片付けと八

僕は、コンビニの早朝バイトを終えていったん家に帰ってきた。


「ただいま」


九你臣くにおみ、お母ちゃん、今から竹富さんにお金いれてくるんやけど。あっ、これこれ。九你臣の引っ越し代。足りんかったら、またゆうてね」


「おかん、ありがとう」


「ううん。お父ちゃんに頼まれてきたんやろ?たっくんが、いななって毎日泣いてたからやろ?」


「おかん。」


「まあ、九你臣がフリーターでよかったって初めて思ったわ」


そう言って、母は笑って僕の頭を撫でた。


「おかん、僕。孫とか無理かもしれんよ。」


「はあ?朝から、何ゆうてんの。兄ちゃんは、死ぬ日にお母ちゃんにセックスしたいゆうわ。とんだ、兄弟やな」


母は、僕の頭をパチパチ叩いた。


「兄ちゃん、死ぬ前にセックスなんてゆうたん?」


母は、顔を赤くした。


「なんで、恥ずかしがっとんねん。そっちが、ゆうてきたくせに」


「だって、九你臣から孫とか聞いたらお母ちゃん悲しい。九你臣、そんなんしてるんか」


「おかん、僕、25歳やで。それぐらいあるやろ」


「そうよなぁ。そりゃ、あるわな」


「なんで、悲しい顔してんねん。おかんとは、できんよ」


「当たり前やんか、気持ち悪い」


「ひっどい、言い方やな」


母は、僕の肩を叩いた。


「九你臣が、お母ちゃんとお父ちゃん以上に好きな人ができたなら。男でも女でもなんでもええわ。あっ、お化けやったら嬉しいかなあ」


「おかん、結婚して欲しないんやろ?」


「うん」


「それ、ホンマにゆうてる時の顔やな」


「うん、ゆうてるよ。だって、たっちゃんいななって九你臣しかおらんねんも。遅くにして、結婚すんの。アカン?」


「チワワみたいな目されたら困んねんけど」


「あっ、もう行くわ。九你臣もさっさと片付けてきーよ」


「はーい」


母は、出て行った。 


痛い程、気持ちわかるよ。


僕まで、いなくなったら寂しいもんね。


奥さんが、出来たらそっちにいっちゃって寂しいんだよね。


僕は、鍵を閉めて家を出た。


自転車で、アパートについた。


はち、なんでおるん?」


「会いたかった」


八は、僕の手を掴んだ。


「こんかったらどうしてたん?」


「こんかったら、連絡したけど。夕方までは、いるつもりやったから」


「それは、待ちすぎやから」


僕は、八を家にいれた。


「何か、あったん?」


「うん」


「仕事は?」


「休んだ。」


八は、僕を抱き締めてきた。


「どないしたん?」


「朝、仕事行こうとしたらおかんがきた。」


後ろから、抱き締めてきた手首に包帯が巻かれてる。


「これ、どないしたん?」


「また、男に捨てられたらしいわ。お金とりにきたわ」


「で、手はなに?」


八角はっかく死のうやってさ。毎回やねん。男に捨てられたら、俺を道連れにしようとするから。で、血ぃとまらんかったから病院いって職場休んだ。家引っ越したら、職場に来るから。家も引っ越されへんし。ホンマに困るわ」


そう言って、八は僕にくっついてる。


僕には、八や竹君の気持ちがわからない。


「ごめん。僕は、八の気持ちがわからんくて」


「こんなんわからん方がいいよ。俺は、幸せな家に育ったきゅうやから好きなんやと思う。同じ境遇の人はホッとするけど。長いこと一緒におったら、どっちかが、傷つけてくねん。俺は、知ってる。中途半端にお互いの痛みがわかるから、優しくできへんくなる。だけど、九は違う。最初から、俺の気持ちをわからへん。それが、いい。わからへんから、優しいままいてくれる。」


八は、そう言って僕の肩に顎を乗せる。


「ちょっと見ていい?手」


「うん」


八は、僕から離れて向き合った。


手を差し出してくれた。


八は、スルスルと包帯を外した。


「消毒してくれへん?」


ポケットから、ガーゼを出した。


「こっち座って救急箱とるから」


僕は、救急箱をとった。


ソファーに、八を座らせた。



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