【九】衝撃の取っ組み合い
な、何。立っていられない。
凄い地響き。この揺れはまるで地震だ。震度五はありそうだ。いや、もっとあるかもしれない。
嘘でしょ。巨大狸の身体が浮き上がり、地面に叩きつけられた。
うわわわっ。縦揺れが凄い。脳みそが揺れる。
巨大猫の見事な上手投げだった。ドヤ顔している。
とんでもないところに来てしまった。こんなところにいたら殺される。どうしよう。
やめて、やめて。お願いだから、やめて。
今度は何をするつもり。巨大猫が巨大狐の尻尾を掴み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
巨大狐が、回る、回る。凄い風。まるで竜巻。飛ばされちゃう。
なに、なに。顔に何かが張り付いてきた。なにこれ、毛。巨大狐の毛だ。もう、嫌だ。
突然、ガシンと金属音のような響きが耳を突く。
どうなっているの。身体が金属でできているとでもいうの。違う、爪と爪がぶつかりあっているんだ。
なんなの、あの動き。グルグル回されているのに巨大狐が攻撃している。巨大猫は片手で巨大狐を振り回して、もう片方の手で防御している。
凄過ぎでしょ。
えっ、なに、なに。この地響きは何。
巨大狸が走り出し、強烈なタックルしていく。巨大猫が真上を飛んでいき、大樹に背中を打ちつけてその場にうつ伏せる。大丈夫なの。生きているの。
巨大猫はむくっと起き上がり、こっちに向けてニヤリとした。
嫌だ、何その目。
えっ、今のは何。いつの間にか巨大猫が巨大狸の目の前にいた。瞬間移動したの。
「グフッ」
巨大猫の拳が巨大狸の腹に食い込み呻き声をあげていた。唾液が飛び散る。
争いなんて見たくない。
嫌だ、嫌だ、こんなの嫌だ。
元の世界へ帰りたい。ここから逃げ出したい。
ダメ、ダメ、そうじゃない。止めなきゃ。
そう、そうよ。こんなのダメ。仲良くしなきゃダメ。このままじゃ、みんな怪我しちゃう。下手したら、死んでしまう。
ヒカリは頭を振り、気づくと叫んでいた。
「ダメ、争いは嫌い。やめてーーーーー」
三獣が
「合格だ」
えっ、なに。その目は何。合格って何。思わぬ言葉に思考が停止してしまった。
巨大狐に巨大狸に巨大猫が一緒になって手を高らかに上げ踊り出す。
「祝いの舞じゃ」
「ホッホ、ホホイノ、ホホイノ、ホホイノホイホイ」
何が始まったの。
「ほら、おまえさんも一緒に」
巨大猫に手を取られて三獣の輪の中へ。嫌だ、こんな踊り恥ずかしい。けど、巨大猫の肉球の感触が気持ちいい。ずっと手を放さないでいてほしい。
「ほらほら、声を揃えて」
えっ、あの変なの言うの。
「ホッホ、ホホイノ、ホホイノホイホイ」
「手を挙げて。そうそう。あっ、ホホイノが足りないぞ」
ああ、もうなんなのよ。この先、どうなっちゃうの。それよりも怪我はしていないの。大丈夫なの。
「これでこの国も安泰だな。姫巫女、いや
「ちょっと待って。私、その巫女にも女王にもなるなんて言っていないわ。それに私はヒカリ。陽与じゃない。陽与って名前は可愛いけどやっぱりヒカリなの。名前を変えるなんてイヤだ」
三獣は踊るのをやめて背を向けてなにやら話し出した。
チラチラとこっちに目を向けている。口答えするとは生意気な奴だと思っているのだろうか。
どうしよう。殺されるの。そんなことしないでしょ。ヒカリは急に怖くなって身体が強張るのを感じた。
あっ、睨まれた。いやいや、そんなことはない。大丈夫、きっと。脇の下に汗がじんわり
『あいつはダメだ』と元の世界に戻してくれればいいけど。
「よし、そうしよう」
えっ、なに。どうするつもり。逃げたほうがいいのかも。
巨大狐を先頭に巨大狸と巨大猫が近づいて来る。
嫌だ、凄く怖い顔をしている。やっぱり殺されちゃう。嫌だ、そんなの。やっぱり逃げなきゃ。そう思うのに足が震えて動かない。結局、死ぬ運命だったのか。
「安心しろ。我らは意外と慈悲深いのだぞ」
「そうだ、そうだ。コセンの言う通り」
巨大猫がニヤリと笑みを浮かべた。そのとなりで巨大狸が頷いている。
ヒカリは三獣に目を向けて
「名前は変えないことにした。ヒカリという名でいこう。この国に光をもたらせてくれ。いいな」
「はい」
あっ、『はい』って口にしてしまった。
「今、『はい』と言ったな。巫女ヒカリ女王の誕生だ。ほれ、今度こそ祝いの舞じゃ」
「ホッホ、ホホイノ、ホホイノ、ホホイノホイホイ」
「ヒカリよ、我らはおまえを守る。安心せい。三神獣のひとり狐神コセンが守る」
「俺様もだ。狸神ムジンも守るぞ」
「おいらだって。猫神ナゴも守るのだ」
ちょっと、何を言っているの。女王なんてできない。撤回させてと言おうとして、ナゴにまたしても手を取られて言えず仕舞いになってしまった。
「ほら、歌え、踊れ。祝いの舞だ」
三神獣が踊りながら歌い、自分の周りをグルグル回る。圧倒されて棒立ちになっていると、ナゴが再び歌え、踊れと促してきた。
なんで、こうなるの。それでここは結局どこなの。
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