のステータスだったこと」
『それは今もそうです!』
「あれっ、そうなのねー?」
『人生なんて召使いに任せればよい、とか言っちゃってさ!』
「でも貴族は貴族で大変よ。高貴なる者の義務が常に発生するし」
『そんなの時と場合で、いくらでも都合よく解釈されちゃいますよ!!』
「そだねー」
わりとまともな会話もできる、優秀な魔法杖。
魔法少女のマジカルステッキもインテリジェントウェポンの場合が多いよね。
まあ、私はダークサイドな魔法少女に分類されそうだけど。
そんなふうに杖と話しながら進むと。
うわ、と思わず呻く。
場所は、運動場らしきところ。アモル伯爵曰く、魔術訓練用のコートなのだそう。
無造作に投げ捨てられた感のある妙な袋がコートの端っこに立て掛けられていた。
随分と大きい。否。洒落にならないくらい大きい。なんだこれ。
三、四階建てのちょっとした雑居ビルくらいはありそう。
その巨大袋は、突然に中をモゴモゴと動かしたかと思うと――
綴じられた端っこ部分を乱暴にブチ破って何かが出てきた。
「「「うわっ!? 何これ、気持ち悪いー!!?」」」
私、魔法杖、アモル侯爵が感想をハモらせた。緊張感がまったくない。
死神のサンズが ┐(´д`)┌ヤレヤレ と肩をすくめた。そうして武器を構える。
巨大袋から、M&Mっぽいマーブルチョコレートに細い手足を生やしたような不気味なカートゥーンモンスターが、ゴロゴロと転がり出てくる。本気で気持ち悪ぅ。
異色のモンスターハウスだった。その数……百や二百では済みなさそう。
「これは大変そう。だよね、杖くん?」
『なんだろう。不吉な予感がヒシヒシと……』
「目からビーム、もっかい出す?」
『やめてください死んでしまいますっ!』
私は死神のサンズにストップをかける。
推定500体。
あの数に突っ込むのはさすがに神様であってもキツそうだった。
「お前たち不気味ーズには絶望的な
フワフワと現れたのは私たちだった。
見た目三歳児のバンパイア・ニンフェット。
それが、概ね500体。
彼女ら、とあえて表現させてもらう。彼女らは、拙いお遊戯の如き踊りを、くるくると舞い始める。そうしてマーブルチョコどもに愛らしく相方のお誘いを始める。
奇妙なダンスパーティーが、突如、始まる。
くるくるとペアで舞い踊る。くるくる、くるくる、くるくる……。
なぜ理不尽モンスターたるマーブルチョコどもは素直なままなのか。
吸血鬼の魅了の魔眼が効いているのもあるだろう。
が、基本的にこの亜神奇跡にかかれば抵抗の術を失うのだった。すべての意思は奪われて白痴となる。もう逃げられない。正気に還るのは、この後すぐ。
「それでは皆さん、天獄でも、短い生をごきげんよう」
私はサムズダウンする。するとどうなるか。
彼女らは、ぼこぼこと泡立ち、瞬時に変化を遂げる。
手だった。ヒト一人を軽く掴み取れるような、無骨で巨大な黒い手。
私、人体の一番怖い部分はどこと訊かれたら間違いなく『手』と答える。
善きことも悪きことも、すべての行動は手を介する。
『虎よ、虎よ、あかあかと
夜の森に燃えさかる。
いかなる不滅の手または眼が
お前の恐ろしい均整を造り得たか』
なんてね。ウイリアム・ブレイクの詩『虎よ』の冒頭を諳んじるほどに。
それら――圧倒的巨大な手が。手が。手が! 漆黒の巨大な手が!
カートゥーンモンスターたるマーブルチョコどもを身体ごと鷲掴みにする!
地面からも細く黒い手が、びっしりと、無数に伸びあがる。
まるで昔聞いた怪談の、海岸を埋め尽くすほど伸び出た細く長い手のように。
モンスターはすべて捕らえられる。絶対に逃さない。絶対にだ!
我に返ったモンスターどもは逃げようともがく。叫ぶ。泣く。喚く。
しかし、無意味。お前の身体はガッチリキャッチ。逃がすなんてありえない。
そうしてそのまま。
黒く濁った地面の下へ、引きずり込まれる。ずぶずぶと堕とされる。
行き先は奈落。天から突き落とされた天の咎者が堕ちる場所。またの名を天獄。
闇の底では、太陽が直径3キロまで圧縮される超重力と崩壊した空間が蠢く。
加えて神話の時代に封じられたおぞましい邪神群が眠るという。
「最期に可愛いニンフェットと踊れて良かったねぇ……うふふ」
「ご主人様には、わっち、ドン引きですわ……」
「今からでも頭か胴体だか分からないあいつらを物理で殴りに行こうかなー」
「やめてくださいなんでもしまかぜ」
「……しまかぜなの?」
「しまかぜです」
「うん……?」
「はい……」
なんなの、この妙な『間』は。いやそれは良いとして。
相手がなんであれ、レベルを上げて物理で殴れば大体解決する。
心に迷いを覚えたらとりあえずチェスト。奇跡や魔法を使ったほうが楽だけど。
【お願い】
作者のモチベは星の数で決まります。
可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。
どうぞよろしくお願いします。
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