第126話 初詣 (4)
――元旦 朝
駿、亜由美、幸子の三人は、学校から少し離れた場所にある神社へ初詣に来ていた。
駿の目を盗み、ふたりきりになった亜由美と幸子は五人のテキヤの男に襲われてしまうが、すんでのところで駿が駆けつけ、無事救出された。
「ふたりとも落ち着いた?」
「うん……ホントにふたりともゴメン……」
「亜由美さん、もう無茶は禁止です! 駿くんの言いつけは守りましょう、ね?」
「うん、分かった……」
駿は、笑顔で亜由美の頭を撫でる。
「それと……駿くん……」
「ん?」
「また助けてもらっちゃいましたね……」
「さっちゃんが困ってたら、オレはどこにでも飛んでいくぜ」
「本当にありがとうございます……いつか必ず、ご恩をお返しします……」
「固く考えすぎだよ、さっちゃん。可愛い女の子を助けるのは、男の義務だからね」
笑い飛ばした駿。
幸子は、あの男に言われた言葉を思い出す。
(『お前、よく見ると、顔がシミだらけじゃねぇか、気持ち悪ぃな……そんな気持ち悪ぃチビブス、いらねぇよ』)
(あの男の言う通りだ……私は、やっぱりバケモノだ……)
心の奥底に封じていた『モノ』が、外に出ようと暴れ出す。
(駿くんは、私みたいなバケモノにも可愛いって言ってくれる……私、やっぱり駿くんが好き……大好き……)
しかし、幸子の駿への想いがそれを許さない。
幸子の心は、まだまだ不安定ではあるのだが、駿の優しい言葉や態度が支えになっているのだ。
幸子は、無意識ながらもそれを感じ取っていた。
「ううん……必ず……必ずお返しします」
「うん、分かった。その時を待ってるよ」
駿は、優しい笑顔を幸子に向けた。
バサッ
「お待たせ! 出来立てのお好み焼き、持ってきたよ! 食べて頂戴!」
テントの中に、美味しそうなソースの匂いが立ち込める。
「うおっ、美味そう!」
「わぁ! あのお好み焼きがまた食べられるなんて……!」
盛り上がる駿と幸子。
しかし、亜由美はふさいだままだ。
「亜由美さん、食べましょう!」
「う、うん……」
ふさいだ亜由美に抱きつく幸子。
「私、元気のない亜由美さん、嫌いです!」
「さっちゃん……」
「駿くん、トドメをお願いします!」
「あいよ」
亜由美の両方の頬をつねる駿。
「ひたひ……(痛い……)」
「いつまでしょげてんだ、亜由美ー!」
駿は、つねったままの頬を上下に振った。
「ひてててててて(痛てててててて)……痛いって、もう!」
「さっちゃん、亜由美、元気出たぞ」
亜由美を見て大笑いしている駿と幸子。
「もう……ありがとう、駿、さっちゃん……」
「よし、いただこうぜ!」
バサッ
「あ、あの……ウチの唐揚げも食べてみないかい……?」
見知らぬ男性が、大きな紙コップに入った唐揚げを持ってきた。
「姐さんから話聞いてね……怖い思いさせてしまって、すまなかった……お詫びってワケじゃないけど、ぜひ食べてみて。オジサンのオリジナルスパイスを使ってるから、味には自信あるんだ! じゃあ、店に戻んなきゃいけないから!」
男性はそそくさとテントを出ていった。
「おかずが出来ましたね……」
「だね……じゃあ、唐揚げも一緒に、いただきまー――」
バサッ
「あの、フルーツを使ったオリジナルソースの焼きそばをぜひ!」
バサッ
「ハチミツたっぷりのベビーカステラ、食べてみて!」
バサッ
「これオリジナルのたこ焼きで、細かく刻んだタコが沢山入ってるから、ぜひ食べてみてね!」
バサッ バサッ バサッ バサッ…………
気が付くと、テーブルの上には出店グルメがずらりと並んでいた。
「こ、これ、どうしようか……」
バサッ
「こんなことだろうと思った! お持ち帰りでまとめとくからね!」
お姉さんは、テキパキとパッキングして、すべてテイクアウト仕様にしてくれた。
「すみません、こんなことまでしていただいて……」
駿が頭を下げる。
「これでも足りない位だよ! 家で食べてね!」
「ありがとうございます!」
とりあえずは、熱々のうちにお好み焼きを食べていく三人。
「あちちち……やっぱ、うめぇ~!」
「ホントだ……出店のお好み焼きとは思えない……」
「お姉さん、あの時と変わらず、美味しいです!」
三人の様子に照れたお姉さん。
「そんなに喜んでくれると嬉しいね!」
お好み焼きを食べ終わり、お姉さんが出店グルメをまとめてくれた大きなビニール袋を持ってテントを出る三人。
「お姉さん、今年の夏祭りも楽しみにしていますんで」
「待ってるからね!」
「駿、言ってたもんね。お好み焼き屋さんには『いなせで綺麗なお姉さん』がいるから楽しみにだって!」
「あ、亜由美!」
亜由美の言葉に、お姉さんを見て思わず顔を赤らめた駿。
「こんなババァに、イケメン高校生が綺麗って言ってくれるたぁ、嬉しいね! 夏、みんなに会えるの楽しみにしてるからね!」
お姉さんに手を振りながら、三人は神社を後にした。
◇ ◇ ◇
駿たちは、大きなビニール袋を持ったまま田園地帯を歩いていく。
「これ、どうしようか……」
「食べ歩きできる量じゃないよね……」
駿と亜由美が悩んでいると、幸子がおずおずと挙手した。
「あの……よろしければ、ウチに来て、みんなでつつきませんか?」
「急に押し掛けちゃって大丈夫……?」
駿は、亜由美と顔を見合わせなから心配している。
「じゃ、じゃあ、お母さんにLIME送ってみますね!」
トートバッグからスマホを取り出し、喜々として操作した幸子。
ポコン
すぐに返信があったようだ。
「大丈夫です! お母さんもぜひ連れておいでって!」
「じゃあ、亜由美、さっちゃんの家にお邪魔させてもらおうか?」
「うん! さっちゃん、ありがとう!」
「いえ、お礼を言うのは、私の方なんです……」
幸子は寂しげな笑みを浮かべ、うつむいてしまう。
「あの……すごく恥ずかしい話なんですが……家にお友達呼んだりするの、初めてなんです……」
恥ずかしさで顔を赤くしながら、ゆっくり顔を上げた幸子。
「でも、初めてお呼びするお友達が憧れの亜由美さんと、ヒーローの駿くんなんて……すごく嬉しいです……」
幸子は、本当に嬉しそうに笑っている。
「駿くん、亜由美さん、いつも仲良くしてくださって、本当にありがとうございます」
頭をペコリと下げた幸子。
亜由美は、そんな幸子の顔を覗き込む。
「ふふふっ、さっちゃんの家にお呼ばれするの、私が初めてなんて光栄だわ」
「私、早くお母さんに自慢したいです。こんなステキなお友達がいるんだよって!」
「ありがと! さっちゃん!」
じゃれ合うふたり。
「さ~っちゃん、オレを忘れないでね」
駿は、幸子に後ろから声をかけた。
「駿くんを忘れるわけないじゃないですか!」
「さっちゃん、今日だけじゃなくてさ、ヒマな時とか、寂しい時とか、いつでも気軽に声かけてよ」
「でも、駿くん、アルバイトが……」
「バイトよりさっちゃんの方が大事だよ」
「LIMEしてもいいですか……?」
「もちろん! いっぱいお喋りしようよ!」
「お家に呼んでもいいですか……?」
「さっちゃん可愛いから、オレ、オオカミになっちゃうぞ~」
がおー、とおちゃらける駿。
「ふふふっ、優しいオオカミさんですね」
「ははははっ、いつでも呼んでよ」
「あー、さっちゃん、私もー」
「はい、もちろん亜由美さんもです!」
「さっちゃん……亜由美はオレより凶悪なオオカミだからね……」
「なにおー! まぁ、否定はしないけど……」
「そこは否定しろよ!」
「あはははは」
幸子の明るい笑い声が田園地帯に響いた。
初詣に向かう人の波に逆らって歩いて行く三人。
その楽しそうな姿は、初詣に向かう人たちをも笑顔にしていた。
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