第2話起きたら僕の目の前に天使がいました。
「…うん?…」ガサッ
少年が目を開けると納屋の天井とは違うとても高く綺麗な天井があった。少し身体を起こすと目の前には天使のような美しい白髪の綺麗な男の人がいた。
その天使は白のお洋服を着た男の人とお話ししているようだ。
「ケホッケホッ」
「?!」
少年が咳をすると今まで話していた人達が少年の方を驚いて顔を向けて来た。
は、僕が咳をして会話を途切れさせちゃったから怒ったのかな?
少年は急いで毛布の中に潜って「ごめんなさい」と謝った。
しかし男性は、「良かった!目が覚めたんだね、良かったらお顔を見せてくれないかな?」と優しく声をかけて来た。
少年は毛布からゆっくり顔をだすとそこには先ほどの綺麗な白髪の男性だった。何と瞳も綺麗な金色で凄く美しかった。
「綺麗な天使様だ…。」と少年は口から無意識にそう喋っていた。
「僕は悪い子なのに天国に行けたんだ…。」
そう少年が続けて喋ると男性は眉間に皺を寄せて悲しげな顔をした。
「私は天使ではないよ。」
「天使様じゃないの?」
少年は悲しそうに言った。
「だって私には翼がないだろう?」
「…うん。やっぱり僕は醜い汚い子だから天国には行けないんだ…。」
「君は醜くなんかないよ。私の命の恩人である君は世界一綺麗だよ。」
我が番が醜いなんてとんでもない。こんなに全てが美しくて愛おしくて堪らないのに醜いだと。それならこの世に生きる全ての奴らは、全員醜悪を通り越して生ゴミではないか。
「私はね君に命を救って貰った者だ。私の名前はブランシュ•ローザ•ガーデンと言うんだ。ここの公爵で今は当主をしているよ。」
「こ、公爵様!」
「ご、ごめんなさい、僕なんかが、ベット使ってしまってっ、」
少年は天使だと思っていた人がまさか貴族の一番上のくらいの公爵様で、しかもずっとお風呂に入らずに異臭を放っていた自分が公爵様のお屋敷のふかふかの綺麗なベットで寝ていたのである。
少年は病み上がりにもかかわらず重い体を動かしてベットの上で震えながら土下座をして謝った。
しかし少年は気付いたら誰かに抱き締められていた。
「謝らなくていいんだよ、このベットはね、君のために用意をしたんだからね。」
そう言って抱きしめてくれた公爵様は少年の脇の下に手を入れて軽く持ち上げて少年の背に枕を挟んでベットの背もたれに寄りかからせた。
「喉は乾いてる?お水飲むかい?」
「…うん。」
少年がそう答えると公爵はコップに注いだ常温の水にストローを刺して少年の口元にストローを持ってきた。
「ほら、飲めるかな?ストローを軽く吸ってごらん。」
少年はストローを使ったことがなかったので最初は飲み方がわからなかったが公爵様が教えてくれたので何とかのむことができたか。
「美味しい…お水ってこんなに美味しいんだ…」
「ふふっそれは良かった」
少年はただの水を飲んで美味しいと言ったのである。
同じ部屋にいる医者も公爵も何故ただの水を初めて飲むかのように美味しいと答える訳が分かっていた。
少年は記憶のある年齢の時に普通の水を飲んだことが無いのだ。
いつも雨水や濁った水などだった。
そんな水が美味しい訳がない。
公爵はもう泣きそうで仕方がなかった。しかし、泣かないといけないのはこの子なのである。自分が泣くわけにはいかない。
「…キュルーッ。」
沈黙の部屋に突如可愛いお腹の音が響いた。
「ふふっお腹が空いたのかな?」
そう公爵様が少年に尋ねると少年はポッポッと顔を赤くして恥ずかしそうにしながら「うん…ごめんなさい。いつもは鳴らないのに」と言った。
「謝らなくていいんだよ。君のお腹がなると言うことは君の身体がちゃんと生きてる証なんだから。」
そりゃあそうである。お腹が空いているのにお腹が鳴らないなんてそんなの不健康という言葉では足りない程に危険なことだったのだ。
そんな状況だった自分の愛おしい番の身体からちゃんとお腹が空いたと音が鳴ったのである。嬉しくないはずがない。
「すぐに持って来させるからね。」
ガチャッ
「少年が目を覚ましたんだ。悪いが至急お粥を持って来てくれ」
ガチャッ
「ふふっもう少し待っていてね」
コクッ「はい。」
「ご飯が食べて終わったら少しだけお風呂に入ろうか。そうしたら会わせたいものがあるんだ。」
「?」
「ふふっ楽しみにしててね」
コンコンッ「失礼します。お粥をお持ちしました。」
「あぁ、入ってくれ」
「「失礼します」」
ガチャッ
ドアが開くと黒いお洋服を着た男の人と女の人が入って来た。
「紹介するね。こっちの男の人が執事長のロイドでこっちがメイド長のロゼッタだよ。」
「あ、あの、よ、よろしくお願いします、ロイド様、ロゼット様」
「2人は使用人だから様を付ける必要はないんだよ。」
「で、でも、僕の家の人達は皆んな様をつけないと、凄く怒るから。」
「…そうか、でもね、この家の人達はみんなとっても優しいから普通に名前で呼んでくれるととっても喜んでくれると思うよ。」
少年からしたら今まで使用人からは、日々の鬱憤を晴らすために
仕事の邪魔をして来たり自分が住んでいる納屋を馬鹿にするために納屋まで来て自分の家族達の悪口を言いながら自分を叩いて来る人達しかいなかった。
いくら優しい公爵様からそう言われても少年はすぐには信じることが出来なかった。
そーと顔を上げて使用人から2人の顔を恐る恐る見ると2人は自分うちの人達から一度も向けられたことが無い優しい顔をしていた。
公爵様が言ったように本当にこの人たちは優しい人たちなのかもしれないと少年は思った。
「ロイドさん、ロゼッタさんでは、その、ダメでしょうか…」
少年今までの生活のせいで呼び捨てで呼ぶことはできなかった。
さん付けで呼ぶことが出来るようになっただけでも大きな成長である。
「「はいよろしくお願い致します。」」ニコッ
「それでは私はこれで失礼しますね、また何かありましたらお呼びください。」
「ああ、ありがとう。」
そう言って医者は部屋を出て行った。
「ほら熱いからね、ゆっくり食べようね、はい、あーん。」
「?」
「アーンってされたらアーンってお口を開けてごらん」
「、あーん…ぱくっ…モグモグ…美味しい」
小さいお口を一生懸命動かしている姿は何と愛らしい。
3人は微笑ましく少年を眺めていた。
しかし、元からすごく少なくいれて来たお粥を少年は半分食べたから食べてないかぐらいの量を残してお腹が一杯になってしまった。
十一歳児とは思えない食事量だ。けれど誰もそのことについては決して口にはしない。
「偉いね、いっぱい食べられたね。」
「ご、ごめんなさい残しちゃって。」
「良いんだよ気にしなくて、これから少しずつ食べられるようになっていけば良いんだからね。」
「…あの。僕は元気になったのでまたあの橋の下に戻ろうと思います…。」
少年がその言葉を言った瞬間公爵の動きがピシリッと止まった。
「このお家居心地悪かったかな。」
公爵が少年にそう質問すると少年は首を横に振りながら
「僕は何も出来ないからこの家にいたらみんなの邪魔になっちゃうし、公爵様は死にそうな僕を看病してくれて美味しいご飯を食べさせてくれたから僕が公爵様にした事より公爵様が僕にしてくれた事の方が凄くて公爵様が僕の命の恩人だから、僕は公爵様の邪魔にはなりたくない。」
公爵や使用人は今にも泣いてしまいそうだった。
こんなまだ11歳の小さな子供がこんな親が子供にして当然な看病をしてこんな病人用の味の薄いお粥を食べさせただけなのに邪魔になってしまう?恩人だから。
熱を出した子供を看病するのは当然だ。
味の薄いお粥なんて料理ではない。
そんな事をしただけで恩人だなんてそんなのはおかしい。
自分達の大切な主人を助けてくれた事とは比べ物にならない。
基本この公爵家の使用人達は、代々公爵家に仕えてきた血縁者達である。その為、そこら辺の屋敷の使用人たちとは比べ物にならないほど公爵家に対する忠誠心が強い。
そのため自分達が強い忠誠を誓っている主人がある屑に襲われ命を落としそうになった時、自分の命を犠牲にしてでも自分達の主人を懸命に助けてくれたこの少年は使用人達からしたら命の恩人という言葉では表せない程にこの少年に感謝しているのだ。
その少年の看病をしお粥を食べさせただけでもう恩返しはさせて貰ったという。
そんなの公爵様自身が許せる筈がない。
しかもその少年は主人の運命の番様だ。
公爵様をはじめ使用人達はこの少年を絶対に逃す気はない。
この少年は公爵様と一緒に幸せに過ごしていただかなければいけない。
「私は君と一緒にこの家に住んでほしいんだ。是非、私の願いを叶えてはくれないか?」
「僕と、一緒に?」
旦那様は恩人である自分が願っていると言うふうに少年に伝えて少年を引き留めようとなされている。
今の少年にはその方法しか出来ないのだろう。
「私と一緒に住んでくれる?」
「…うん。」
僕の命の恩人である公爵様が一緒に住みたいって言ってくれたんだ。
ぼくは、公爵様が僕のことをいらないって言うまで僕は、公爵様と一緒に暮らそう。
捨てられてもこうして僕に優しくしてくれた事を心に刻んでおけばきっと寂しくなんかない。
でも、僕はら何もしなくていいのだろうか?
…そうだ。
「あの、僕のお洋服のポケットに巾着が入っていたと思うんですけど…。」
「あぁ、入っていたよ。はい。これかな。」
公爵様がベット横の棚の引き出しから巾着を出して少年に渡した
「その巾着がどうかしたのかな?」
「あ、あの、これ…」
少年は何故かそう言ってお金が入った巾着を公爵様に渡した。
「これは?」
公爵様が疑問に思いながらその巾着を受け取ると、少年は
「あの、お金は少ししか入っていませんか、これで僕を雇ってくれませんか?勿論、お給料も要りません。部屋も荷物置きで十分ですし、ご飯だって1日一食貰えるなら嬉しいけど、ご飯だって残飯で十分です。お仕事はお掃除しか出来ないけど少しでも役に立てるように頑張りますから雇ってくれませんか?お願いします。」
そう言って少年はベットの上で土下座をしていた。
少年は日々何も悪くなくても土下座する事を強制されていたのだろう。子供は普通大人の人に頼み事をする時に土下座などしない。それに日頃土下座することが無い人は土下座をする時に絶対に多少は抵抗を見せるのだ。それが全くなかった。
この少年は日々生きる為に数えられない程の土下座をして来たのだろう。
何と悲しい子だろう。
子供は無償で親から愛情をもらえる筈なのだ。
その愛情すら貰えなかったこの子は、あの日当主様に出逢わなければ誰にも見取られずにあの大雨の橋の下で一人静かに命の灯火を消していたのだろうか。
「私はお前を雇う気なんてないよ。」
公爵様は真剣なお顔でそうおっしゃられた。
当たり前だ。長年探し求めていた番様を使用人として雇う訳がない。
先程仰られていた雇用条件は全て今まで住んでいたご自分の家でやられて来たことなのだろう。
もう私達は涙を堪えることで精一杯でございます。
「やっぱり、僕みたいな役立たずなんて、雇えませんよね…」
そう言って少年はずっと下を向いたまま膝上に乗せていた細く小さな手を力一杯握り締めていた。
公爵様はその力強く握り締めている両手をそっとご自身の手で包み込んでベットの上に座っている番様と視線が合うように片膝を床に付けて旦那様はお優しいお声で番様に
「私は君と一緒にご飯を食べて、君と一緒にお風呂に入ってそして、君と一緒にお布団で寝て、君と一緒に色々な事がしたい。使用人になってしまったらそういう事ができなくなってしまう。」
「私は君が必要なんだ。みんな人には秘密なのだが実はね、私は一人じゃとても淋しくてね。夜も眠れないんだ。だから、私が淋しくならないように、私と一緒に居てくれないかな?」
公爵様がそう仰られた瞬間、番様は静かに大きな美しい黒曜石のような瞳からポロポロと涙を流していた。
誰も見ていなければ気付く事が出来ない程、番様の涙は静かだった。
子供が泣き方を知らないなんてそんなのは許される事ではない。
子供は泣くのが仕事なのだ。
赤ちゃんの時から泣くのが仕事のはずの子供が涙を堪えようともしゃくりあげる事もしない。
子供を二人育てているメイド長であり母親である私はあの子を抱き締めてあげたくて仕方がない。
しかし、それは公爵様のお役目なのだ。
私がする事ではない。
「でも、僕は名前も無いただの役立たずなんです。公爵様と一緒に居ても恥ずかしく無いように僕がちゃんと仕事が出来るようになれば公爵様も恥ずかしく無いでしょう?」
そう…この子には名前が無いのだ。
番様が生まれたロザー子爵家で番様は産まれていないことになっていた。
故に名前が無いのだ。
この国では、「子供は宝だ。宝である子供は大人である我々が大切に育てなければならない」と言う国のスローガンがある。
その為貴族は、子供の出産届にきちんと正しい情報を記載し国王に提出しなければバレた瞬間に即刻家は取り潰しとなる。
しかし、番様の場合は出産届すら提出されていなかった。
そんなことは許させる訳がない。
その事が国王に伝われば直ぐに家の取り潰しのうえに、親は罪人である。
まぁ、もう公爵様は国王様に直ぐに伝えに行かれましたが。
番様がお眠りになられていたこの一週間で公爵様は全ての事を片付けられていた。
そして無事に番様は公爵様の未来の奥様になられた。
そしてその際に旦那様は番様にお名前を付けられた。
「君にはね私が名前を付けたんだ。受け取ってもらえるだろうか?」
「…僕に名前?」
「そうだよ、そうすれば名前がある君は私と一緒いても何も恥ずかしくないだろう。」
「う、うん。」
「ふふっ君の名前はね…」
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