助けた公爵さまに気付いたら囲まれていました。でも、美しいバラ園と大好きな公爵様がいるので幸せです。

紅月

第1話最後ぐらいは抗ってみよう

あの家から逃げ出して来て今日で7日目だ。


家に食料を納品しに来る荷馬車に隠れて来ただけだから今自分が何処に居るのかすら分からない。


人が住んでる場所から少し離れた草原に小さな橋が架かっている土手を見つけたのでそこで僕は身を隠している。


少し歩くと人が普通にたくさんすんでいるので、街の見回り中の衛兵が普通に歩いている。


もし僕がここに居るのがバレたら家に帰されてしまう。僕の父と義母はぼくのことを必死で探している筈だ。


知らない人に買われて怖い思いをして殺されるくらいなら誰もいない場所で自分の意思で死にたい。


食料は荷馬車から持ってきた水1本とパン1本は今では、水1本しかない。


家から逃げ出してた次の日から雨がずっと降ってくれたおかげで、雨水や目の前に流れている川の水飲むことが出来た。


パンは少しずつ食べていたけれど4日目に僕が居る橋の下に痩せた黒色と白色の子犬が来てお腹を空かせていたから余っているパン全部上げてしまった。


でも別に後悔はしていない、僕は結局このまま一人で死んでしまうから最後ぐらいは何かを助けて胸を張って死にたい。


そうしたら、義母に辞めさせられるまで僕に優しくしてくれたメイド長のルーシーさんは死んだ僕を許してくれるはずだ。


ルーシーさんは辞めされられた日に僕のところに来て巾着に入った少しのお金をくれた。何かあった時に使いなさいと言われて。


ルーシーさんはバレないようにずっとご飯をくれて、勉強も教えてくれた。


そのおかげで、普通に生きていけるくらいの知識を身に付けさせてくれた。


でも、義母にそのことがバレてルーシーさんは辞めさせられてしまった。


僕が生まれてきたせいでルーシさんに迷惑をかけてしまったと最後にルーシーさんに謝ったがルーシーさんは僕に笑顔で


「坊ちゃんと一緒にいた時間はとても楽しくて私の宝物です。」


と言ってくれた。


最後に「絶対に生きることを諦めてはいけませんよ。今がとても苦しくてもこれから先絶対に幸せが訪れる筈です。だから決して生きることを諦めないでくださいね。」と言いってルーシー出て行ってしまった。


でも、この先、僕には一生幸せが訪れる事はないだろうなと思っている。


でも、今こうして家から逃げ出せて、自分が死にたいと選んだ場所で死ねるのなら僕は今凄く幸運なのかも知れない…。


「はぁ…。」


また雨の勢いが増してきた…。もう普通に瞬きをするだけでも、眠ってしまいそうだ…でも、このまま目を瞑ったら多分もう僕は目を覚ます事は無いのだろう。


最近ではもう、呼吸をすることすら苦しくて今日なんて凄く寒いはずなのに今の僕は身体が暑くて仕方がない。



約4日間少年は川と雨の水しか飲んでいないのだ。

人の身体がそんなに保つわけがない。

でも、それを分かっていて少年はあの二匹の犬たちに残りの食料を全て渡したのだ。


あのお腹をすかせていた二匹の犬たちに全ての食料を与えた事に少年に悔いは無かった。



「ルーシーさん、ぼく、頑張ったよね…」


そのまま目をゆっくり閉じようとした瞬間。


…ドザッ!


「えっ、」


少年が目と閉じようとした瞬間に土手から男の人が落ちて来た。


少年は驚いて目を大きく開いた。


栄養が足りなく身体が小さい少年が下から見た土手はとても高かった。あの高さから落ちて来たのなら何処か怪我をしているのかもしれない…。


助けないと…。その瞬間少年は先程まで動かすことが出来なかった身体を動かして倒れている男性に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか?」


「う、うぅ…。」


その男の人は白い髪に金色の瞳をしていてとても綺麗な人だった。


「ど、どこか怪我は?」


そう少年が聞くと男の人は苦しそうに


「毒を…飲まされた」と言った。


「毒を…。」


なんて酷い…。


それに男の人の脇腹から血が出ていた。


「お、お腹どうしたんですか?。…ち、血が。」


「不意打ちで…刺されてしまった…。」ハアハアッ


「と、とにかく毒を…」


昔、ルーシーさんから毒を飲んだ時の対処法を教えて貰ったんだ!


とにかく、お水を飲ませなきゃ!


少年は先程まで自分がいた橋の下までどうにか男の人を動かして、自分が一口も口を付けずに残しておいた水を男の人にとにかく飲ませた。


ルーシーさんはとにかく、水をたくさん飲ませて無理矢理吐かせろと言っていた。


僕は、すみませんと思いながら男の人のベロの奥に指を突っ込んで無理矢理吐かせた。


全ての水で

それを何度も繰り返していると男の人の呼吸が落ち着いていた。


「はぁ、良かった…」


取り敢えず少年は男の人の毒は対処することができた。


しかし、男の人は意識が無く、出血もしている…。


少年は毎日見回りをサボって立ち話をしている衛兵が必ず近くにいる事を覚えていたので、少年は、衛生にこの男の人を助けてもらうしかないと思い、絶対に登れないなと思っていた土手を登り始めた。


もう少年はそんな動きが出来るほどの体力は無いはずなのに最後の力を振り絞って手足を動かした。


登っている途中でいくら手足から血が出て爪が剥がれても少年は歯を食いしばって土手を登り切り見つけた衛兵に向かって走り出していた。


あの男の人の身なりからして貴族に違いない。服装が父親とそっくりだった。


こんな身体から異臭を放っていて手足が血だらけの子供が人が倒れているから助けてくれと言われても絶対に信じてはくれない。


けれど貴族が倒れていると伝えれば嘘だろうと必ず確認してくれるはず。


もう限界の身体を無理矢理動かしている少年は自分がちゃんと立って走れているのかさえ分かってはいなかった。


ただ、どうせ今日死んでしまうのなら、せめてあの人を助けてから死にたいと。少年はただそれだけを思って走っていた。


衛生の人達はいつも通り立ち話をしていていつも通り仕事をしていなかった。最初は僕が来た事にビックリしていたけど貴族だと言うと慌てて走って僕がさっきまで居た橋まで向かって行っていた。


「…良かった、僕は、人を助けて死ねるんだ…。」


少年は、最後の力を振り絞って近くにある森の中に入って行った。


少年が望んだ誰も居ない死に場所を探すためだ。


ずっと森の中を歩いて行くと大きな木の下に大きめの穴があった。


「此処にしようかな…。」


少年はその穴の中で横になったままとうとう動けなくなってしまった。


昔、ムーシーさんは「良い行いをした人は死んだ後に天国に行くことができるんですよ。」と教えてくれた。


ルーシーが見せてくれた本の中に描いてあった天使はとても美しかった。


僕は、死んだら天国に行きたいけど、黒の髪と黒の瞳で生まれてしまった悪い子の僕は天国に行くことは出来ないのだろう。


「もう、疲れちゃった…」


もう本当に少年は限界だったのだ。

家族から虐待をされ、まともに食事さえ取らせてもらえなかった

のにあんなに動けるはずがなかったのだ。


最後に少年はそう言ってゆっくりと目を閉じた…。






「公爵様!」


「大丈夫ですか!!」


「う…うぅ…誰だ?」


そう言って倒れていた公爵は起き上がった。


「この地区を見回っている衛兵です。」


「そうか…イッテ」


「脇腹から出血しております。あまり動かないでください!」


「いや、すぐに治る…ヒール…ふぅ。」


「流石でございます。公爵様。」


「…それより、此処に子供はいなかったか?!」


「え、いやいませんでしたが?…あ、黒髪、黒眼の子供でしたら先程公爵様が倒れているのを私達に伝えにきましたよ。」


「それで、その子供は?!」


「いや、その場に置いて来てしまったので分かりません。」


「何故おいて来たんだ!」


「いや、その、随分と身なりが悪く知り合いだとは思いませんでしたので…。」


「くそ!…ピッ…プルルル…ロイドか?…今すぐに〇〇地区の川のところまで馬車と医者を連れて来てくれ!急いでくれ!」


「その少年が来た場所まで私を連れて行け!早く!」


「は、はい!!」


クソっ!!何処にいるんだ。

お願いだから無事でいてくれ!


公爵は毒で自分の命が危なかった間の事を全て覚えていた。

あの時助けてくれた黒髪黒眼の少年は今にもこの世から消えてしまいそうだった。


それでも私を助けてくれたんだ。命の恩人を死なせるわけにはいかない。


それにあの子は私の番だ。やっと見つけた私が求め続けて来た愛おしい番をこんなところで死なせるわけにはいかない。


「此処です!!」


「クッソ…!!」


「何故、私を見つけてくれた子を1人置いて来たんだ!」


「「っ…。」」


そこには勿論誰も居なかった…。


周囲を見渡してもそこには川と森しか無い。


もし、番が森の中に入って行ってしまったとしたら見つけることはほぼ不可能だ。


あの立ち話をしていた衛兵たちは言ってしまえば貴族の三男坊達で親のコネで衛兵になり平民を見下す様な奴らだった。


そんな奴らが小汚い子供と倒れている貴族の二人がいたら恩返しされる可能性がある貴族を助けるに決まっている。


先程、二人が公爵に名前を教えた瞬間に公爵はそのことに気付いていた。


正義感がある衛兵は勿論沢山いる。


その人達に少年が頼っていれば今こんな事にはならなかった筈なのだ。怒鳴りたくもなる。


それに雨のせいで視界も悪い。

普通なら諦めるしか無い。


「ローザ様!!」


「来たかロイド、急で悪いが人を探してほしい。黒の髪に黒の瞳をした少年を見つけてほしい。出来るか?」


「お任せ下さい!メイドも10名ほど連れて来ました。」


「すまんな助かる、私の番なんだ。」


「なんと…!…それは…急いで探しませんと!」


「皆さん取り掛かって下さい!」


「はい!!」


「しかし、番いが見つかるとは、本当に良かった。しかし何故ローザ様は此方に?」


「あぁ、毒を飲まされて腹を刺されてしまってなとりあえず此処までどうにか逃げ切ったが此処で力尽きてしまってな、そうしたらそこの橋の下番に助けられたのだ…でも、あの子は今すぐに保護しないと死んでしまう。早く見つけねば、」


少年が倒れてから既に10分が経過していた。

少年はこの寒い雨の中風邪をひいて倒れているのである。

1分1秒でも早く見つけなければ危険な状況なのは誰にでもわかる事だろう。


「クソっ何処にいるんだ…!」


「「ン…ワ…ワン!!」」


「犬の鳴き声?」


「「ワンワン!!」」


声のする方に目を向けるとそこには黒と白の毛並みをした子犬が鳴いていた。


それはやるで、ついてこいと言っているようだった。


「ロイド!医者を連れて私について来てくれ!!」


「はい!」


二匹の犬に大人3人がついて行くと立派な大きな木が立っていた。


その二匹の子犬はこの木の下にあった穴の前で止まった。


急いで公爵が穴の中を覗くとそこには黒髪の男の子が倒れていた。


「いたぞ!!」


公爵が急いで少年を穴から出し脈を確認するとまだ脈は動いていた。


少年を医者に見せる前に限界ギリギリまでヒール魔法をかけた。


もともと身体が弱く大怪我を負っている子供に急にヒールをかけると身体が壊れてしまう。今のこの少年に出来ることは少し免疫力を上げることしかできない。


「熱がひどい、まずは急いで屋敷に戻った方が良いでしょう。」


「ロイド、まずは屋敷に戻ろう。」

「分かりました!」


「兎に角まずはベットに寝かせて下さい!」


「分かった!」

そうして少年をベットに寝かせ服を脱がすとその少年の身体には、骨が浮き上がり傷跡で埋め尽くされた。


痛々しいでは足りない程の傷跡だった。


「こんなに痩せ細って、可哀想に。」


「取り敢えずこの子の処置は終わりました。また何かありましたらお声がけ下さい。」


「ああ、ありがとう」


「それでは失礼します」


ガチャンッ


「この子の身元が分かるものは無いだろうか。」


「そうですね…うん?ローザ様、此処のポケッが少し膨らんでいる気がします。」


「本当だ…ガサッガサダ…これは巾着?…中にはお金が少し…。いや、この巾着の紋章、見覚えがないか?」


「それは、確か、ロザー子爵のものだと思います。それにあそこは黒の髪や瞳を持っている人を未だに忌み嫌っている家で有名ですね。」


「あぁ、という事はそこのご子息ということか。かわいそうに」


ルーシはこれを見越して少年に家の紋章が刻まれている巾着を渡したのか、それとも偶然だったのか…?


「ロイドお前は少しでも多くの情報を集めて来てくれ」


「承知しました。ローザ様は?」


「私はこの子の看病をするよ。この子は私の命の恩人だからね」


「では、私はロザー家について早急に情報を集めて来ます。」


「ああ、頼んだぞ。」


ガチャンッ


「もう、お前を虐めるものは誰も居ない、ゆっくり休んでくれ」


公爵は少年にそう声をかけてずっと少年の手を優しく握っていた。


















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