静樹との出会いと悲しみ

「なっこ、お弁当」


「おはよう、ありがとう」


静樹は、夜の仕事をしているから私にいつもお弁当を作ってくれる。


5年前、会社が突然潰れた。


数々の面接に行くも、結婚して辞められたらねーと言う理由で落ちまくった。


やっと、見つかったのはホテルの清掃業の仕事だった。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


静樹に見送られながら仕事に向かった。


人を消すのなんて簡単な事を、彼を失って知った。


失って、三週間後には彼の体温を忘れた。


それからは、するすると指先をすり抜けていくように忘れていく。


繋がれた指の感覚、彼がれた体の感覚、唇の感触…。


そして、三年目には声さえも忘れたのだった。


「お疲れさまでした」


「お疲れ様です」


一日が終わり、私は家に帰る。


「おかえり、今日はね。ハンバーグ」


「えー、嬉しい」


静樹は、20時に出勤する。


私は、16時に帰宅する。


「早く手洗って食べましょうね」


静樹は、17時にはご飯を食べれるようにしてくれる。


私達のルールは、朝御飯と晩御飯は一緒に食べる事


「座って、食べましょう」 


「いただきます」


「どうかな?」


「美味しいよ」


「よかった。出会った頃のなっこは、味覚がなかったものね」


「あぁ、そうだね。」


私は、彼を失って味覚が消えた。


何を食べても、とにかく苦くて…


「砂糖中毒だったわね」


「口の中が、常に苦かったの。」


「そうだったわね。私は、そんななっこを助けたかった」


静樹は、バーで珈琲を飲んでる私に声をかけてきた。


「あの日、珈琲を飲んで、私、一瓶砂糖いれたんだよねー」


「あれは、驚いたわ。糖尿病になって死ぬわよってね」


「懐かしい、静樹に、もっと体を大切にしなさいって怒られたよね」


「そうだったわ。あれから私は、なっこと生きてこれてよかったわ」


静樹は、手を握りしめてくれる。


「ありがとう」


「あっ、いけない。用意しなくちゃ、ごちそうさまでした。」


「後は、片付けるから、行って」


「ありがとう」


静樹は、服を着替えに行く。


静樹が、いなかったら死んでいたのが自分でもわかる。


「じゃあ、夜中だから寝ててね」


「無理だよ」


「そうだったね。飲み過ぎないでよ」


「うん」


「ギュッする?」


「うん」


静樹は、ギュッってしてくれた。


「じゃあね」


「行ってらっしゃい」


私は、静樹を見送った。


リビングに戻って、ご飯を食べ直す。


私は、あの夜から一人で眠れなかった。


ご飯を食べ終わって、お皿を洗う。


彼は、私をどうやって愛してくれたかを毎晩毎晩必死で探した。


もう二度とれられないと気づいた日から、私はだんだん一人で眠れなくなっていった。


冷蔵庫から、ビールを取り出して飲む。


いつも、ベロベロになったぐらいに静樹が帰宅する。


私は、静樹に抱き締めてもらう。


生きてる人間の暖かさを忘れた私は、静樹の暖かさにれた瞬間から温もりが欲しくて堪らなくなった。


静樹も同じだった。


私と同い年の静樹、同じ時期に愛するものを失った。


彼が、何故あの日、あの桜の木の下にいたのか私はわからなかった。


会いたいよー。


会いたい。


ボロボロと涙が流れる。


涙は、一生枯れない。


どこに行ったの?


私は、君の声も忘れてしまった。


「会いたいよー。会いたいよー」


ガチャ…


「また、飲み過ぎちゃったの?」


いつの間にか、帰宅した静樹が私に声をかけた。


「飲み過ぎちゃったの」


「あー。はいはい」


「暖かいよ。静樹」


「生きてるのだから、当たり前よ。なっこも、暖かくて大好きよ」


「私も、大好きだよ。静樹」


静樹は、私を抱き締めてくれる。


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