第3話 成人の儀

その日もいつもと同じように教会の鐘で目が覚める。

それはここに居る他の孤児たちも同じだ。

目が覚めたディグルは自らがくるまっていたつぎはぎだらけの毛布をきっちりと畳むと教会の裏手にある小さな庭に出た。


「ふぁーあ。このだるい仕事も今日で終わりだ。」


普段であれば口を開くことなく作業に取り掛かるディグルだが今日は例の日である、口が緩むのも仕方がない。


大して広くもない裏庭には教会と同じく古びた小さな井戸がある。

ディグルの仕事とはその小さな井戸から水をくみ上げ、水瓶に水を溜めること。

3回ほどで水瓶はいっぱいになった。

ディグルはついでに井戸の水で顔を洗う。

顔を洗ったディグルは先ほど水を溜めた水瓶を持ち上げると教会の中へと戻る。


いつもより水瓶が軽く感じたのは気のせいだろうか、、、、、、。



「ああ、ありがとう。そこに置いておいていいから朝食を食べてしまいなさい。」


ディグルが教会に入るとすぐにこの教会の神父であるフォンセントに声をかけられた。

彼こそが両親を失い、路頭に迷っていたディグルを引き取った張本人である。

そしてここまで育ててくれた恩人でもある。


「別にいいよ。いつものことだし。」


最年長で男、それだけで力仕事をやるのは必然だった。

ディグルは10歳を過ぎたころからずっと教会の手伝いをしている。

恩返し、というわけではない。

単に他の孤児たちとなるべくなら関わりたくなかっただけだ。

ここにいる孤児のほとんどは戦争孤児、いやでも両親のことを思い出してしまう。


優しい笑顔。

あたたかい手。

そして物言わぬ骸と化した両親の一部。


「何言ってるんですか。今日は成人の日でしょう?遅れたりしたらどうするんですか。ほら行った行った。」


そう言ってフォンセンントはディグルから無理やり水瓶を奪うと返事も聞かずにさっさと歩いて行ってしまった。


「濡れたんだけど、、、、。」




教会を出てディグルが向かったのは町の中心にある方の教会だ。

こっちの教会はディグルが育った教会とは比べられないほどに大きく、きれいだ。

もちろん孤児など引き取ったりはしていない。

治癒による治療費とお布施によって成り立っているらしい。


案内された礼拝堂に入ると同じく今年で15歳になる子供達が10人ほど集まっていた。

皆その顔には緊張と期待が浮かんでいた。

もちろんそれはディグルとて例外ではない。


なにせ今日の結果次第でのだから。




「おい、どけよ。」


ディグルが立っていると後ろから声をかけられた。

周りを見たが十分に通れるスペースはある。

つまり、絡んできただけ。

孤児の上にただでえあんなぼろい教会に住んでいるのだ、日ごろから絡まれることには慣れている。

こういう時は相手にしないのが一番、ディグルは無視することにした。


「おい、聞いてんのかよ。てめぇに言ってんだ。それともお前みたいな孤児は言葉も知らねぇのか?」


成人の儀を前に興奮しているのか、それとも単にプライドが高いのか。

ディグルはなおも絡んでくる男を一瞥する。

一見して分かる高級そうな服に高慢そうな顔。

そして後ろに控える取り巻きAとB。

おそらく下級貴族の子息か大商人の子息あたりだほう。


「何か用ですか?あいにくですがそろそろ儀式が始まるようですので前に行かれてはいかがでしょう。」


ディグルはめんどうながらも仮に相手が貴族だった場合に備えて丁寧なことばで対応をする。

もっともその内容は十分に皮肉が込められているが。

もっともあのレベルの頭では皮肉に気が付くことすら怪しいが。

まぁ皮肉に気が付ける程度の頭があればそもそもこんな時にこんな場所で絡んでは来ないだろうし。

そして男はディグルの予想通りに威張り散らした態度のまま最前列へと周囲を押し退けながら進んで行った。


はぁ、あんなバカみたいなやつがいるのか。

この町で暮らすのだけはごめんだな。


内心でこんなことを思ったディグルであったがこのときの思いがディグルも想像しなかった形で叶うことになるとはこの時のディグルはまだ知らなかった。。。。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る