その後の物語 5 - 鷹羽絵美里と天木達也 (2)
※ご注意※
物語の中に性犯罪の描写がございます。
お読みいただく際には十分ご注意ください。
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達也は、自分のスマートフォンの画面を私に向ける。
そこには、私(絵美里)と達也が裸で抱き合っている写真が表示されていた。
「それは消すって言ったじゃない!」
スマートフォンを奪おうとする私の手をひらりとかわす達也。
「何で残ってるんだろうねぇ〜?」
達也は、いやらしい笑顔を浮かべた。
「こんなのもあるよ」
スマートフォンを操作する達也。
『ああぁ……あぁん……』
店内に私の嬌声が響き渡った。
私も知らない隠し撮りされた動画だ。
「こんなのいつ撮ったの! 止めて! 早く止めて!」
達也はスマートフォンをタップし、動画の再生を止めた。
「これ、エロ動画サイトに投稿してみよっか。アングラなサイトで売り捌くのもいいな。かなりいい値で売れるぜ〜」
「お願いだからやめて!」
ニッと笑う達也。
「んじゃ、金貸してくんない?」
私は泣き出したい気持ちを抑えて、バックヤードに向かい、財布を取ってきた。三万円を差し出す。
それを奪うように掻っ攫った達也。
「たったの三万かよ……まぁ、いいや。一週間後にまた来るからさ、五十万用意しといてよ」
「五、五十万⁉」
「そしたら、写真は全部削除してやるよ」
「…………」
「動画は五百万かな。安いだろ?」
「そんなお金……」
「自分の人生を五百万で買えるんだぜ、安いと思うけどな」
「…………」
「とりあえず、五十万位は用意できんだろ?」
そんなお金は持っていないが、私はうなずくしかなかった。
「OK! じゃあ、来週またこの時間に来るから、じゃあな」
去っていく達也。
「あ、絵美里」
達也は扉の手前で振り返った。
「警察とかにチクったら、写真と動画はネットの海に放出するからな」
〜♪
達也は店から出ていった。
もう仕事どころではない。
私はどうしたらいいのか分からず、ただレジカウンターの中で立ち尽くしていた。
涙が込み上げてくる。
私の心は絶望に支配された。
◇ ◇ ◇
「絵美里ちゃん、ちょっと」
オーナーの奥さんにバックヤードへ呼び出された。
そこには、難しい顔をしたオーナーも奥さんの後ろに座っていた。
「絵美里ちゃん」
「はい」
「正直に言って」
「何をでしょうか……」
「何があったの?」
「え……?」
「私たちが来るまでの間に、何かあったでしょ?」
「い、いえ、何も……」
「ウソよね」
「…………」
「だって、ドリンクの補充もできてない、肉まんのケースも空よ。売り場を見てみても、在庫補充も商品の前出しも出来てない。いつもの絵美里ちゃんならあり得ないわ」
「あ、あの、お客さんが多くて……」
「POSレジ、来客数と売上金額はいつもと同じくらいよ」
「…………」
奥さんは、諦めたように小さなため息をつく。
「絵美里ちゃん、これを見て」
私が奥さんの指差す方には、防犯カメラの映像が映し出された液晶ディスプレイがあった。
「あなた、お願い」
オーナーは私に背を向け、マウスを操作している。
ディスプレイに映し出されたのは、私が達也にお金を渡す場面だった。
一万円札を三枚、鮮明な映像が映し出されている。
「絵美里ちゃん、一体何があったの?」
瞳から涙が滲み出てくることを感じる。
泣かないって、誓ったはずなのに。
そんな私を奥さんは優しく抱き締めてくれた。
誓ったはずなのに。
誓ったはずなのに。
涙が止まらない。
私は嗚咽を止められず、奥さんにしがみつきながら、すべてを打ち明けた。
奥さんは私を強く抱き締めながら、頭を撫で続けてくれた。
「大丈夫だからね、何も心配することないから、全部私たちに任せて、ね」
オーナーも、奥さんと、奥さんの胸で泣きじゃくる私を包み込むように抱き締めてくれた。
◇ ◇ ◇
――一週間後
〜♪
客の入店を知らせる電子音。
「いらっしゃいませー」
レジカウンターのオーナーが挨拶した。
そこにやってくる若い男。達也だ。
「お仕事中すみません、鷹羽(絵美里)さんはいらっしゃいますか?」
オーナーがそのまま応対する。
「あ、もしかすると天木(達也)くんかな?」
「え、あぁ、そうですけど……」
「鷹羽さん、今、急な配達に行ってもらってるんだけど、十分くらいで帰ってくるから。何か渡すものあるから待っててもらってくれって、そう伝言頼まれてる」
明るい表情に変わる達也。
「そうなんですね、わかりました」
「あそこにイートインのスペースあるんで、あそこで待ってたら?」
「じゃあ、ちょっと場所お借りします」
「はい、はい、どうぞご自由に」
達也は、店舗奥のイートインスペースへ向かった。
オーナーは、バックヤードにいる奥さんに合図を送る。
◇ ◇ ◇
――十分後
〜♪
入店の電子音が流れる。
達也は、イートインスペースでスマートフォンをいじっていた。
「天木達也くんだね?」
達也が振り返ると、大人の男性が四人立っていた。
年齢はバラバラ。二十代くらいの若い男性から四十代くらいのオジサンまで。
頭にハテナマークが浮かぶ達也。
「はい、そうだけど……」
四十代くらいのオジサンがバッジを見せた。
「県警の生活安全課です」
スーツを着た若い男性が内ポケットから一枚の紙を取り出す。
「恐喝容疑で君に逮捕状が出ています」
紙を見せる若い男性。
確かに逮捕状と書いてある。
(あ、絵美里! 絵美里なのか!)
「ちょ、ちょっと待った! 俺は絵美里から金を借りただけだ! 脅し取るようなことはしてない!」
焦る達也。
「それ、ウソかホントか、すぐに分かるからね」
警察側は誰も相手にしない。
「そ、それに俺は未成年だ! 少年法で守られて――」
「未成年は逮捕されないと思ってんの?」
達也に被せるように話す三十代くらいの男性。
「え……されないんじゃないの……」
達也の冷や汗が止まらない。
「一月八日、午前八時十四分、逮捕」
その言葉と共に、達也の腕に手錠がかけられた。
呆然とする達也。
そのまま店から連れ出され、駐車場に止められていた車に乗せられて、所轄の警察署へと連行されていった。
◇ ◇ ◇
絵美里が事情を打ち明けたあの日、オーナー夫妻はすぐに行動に移した。
オーナーは防犯カメラの映像と音声を再確認。現在設置されている防犯カメラは、高解像度の映像と共に、音声も記録できるタイプのものだった。
映像と音声を確認後、オーナーの奥さんは、警察の性犯罪被害相談ダイヤル『#8103』へ連絡。事情を説明すると共に、すでに被害にあっていることと、明確な証拠があることを説明した。
直後、所轄の警察署の生活安全課から連絡があり、警官が証拠の確認に店まで来ることになる。
同日夕方、生活安全課の女性警官が派遣され、防犯カメラの映像と音声を確認。
達也が隠し撮りの動画を再生した場面では、冷静だった女性警官の目に怒りの炎が点った。
オーナー夫妻は、この映像と音声のデータを証拠として警察に提出。
同時に、絵美里立ち会いの元、被害届が出されて受理された。
容疑者(達也)確保のタイミングが一週間後ということもあり、警察側も緊急体制で対応にあたる。
証拠の精査と協議に多少の時間を要し、逮捕状の請求は容疑者が店に現れる二日前だったが、緊急を要する事態を裁判所側も理解し、翌日には逮捕状が発行された。
取り調べに対し、達也は当初すべてを否認、黙秘していたが、証拠の存在に観念し、全面的に恐喝の事実を認める。
幸い画像や動画データは、インターネットのアクセスログなどの分析で、クラウドストレージなどにアップロードはされておらず(該当するアプリ等もスマートフォンに無かった)、SNSや画像掲示板などへの投稿の履歴も見つからなかった。
自宅の捜索においてもパソコンやデータ保存のためのストレージ、記録メディアなどはなかったため、スマートフォンの中だけにしか保存されていないことが分かる。
達也本人から外部へ流出させたことはないとの自供もあり、画像と動画はスマートフォンごと没収され、証拠として確保された。
◇ ◇ ◇
――その後
達也は家庭裁判所へ送致され、結果保護観察処分となる。
その後の達也の行方は知れない。
噂では、本人の更生のため、家族で父親の田舎へ転居したらしい。
◇ ◇ ◇
――コンビニエンスストア
〜♪
「いらっしゃいませー!」
元気な絵美里の声が店内に響く。
事件の後、元気を取り戻した絵美里は、コンビニでのアルバイトを続けていた。
目下の悩みは体重だ。今は懸命にダイエットに励んでいる。
(私も頑張らなきゃ……そして、いつか高橋くんに……)
絵美里は、何度か駿の姿を見かけていた。
窓の外を歩いている姿、そして店で買い物する姿。
あの優しい目は変わっておらず、すぐに駿だと気付いた。髪を伸ばして、とても格好良くなっている。
でも、ネームバッジを外した絵美里には気付いていないようだった。
(もう見た目は、ほぼ別人だしね……)
そんな駿には、必ず側に小柄な女の子がいた。顔にそばかすが色濃く残る、でも笑顔が可愛らしい女の子だ。
駿の幸せそうな笑顔に、複雑な感情が湧いてくる。
(あんな優しい男の子を裏切り、私は落ちぶれた……あの女の子のように、高橋くんの隣にいられたのかもしれないのに、私は自らそれを拒否したんだ……)
心の中を後悔の気持ちが埋めつつも、絵美里は微笑む。
(高橋くん、あの女の子と幸せになってくれればいいな……そして、いつか、ちゃんと謝るんだ……)
絵美里は、駿へ謝れる自分になるために、今日も前を向いて働く。
〜♪
客の入店の電子音だ。
「いらっしゃいませー!」
絵美里の元気な明るい声が店内に響き渡った。
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<作者より>
繰り返しの掲載となり、大変恐縮です。
物語と繋がりはありませんが、よろしければ、ぜひお目通しください。
皆様に、特に女性に知っていただきたい・覚えておいていただきたい情報です。
(以下、#8891関連WEBサイト および『令和4年「女性に対する暴力をなくす運動」』リーフレットの掲載内容より抜粋)
◇ ◇ ◇
警察相談専用電話
#9110
◯ https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201309/3.html
110番通報というと重く感じ、中々電話できない方も多いかと思います。
そんな時は、警察相談専用電話『#9110』へお電話ください。
全国どこからでも、電話をかけた地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながる全国共通の電話番号です。
寄せられた相談に対しては、相談内容に応じて関係する部署が連携して対応し、指導、助言、相手方への警告、検挙など、相談者の不安などを解消するために必要な措置を講じます。
相談者や相談内容が多岐にわたるため、お伺いする内容によっては、例えば、性犯罪被害者あるいは少年を対象とした警察に設置された別の専用相談窓口を紹介するほか、他の機関において対処することがふさわしいものについては、法テラス、消費生活センター、児童相談所や女性相談所などの専門の機関への引継ぎや紹介をしています。
◇ ◇ ◇
警察庁 性犯罪被害相談電話
#8103
◯ https://www.npa.go.jp/higaisya/seihanzai/seihanzai.html
◯ 緊急を要する場合は、110番通報をお願いします。
発信場所を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながります。
あなたの心に寄り添いたい。
ひとりで悩まずにまずは相談してみませんか。
※土・日曜、祝祭日 および 執務時間外は、当直で対応します。
◇ ◇ ◇
他にも様々な相談窓口がございます。
◇ ◇ ◇
内閣府 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
#8891
◯ 最寄りのワンストップ支援センターにつながります。
◯ 通話料無料
◯ https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html
性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。
産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携しています。
ワンストップ支援センターでは、あなたの気持ちを第一に、必要なサポートを一緒に考えます。
プライバシーに配慮し、秘密は厳守します。
安心して相談してください。
◇ ◇ ◇
Cure time(キュアタイム)
https://curetime.jp/
叩いたり、蹴ったり、あなたの身体を傷つけることだけが暴力ではありません。
あなたがイヤだと思っているのに無理やりされる性的な行為もすべて暴力です。
これって普通なの? と思うこと、イヤだったこと、困っていること、モヤモヤしていること、何でも相談して下さい。
年齢・性別・セクシュアリティを問わず、匿名で相談を受け付けます。
毎日、十七時から二十一時。
チャットでお話をうかがいます。
他の人や身近な人に相談内容が漏れることはありません。
◇ ◇ ◇
ここまでお目通しいただき、ありがとうございました。
最後に『令和4年度「女性に対する暴力をなくす運動」リーフレット』に記載されているコピーをご紹介します。
話すことで、力をもらえる場所がある。
性犯罪・性暴力の相談窓口は、
あなたの声を何よりも尊重し、
あなたの意思を守ることに全力を尽くします。
「自分も悪いかも」と自分に言い聞かせて、
性暴力が "なかったこと" になってしまう前に。
まずは、あなたの声を聴かせてください。
あなたが望まない性的な行為は、性暴力です。
性犯罪・性暴力で悩んでいる方へ、
ひとりで悩まず、相談してください。
『#9110』『#8103』『#8891』『Cure time』覚えておいてください。
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