その後の物語 1 - ひるまゆうじ君 (2)

「うわぁーっ、ひろいこうえんだね!」

「あっちの芝生でお弁当食べようか?」

「うん!」


 ゆうじくんと由美子は、近所の大きな公園へピクニックに来ていた。

 イジメられるようになってから外に出るのを嫌がっていた由美子だったが、ゆうじくんから勇気をもらい、手作りのサンドイッチとジュースを持って遊びに来たのだ。

 夏休みも終盤、まだまだ暑い日が続いていたが、自由に入れる広い芝生には家族連れや若いカップル、身体を焼いている人などもいて、それなりに賑やかな様子。


「あっ、あそこの木陰がきっと涼しいよ! 行こっ!」

「うん!」


 仲良く手を繋いで木陰へ向かうふたり。

 公園にいる周りの人たちも、小さな可愛いカップルに目尻を下げた。

 木陰でレジャーシートを広げて、持ってきたお弁当を取り出す。タマゴサンドにハムサンド、ウインナーと唐揚げが入っていた。どれもゆうじくんの大好物だ。


「うわぁ~、すごくおいしそう~!」

「由美子お姉ちゃんの手作りだからね! 美味しいぞぉ~」


 笑顔の由美子に、満面の笑みで返すゆうじくん。


「ゆみこおねえちゃん、たべていい?」

「はい、どうぞ! 召し上がれ!」

「わ~い! いただきまーす!」


 ゆうじくんは、サンドイッチに手を伸ばした。


 ガッ


 ランチボックスを何者かに蹴飛ばされ、地面に転がるサンドイッチや唐揚げ。


「あーっ!」


 ゆうじくんと由美子が顔を上げると、そこにはイジメっ子の安田と手下の三人の男子がいた。茶髪のマッシュウルフカットが安田で、坊主頭とスポーツ刈りが手下だ。

 ニヤついている安田たち。


「何するの!」


 安田たちをキッと睨みつける由美子。


「オマエ、今日も顔洗ってねぇのかよ。顔が汚れてんぞ」


 安田と手下たちは、由美子の顔を指差し、ゲラゲラ笑っている。

 そばかすを馬鹿にされ、由美子は顔を真っ赤にしてうつむいた。


 ゆうじくんは気が付く。


(こいつらがゆみこひめをくるしめてるモンスターだ!)


 相手は自分よりも身体の大きな小学生。

 怖い。身体が震えているのが分かる。

 ゆうじくんの視界に、目に涙をため、歯を食いしばっている由美子の姿が映る。


(こわくない! ぼくはゆうしゃだ! ゆみこひめをまもるんだ!)


 立ち上がったゆうじくんは、由美子と安田たちの間に立ち塞がる。


「何だ、このチビすけは」

「ボクはゆうしゃ! ゆうしゃのゆうじだ!」


 安田を睨みつけるゆうじくん。


「ゆうしゃ~?」

「おまえたちなんてこわくないぞ! ゆみこひめ、あんしんしてください!」

「ゆうじくん……」


 そんなゆうじを見て、大爆笑する安田たち。


「おい、チビゆうしゃ。オマエが俺に勝てると思ってんのか?」

「ボクはゆうしゃだ! おまえなんかにまけないぞ!」


 バチンッ


「ぎゃっ!」


 躊躇なくゆうじくんを殴りつけた安田。

 殴られたゆうじくんは、ゴム毬のように吹き飛ばされた。


「ゆうじくん!」

「なんだよ、弱ぇ勇者だな」


 安田たちは爆笑している。

 殴られた痛みと、絶対に敵う訳のない安田たちに恐怖するゆうじくん。

 それでも、目に涙をためた由美子の姿が目に入ると、その恐怖は消えた。

 起き上がり、もう一度安田たちの前に立ち塞がる。


「ボ、ボクはゆうしゃだ! おまえたちなんか、こ、こわくないぞ!」


 ゆうじくんは泣きたいのを我慢して、安田を睨みつける。


「オマエ、半べそかいてんじゃねぇか。生意気なチビ! ぶっ飛ばしてやる!」


 バチンッ バヂッ ガッ ガッ バヂッ


 殴られ、倒れたゆうじくんに追い打ちをかける安田。


「やめてっ!」


 由美子は身体を張って、ゆうじを庇った。


「どけ、ブス!」

「きゃっ!」


 由美子を足蹴にする安田。

 由美子は、そのまま地面に転がってしまう。

 そこに向かおうとする安田。


 しかし、ゆうじくんは立ち上がった。

 そして、由美子を守るため、安田たちの前で両手を広げて立ち塞がる。


「ボグわ……ゆうじゃだ……ゆびごひべをまぼでゅんだ……まぼでゅんだ……」

(ボクは……ゆうしゃだ……ゆみこひめをまもるんだ……まもるんだ……)


 鼻血を垂らしながら、自分を睨みつけ威圧してくる幼児。


「な、なんだ、こいつ……」


 その異様な光景と、ゆうじくんからの得も言われぬ圧力に、恐怖を感じる安田たち。


「おい! そんな小さな子に何をやってる!」


 異常に気付いた家族連れのお父さんと若いカップル、身体を焼いていた男性も駆けつけてきた。


「やばい! 逃げろっ!」


 一目散に逃げていく安田たち。


「ボク、大丈夫か⁉」


 ゆうじくんを横に寝かすお父さん。


「メグ、女の子の様子見てあげて」

「うん、分かった。キミ、大丈夫?」


 若いカップルも手分けして、ゆうじくんと由美子の面倒を見ている。


 ――しばらくして


「うん、幸い骨に異常はなさそうだから、目元の痣だけかな」


 家族連れのお父さんは、運良くお医者さんだったらしく、その場で診察してもらうことができた。


「ゆうじくん、もしも身体で痛いところがあったら、黙っていないでお父さんやお母さんに言うこと。いいね」

「はい! わかりました!」

「オマエ、元気でいいなぁ!」

「ね! 由美子ちゃんを守って偉いね!」


 若いカップルに頭を撫でられて、満更でもないゆうじくん。


「由美子ちゃんも、頼りになるナイトがいて良かったな!」

「はい!」


 由美子は、身体を焼いていた男性とお父さんに頭を撫でられていた。


「ゆうじくん、由美子ちゃん」


 家族連れのお父さんに改めて呼ばれるふたり。


「お弁当、残念だったね……」


 ふたりは、地面に転がる土まみれのサンドイッチを見て、うなだれてしまう。


「実は、この後あっちのバーベキューガーデンで、バーベキューをやる予定なんだ。どうだろう、一緒に食べないかい?」

「ありがとうございます。でも……あの……」


 少し困った様子の由美子。


「お金なんていらないから。オジサンの家族と一緒に食べようよ、ね!」

「由美子ちゃん、せっかくのお誘いだよ」


 身体を焼いていた男性が笑顔で由美子の顔を覗き込んだ。


「そうそう、勇者くんとお姫様でバーベキュー、楽しんできな」

「それがいいよ、ね!」


 若いカップルが、笑顔で由美子の背中をポンッと押す。


「す、すみません。ぜひよろしくお願いいたします!」


 頭を下げる由美子の真似をして、ゆうじくんも頭を下げる。


「よろしくおねがいいたします!」


 そんなゆうじくんを見て、笑い声が沸き起こる。


「そちらのお三人さんも、一緒にどうですか?」

「メグ、どうしよっか……」

「な、何かご一緒するのは図々しすぎるかと……」


 そんな若いカップルに、身体を焼いていた男性が声をかける。


「お肉の追加とかできるから、キミたちの分は私が出すよ」

「えっ⁉ い、いや、それはさすがに……」

「オジサン、結構稼いでるから大丈夫! ふたりの大切なお金は、大切なお互いのために使いなさい」


 そんな言葉をにこやかに言われ、顔を見合わせて顔を赤くする若いカップル。


「よし! じゃあ、みんなでバーベキューパーティーだ!」


 お父さんの一言で、その場にいた全員が満面の笑みを浮かべた。


 こうして色々とあったピクニックは、家族連れのお父さんのご厚意でバーベキューパーティになり、ゆうじくんと由美子は美味しいバーベキューに舌鼓を打った。


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