太のまんぷくグルメ紀行 (8)

 ――夕方 JR名古屋駅


 日本有数の大都市・名古屋。

 その玄関口である名古屋駅に降り立った太。

 今回の旅の目的地である。


「よし、ここからは時間との勝負だ……!」


 まさか、まだ食べるの……?


「名古屋を食い尽くすぞ!」


 ツッコむ気にもならない。

 お腹壊さないようにね。


 ◇ ◇ ◇


 ――名古屋市街 某所


 地下鉄を乗り継ぎながら辿り着いた一軒のお店。


『味噌煮込みうどん』


 太の炭水化物カーニバルの幕開けだ。

 店に入り、おもむろに注文。


「『親子煮込みうどん』を大盛りでお願いします」


 一軒目から大盛り……

 やがてグツグツいった大きな土鍋が太の前に置かれた。

 蓋を開けると、味噌のいい匂いが鼻孔を刺激する。


「熱々のうちに……いっただっきま〜す!」


 蓋を逆さに持ち、そこに熱々のうどんを移す太。

 名古屋の味噌煮込みうどんの土鍋の蓋には、空気穴が空いていない。

 取皿としても利用できるのだ。


「(ずるるるるる)うーん、しっかりコシもあるし、濃厚な味噌味がたまんね〜! かしわも美味しい!」


 今回、太が注文した『親子煮込みうどん』は、かしわ(鶏肉)と玉子が入っているちょっと豪華な一品。

 うどんが進む進む。


 あっと言う間に完食。


「名古屋の味噌文化、堪能しました! し・あ・わ・せ♪」


 寒い冬にも最高の一品だった。

 店を出た太は思う。


「味噌繋がりでアソコ行くか……」


 味噌にハマったようです。


 ◇ ◇ ◇


 ――名古屋市街 某所


 地下鉄で移動し、新たな店の前に立った太。

 店の建物には、豚さんが描かれている。


 そう、名古屋名物『みそかつ』である。


 もう食べるメニューは決めてあったのだろう。

 入店後、店員さんにすぐさま注文。


「『わらじとんかつ定食』ください」


 『わらじとんかつ』、もう響きだけでデカいことがわかる。

 わらじサイズの大きなとんかつなのだろう。


「お待たせしましたー」


 そのわらじは、想像以上に大きかった。

 目測で、普通のとんかつの倍はあるのだ。

 半分はみそだれ、半分はソース味になっている。


「うはー、腹減ってきたーっ!」


 ウソだろ……


「名古屋の味噌文化第二弾! いっただっきま〜す!(ぱくり)」


 みそだれの濃厚な甘さが太の脳ミソを直撃する。


「濃い〜♪」


 間髪入れずにソース味のとんかつを投入。


「(ぱくり)ソ〜ス♪」


 なんだそれ。


「(ぱくり)濃い〜♪」

「(ぱくり)ソ〜ス♪」

「(ぱくり)濃い〜♪」

「(ぱくり)ソ〜ス♪」


 わらじとんかつの二重奏は、太の心を鷲掴みにした。

 そして、完食。


「名古屋の味噌文化、恐れ入りました! し・あ・わ・せ♪」


 お腹をポンポンッと叩きながら店を出る太。


「次は『味噌』と来たら『あん』だよな」


 ま、まだ食うの……?

 太は地下鉄の駅へと向かっていった。


 ◇ ◇ ◇


 ――名古屋市街 某所


 名古屋市内でも賑やかな場所だ。

 地下へ降りる階段の前には、こんな看板があった。


『あんかけスパゲティのお店』


 次に太が挑むのは、名古屋名物『あんかけスパゲティ』だ。

 地下にあるお店に入り、メニューを眺める太。


 一番ベーシックなのは、お肉(赤いウィンナーやベーコンを刻んだもの)と野菜がたっぷりと乗った「ミラネーズカントリー」、いわゆる『ミラカン』である。他にも色々と多彩なメニューが揃っているが、『ミラカン』を頼んでおけば問題ないであろう。


「すみません、『ミラネーズ』をお願いします」


 コ、コイツ、野菜抜きの肉だけスパゲティにしやがった……


「あ、あとダブルとソース増しで」


 説明は不要かと思うが『ダブル』は二人前、そしてスパイシーなあんソース増しを注文したのである。

 空腹の成人男性でもお腹いっぱいになる量だ。


 そして、料理が目の前に届くと、太はあることに驚いた。


「スパゲティが……ふ、太い……!」


 『あんかけスパゲティ』に使用されるスパゲティは、なんと 二・二ミリ。

 一般的な家庭向けのスパゲティが一・六〜一・七ミリ程度なので、いかに太いかがお分かりいただけるだろう。

 そのごんぶとスパゲティが、大量のあんにまみれて二人前あるのだ。

 もちろんその上には、赤いウィンナーとベーコンの刻んだものがドカッと乗っている。

 他で色々食べてきた人が食べる量ではない。


「うっひょ〜! また腹減ってきた〜!」


 もうツッコミません。


「(ずぞぞぞぞぞ)ぐあぁー! 軽やかなスパイシーさがたまんねぇー! (ずぞぞぞぞぞ)」


 胡椒の効いたスパイシーなあんが、ごんぶとスパゲティに嫌というほど絡みつく。


「(ずぞぞぞぞぞ)」

「(ずぞぞぞぞぞ)」

「(ずぞぞぞぞぞ)」


 あんかけスパゲティにやられた太。

 額に汗しながら、スパゲティをすすり続けた。

 そして、完食。


「これは地元でも食べたい味だわ……毎日通ってもいい……」


 ちなみに、数は少ないですが、東京でも食べられるお店はあります。


「超大満足! ごちそうさまでした! し・あ・わ・せ♪」


 幸せそうな太の笑顔。

 そのお腹は、明らかに膨れている。

 もういい加減限界だろう。

 階段を上がり、地上に出た太はため息をひとつ。


「ふぅ〜、次が本番だ!」


 今までのは何だったんだ?


 大きなお腹を揺らしながら、地下鉄の駅を目指す太。

 オマエは一体どこへ向かおうというのか……


 ◇ ◇ ◇


 ――名古屋市街 某所


 太、最後の戦いの場がこの中華料理店。

 黄色い看板には『台湾料理』の文字が光っている。


「ボクは負けない! 名古屋を食い尽くすんだ!」


 いや、だから何と戦っているんだ、オマエは。


「詩穂ちゃん、ボクに力を分けてくれ!」


 詩穂を巻き込むな。


 いざ店内へ。

 座席について開口一番。


「『台湾ラーメン』をお願いします!」


 太が最後に選んだのは、これも名古屋名物『台湾ラーメン』である。

 名前は『台湾ラーメン』だが、名古屋発祥のラーメンだ。

 台湾の麺料理である担仔タンツー麺を辛くしたものが元になっている。


 辛い。

 そう、『台湾ラーメン』は辛いのだ。


 太の前に置かれた『台湾ラーメン』。

 スープが赤い。そして、麺が見えないほど乗ったひき肉、そして唐辛子。

 見ているだけで汗が吹き出てくる。


「よーし、ボクの力を見せてやる! いただきます! (ずるるるるる)」


 美味い、そして辛い。

 押し寄せる美味しさと辛さに、食べながら笑みが浮かぶ太。

 不気味である。


 しかし、半分ほど食べたところで、太の箸が止まった。


「ヤバい……このままでは……」


 さすがにもう限界なのだろう。

 無理してはダメだ。

 また食べにくればいいじゃないか。


「すみません、ライスください」


 優しい言葉をかけた私がバカだった。


 ライスを片手に『台湾ラーメン』を貪る太。

 炭水化物のハーモニーに、ディストーションの効いたひき肉と唐辛子が激しいリフを刻む。

 舌を震わせる旨味と辛味のブラストビート。

 スープの中へステージダイブ……いや、ドンブリダイブしたい太。

 脳髄を激しく刺激する名古屋のハードコアテイスト。

 麺と飯をかっ食らう太の姿は、激しくスラムダンスしているようだ。

 弾け飛んだ太の汗が、照明にあたってキラキラと輝く。

 実に汚らしい。


 そして、汁まで全部飲み干し、完食。


「辛かった……でも美味しかった! し・あ・わ・せ♪」


 名古屋のご当地グルメたちに完勝し、満足感に浸る太。


「げっぷ……」


 勝利者の雄叫びであった。


 ◇ ◇ ◇


 ――名古屋市街 某所


 太は、名古屋に本拠地を置く飲食チェーン店に来ていた。

 お店のイメージキャラクターである女の子が可愛い。

 名古屋で手軽にスイーツを食べるのには、ぴったりのお店だ。


「最後は甘いデザートで締めよう」


 デザートは別腹な太。

 メニューを覗き込む。


「こ、これは……!」


 ――十分後


 太の目の前には、カップに入ったストロベリーソースのかかったソフトクリーム『ベリークリーム』がある。

 締めのデザートだ。


 が、もうひとつ置かれていた。


『特製ラーメン』


 この店は、ラーメンとスイーツのお店なのだ。

 『特製ラーメン』は、玉子とチャーシューが追加された豪華なラーメン。

 なんとこの内容で五百円ちょっとという、超リーズナブルな一品。

 ちなみに、普通のラーメンは三百円台、ミニラーメンに至っては二百円台だ。

 まさしく企業努力の賜物だろう。

 学生さんたちが多いのも頷ける。


 そして、特徴的な『ラーメンフォーク』。

 給食の時に使った先割れスプーンの進化系だ。

 太もこの『ラーメンフォーク』でラーメンをいただく。


 っていうか、まだ食べるの?


「(ずるるるるる)うん! しっかりラーメンしてるし、チャーシューも美味しい! これがこの値段なのはスゴいな(ずるるるるる)」


 麺も、チャーシューも、玉子も、ついでにスープもペロリと全部平らげた。

 オマエの胃はブラックホールか。


 そのまま『ベリークリーム』を食べ始めた太。

 今回のグルメ旅行に思いを馳せる。


「明日の朝食は『小倉トースト』で、昼は聖地巡礼で『シロノワール』、もう一回『あんかけスパゲティ』食べて、帰りの新幹線に間に合うように『ひつまぶし』……うん、こんな感じだな」


 早くも明日の予定を立て始めていた。

 もう特にコメントはないです……


 幸せそうな笑顔を浮かべる太。

 口の横には、ソフトクリームがついていた。


 太の旅、終着駅にはまだまだ辿り着けないようだ。

 太の食い尽くしの旅は続く……




 ◇ ◇ ◇


 <作者より>


 作中で登場したご当地グルメは、すべて実在しています。

 作者はどれも実際に食べており、美味しさを確認しております。


 その土地ならでは味。

 機会がございましたら、ぜひご賞味ください。



 山本家総本家

  (味噌煮込みうどん)

   http://yamamotoya.co.jp/


 矢場とん

  (みそかつ)

   https://www.yabaton.com/


 ユウゼン

  (あんかけスパゲティ)

   https://ankake-yuuzen.com/


  ※「あんかけスパゲティ」といえば『ヨコイ』ですが、

   作者は行ったことがありません……


 ヨコイ

  (あんかけスパゲティ)

   https://yokoi-anspa.jp/


 台湾料理 味仙

  (台湾ラーメン/発祥の店)

   https://www.misen-ganso.jp/misen/


 スガキヤ

  (ラーメンとスイーツのお店)

   https://www.sugakico.co.jp/menu/


 名古屋駅で小倉トースト巡り! 駅出口別おすすめ店20選

  (小倉トースト/色々な喫茶店で食べられます)

   https://tabelog.com/matome/21019/


 コメダ珈琲店

  (シロノワール)

  ※メニューの「デザート」のページにあります。

   https://www.komeda.co.jp/


 うなぎ料理 うな和

  (ひつまぶし)

   https://www.unawa.jp/


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る