ピアス

「飲み過ぎちゃったのれーす。」


ガラガラ


「キャッ」


「あっ、ごめん。帰ってたの?静樹、ごめん」


「なっこ」


上半身裸の静樹が、立っていた。


「何?これ、キラキラしてる。ダイヤモンド?」


「あー。前は、普通のピアスだったわね」


「可哀想だね」


「何が?」


「赤く腫れて可哀想。泣いてるみたいだね。あっ、じゃあ、ごめんね」


「なっこ」


私は、静樹に腕を掴まれた。


「何?」


「はずして」


「えっ?」


「はずして、お願い」


「痛くないの?」


「大丈夫」


私は、静樹の顔を見つめた。


「思い出したのね」


「どうして?外させたの」


「春樹とね。同じ事を言ったからよ」


「えっ?」


静樹は、私の頬に手を当てる。


「春樹の話しはしたでしょ?」


「うん。知ってるよ。」


「春樹もなっこと同じ事を言ったの。ピアスを開けた時に、赤く腫れて可哀想だねって…。静樹の体は痛め付けられる度に泣いてるって…。なっこも、泣いてるみたいって言ったわ」


「言ったみたいだね」


「同じだった。なっこは、春樹と同じだった。私が、なっこに引き寄せられたのは、きっとなっこの中に春樹を見たからかもしれないわ。」


「もう、つけるつもりはないの?」


「そのうち、閉じるわよ」


「でも、これは春樹さんがつけてくれたんでしょ?」


「まだ、耳にあるわよ」


そう言って、静樹は左耳を見せる。


「ごめんね、私がはずして」


静樹は、左胸に置いてある私の手の上から手を重ねる。


「なっこだから、よかったのよ」


「静樹」


「今日の誕生日が終わったら、なっこにキスしてあげるから覚悟しなさい。」


「わかった」


静樹は、私の背中を人差し指でさわる。


ひかるさんは、どんな風になっこにれてくれた。ほら、思い出して…。私より、指は長かった?短かった。」


「ダメだよ。静樹」


「さっきも言ったけど、私はなっこだからしたいの。女性をさわるなんて、人生で初めてよ。でも、なっことなら初めてを簡単に乗り越えられるの…。」


「静樹」


「そんな悲しい目をしないで、さあ、着替えましょうか?」


チュッ…


「なっこ」


静樹の俯いた瞼に、気づくとキスをしていた。


「ごめん。予約しときたくて」


「何の予約よ」


「私は、静樹のものだよって予約」


「何、それ?」


静樹は、笑った。


「じゃあ、買い物行こう」


「そうね」


私と静樹は、服を着替えた。


気づくと、身体中の震えは完全に止まっていた。


「ねぇー。これがいいかしら?」


「すごーい。足長い」


「でしょ?」


静樹は、女性になりたいわけじゃない。


だから、服装はズボンだ。


化粧は、仕事の為にするだけ。


私は、ワンピースを着る。


「やっぱり、なっこはワンピースが一番似合うわね」


そう言って、静樹は笑ってくれる。


家から出ると、静樹は手を握ってくれた。


「寂しくなったら、繋げばいいのよ」


ベロベロで、泣いた私に、静樹は昔そう言ってくれた。


今の私の寂しさをちゃんと理解してくれていた。


「ねー。ステーキ食べる?外で、食べる?」


「静樹が焼いてくれるのがいい」


「もう、ワガママね」


そう言いながらも、嬉しそうだった。


「ケーキは、小さいのでいいよ」


「小さいホールにしましょうか」


「食べきれないよー」


「明日も、食べればいいのよ」


静樹と過ごす時間だけでいい。


もう、悲しい話しは聞きたくない。


花屋の前で、足が止まった。


「行きたいの?あの場所に…」


「えっ、ううん。」


「夜中なら、人もいないかもよ」


「静樹」


「これは、なっこのケジメでしょ?ついていくから」


「ごめんね」


「何、言ってるのよ。帰りに寄りましょう」


静樹は、そう言って笑ってくれる。


街行く人が、身長の高い静樹を見る。


気づいていないけれど、静樹はイケメンだ。


「ここ、調べてたの」


アクセサリーショップに入る。


「大人の女はね、本物よ」


静樹は、そう言って笑った。


「ダイヤモンドのネックレス見せてもらえるかしら」


「こちらになります。」


店員さんに、言われてショーケースを覗き込んだ。


高い…。


「一粒がいいかな?なっこには、これも似合うかな?」


静樹は、楽しそうにショーケースの中を見つめている。


その顔が、愛しくて、静樹が選ぶものなら何でもいいと思った。


静樹の傍にいれるなら、何でもいいと思えた。



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