ほんの少し前の物語 - 中澤亜由美 (3)
――自宅 亜由美の部屋 午後八時過ぎ
両親とのささやかなクリスマスパーティも終わり、部屋でホッと一息。
(来年は、駿たちと遊びたいな……)
私は、クリスマスを友人たちと過ごしたい、と自分の気持ちを正直に両親に伝えた。
母は笑顔で了承してくれたが、父は少し渋い顔をしていた。
『私たちだってそうだったでしょ?』
そんな母の一言で、父も渋々了承してくれた感じだったが、実際には改めて説得が必要だろう。
ベッドにごろっと横になる。
(でも、一年後だもんな……)
何となく、スマートフォンに保存されているたくさんの駿やさっちゃん、ギャル軍団たちの写真を眺める。
(今頃、みんな楽しんでるんだろうな……)
駿とさっちゃんが仲良く笑顔でピースサインしている写真が画面に表示される。
(駿とさっちゃん……もうキスとかしたのかな……)
胸がチクンと痛む。
(もしかしたら、その先も……)
幸せそうに裸で抱きしめ合う駿とさっちゃんの姿が思い浮かんだ。
胸が痛い。
(もう今さらだもんね……考えたってしょうがない……諦めたのは私だ……)
駿とギャル軍団の写真が表示された。
ジュリアが変顔しているのを、駿とココアがケラケラ笑い、キララは頭を抱えている。
(みんな可愛いな……)
写真アプリを閉じ、LIMEを起動する。
新しいメッセージはない。
ふぅ、と小さなため息。
(好きな子と、あんなに可愛い女の子たちに囲まれて……駿、楽しんでるだろうな……)
胸の奥からじわりと涙が込み上げてくる。
〜♪
スマートフォンから着信音が鳴った。
画面に表示されていたのは――
『音声通話 駿』
(駿!)
慌てて受話器のアイコンをタップする。
「もしもし」
『もしもし、亜由美? 駿だけど』
「どうしたの?」
『いや、クリスマスイブなのに亜由美と話してないな、と思ってさ』
(私のこと、覚えていてくれた……!)
『あれ? もしもし、亜由美?』
私は、溢れてくる喜びで声を出せなかった。
『亜由美、どうした?』
「ううん……駿の声が聞けて……すごく嬉しい……」
私の声は震えていた。
『亜由美、今どこだ』
「家だよ」
『何があった、すぐ行くから待ってろ』
駿を心配させてしまい、焦る私。
「ううん、もう大丈夫。今、本棚に足の小指ぶつけちゃって」
『マジか! 痛そう……泣いてるような声だったからさ』
「もう大丈夫だよ、ありがと。駿は楽しんでる?」
『あぁ、さっきBURN(ライブハウス)出て、今からオレの部屋でゲーム大会』
「あら、ハーレムルートじゃない。おいたすんじゃないわよ!」
『するか!』
私は、思わず大笑いした。
『今、飲み物買いに外出たところでさ、それで亜由美に電話したんだよ』
駿の言葉に心が暖かくなる。
「そっか、わざわざありがとね」
『初詣の件は、さっちゃんから聞いてる?』
ちょっと怪訝な雰囲気を出す私。
「やっぱり駿、来るの……?」
『行くよー』
「えー」
『んじゃ、聞くけどさ、さっちゃんとふたりきりで、目の前にラブホがあります。どうする?』
「無理やり連れ込む……はっ、つい本音が!」
『そういう亜由美の
「ぶぅー」
『だから、ぶうたれるな』
ふたりで大笑いした。
「まぁ、今夜は楽しんで」
『おぅ、そうするよ……って、電話切るところだった……』
「どうしたの?」
『これを言いたくて電話したんだった』
「ん?」
『メリークリスマス、亜由美』
(駿……)
私は、また震えそうになる声を必死に耐えた。
「メリークリスマス、駿」
『じゃあな、亜由美。何かあったら遠慮なく連絡くれな。絶対我慢すんなよ』
「うん、わかった。ありがと。じゃあね、楽しんで、駿」
『うん、じゃあ』
プッ ツー ツー ツー
私は、通話の切れたスマートフォンを抱きしめた。
(駿は……駿は、ちゃんと私のことを覚えていてくれた……!)
涙が溢れてくる。
(私は、まだ駿のそばにいていいんだ……!)
駿がさっちゃんを好きなのは分かってる。
私のことをそういう風に見ていないことも。
私だって駿を諦めたんだもの、お互い様だ。
それでも、そばにいられる。
駿の優しさに触れられる。
それが何よりも嬉しかった。
それだけで良かった。
駿からの電話は、駿の中に私が存在しているのだと、それを確認させてくれた。
(駿からのクリスマスプレゼントだ……)
今年の駿からのクリスマスプレゼントは、何者にも代えがたい、大切な大切なものだった。
私は、駿への想いを込めて、スマートフォンを抱きしめ続けた。
(駿、ステキなプレゼントをありがとう……!)
私の心に『クリスマスの奇跡』という名の小さな小さな暖かい灯りが
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