すかしっ屁探偵

レベルNデス

すかしっ屁探偵 前編

「くっっっさ!!!」


「あ?どした、誰か屁でもこいたか…ってくっさ!」


ここはとある小学校の教室の一角。

今ここに4人の男子生徒がいた。


「おい、誰が屁こいたんだよ」

最初に屁のにおいに気づいたヘイスケ。


「屁こくんだったら前もって言ってくれよな」

二番目に気づいたマサト。


「ぼ、僕じゃないからね!?」

気弱そうなこの少年はミズキ。

そして___


「………」


「おい、いったい誰が屁こいたんだよ。怒らねえから名乗り出な~」

「とか言いながらお前が犯人だったりしてな、ヘイスケ。名前がいかにも屁を出しそうって感じだし」

「名前だけで疑うってのかよ!?」


いかにも小学生がするようなほほえましい会話とともに、教室の一角は穏やかな雰囲気に包まれていた。


しかし、人はえてしてこういう状況で犯人として疑われたくないもので___


「おい、誰がやったんだよ。すかしっ屁を黙ってぶっ放すなんて、相当な重罪だぜ」

「ここまで待って自供してこないってことはマジで隠し通すつもりらしいな」

「み、みんな、そこまでして犯人探す必要あるかな…?」


「ミズキの言うとおりだな。こんなしょうもない犯人探しなんて、やるだけ無駄だろう」

すかしっ屁の犯人探しが始まろうとしたそのとき、ミズキに賛成するような発言をした少年がいた。

少年は小学生にしてはあまりにも冷静に、しかしまだ少年のかわいらしさが残る顔でこう続ける。


「しかも犯人探しっていってもどうすんだよ。どんな名探偵でも屁をした人間の推理なんてできそうにないが」


小学生離れした現実的な発言をする少年に対し、周りの3人はこう続ける。


「いやいやそう謙遜しなさんなって、くん」

「今まで、どんな事件だって解決してきたんだろ?はさ」

「ぼ、僕、初めて生でくんの犯人探し見るかも…!」


そう、何を隠そう、彼は探偵なのである。といっても、職業としての探偵というわけではなく、そういう愛称であった。彼の功績とその愛称は学校中で知られており、もはや本名で呼んでくれる人の方が少なかった(そもそも愛称は知っているが本名は知らないという人が多い)。


「ほんとにそんなこと、しなきゃだめか?」

「いやいや、これは重要なことだよ。だってすかしっ屁をしたにもかかわらずそれを嘘ついてまで黙ってるなんて、俺たちの友情にもかかわることじゃん?」

「…そういうもんか」


ヘイスケにそう言われたタンテイは少し考えてすぐに、何かを思いついたように口を開く。


「屁をこいた時間にもよるが、まだにおいが尻に残っている可能性もある。今から全員の尻のにおいを確認するってのはどうだ?」

「タンテイ君!?」

「お前、それはさすがにばっちいだろ!」


さすがに他人の尻のにおいを嗅ぐのに抵抗があるのか、反対の声が上がる。


「それに、タンテイがやってくれるにしても、自分の尻のにおいとか嗅がせたくないしな…」

「ごもっともだね…」

「そうか…。なら、もうこれしかないな」


そう言ってタンテイは何か観察するような目でほかの3人を見回した。

見られている3人はどこか落ち着かないようで、目を合わせないようにしたり、きょろきょろ視線を動かしたりしていた。


「実は、日本人は隠し事をしているときに鼻の頭が赤くなるという性質があるらしいのだが…」


「「「え!?」」」

3人は驚いて声を上げる。


しかし、そんなことを言われて驚くのは普通である。

(問題はここから各人がどう動くかだ…)

そう考えるタンテイの前で、2人が目立った行動をとった。

一人はヘイスケで、鼻の頭をしきりに触っていた。

もう一人はミズキで、ポケットの中から手鏡を出して顔を確認していた。


「お、おいタンテイ…。さっきから会話してたけど、誰の顔の鼻も赤くはなってなかったぜ?」

「マサト、よく見ていたな。そう、全員の鼻が赤くないのは当然のことだ。なぜなら、さっき言ったことは純度100%の真っ赤な嘘だからな」

「マジかよ…」


そう、『日本人は隠し事をしているときに鼻の頭が赤くなる』というのは事実無根の方便であった。

タンテイの思惑としては、この嘘に騙されてとっさに自分の状態を確認しようとするやつが犯人の可能性が高いとして、指摘するつもりだった。


(しかし、まさか2人も反応するとは…。都合が悪い…)

実はタンテイは心の中で少し焦っていた。なぜなら、もうこれ以上犯人を絞る方法が思いついていないからだ。


このままでは自分に疑いがかかるのも時間の問題だ。当然、自分がやってないというアリバイなんてものはない。

が、しかし、タンテイはその懸念と同時にある一つの疑問が脳内を巡っていた。

その考えに至ってすぐに、興味がそっちの方にシフトした。

タンテイは些細な疑問にかなり執着するタイプで、その疑問を深く考えることにしたのだ。

タンテイにとっては、


「でもさタンテイ、さっきのハッタリで犯人は特定できたのかよ」

「…いや、残念ながらできなかったな」

「…ていうかさ、今までこうやってタンテイに頼ってきたけどさ、タンテイが犯人だって可能性もあるわけだよな?」

「たしかにそうだね…。で、でも、どうやってタンテイくんが犯人かどうか確かめようか…?」


(やはり疑われたか…)

友人たちからついに疑われてしまったタンテイは心の中でそうボヤく。

しかし、反論しようにもこれといった根拠を提示できるわけではないのが現状だ。

(仕方ない、も気になるし、いちかばちか話題をそらしてみるか…)


そうして、タンテイはの解決に着手することを決意した___

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