第24話 夏祭り (1)

 例年の如く、猛暑の様相を見せる今年の夏。学校も一学期の終業式を終え、待望の夏休みに入った。

 しかし、学校では、この夏休みに防犯カメラの設置工事を進めることになっており、教員たちや用務員の菅谷は、設置業者や作業の対応に大わらわの状態だ。


 ◇ ◇ ◇


19:04 達[日が暮れても、全然涼しくならんな]


19:04 亜[(溶ける……のスタンプ)]


19:04 太[(アイスクリームのスタンプ)]


19:05 幸[太くん、ある意味前向きですね]


19:05 太[(大笑いのスタンプ)]


19:06 亜[笑うなデブ! 暑苦しい!]


19:06 太[(しょぼーん……のスタンプ)]


19:06 亜[落ち込むなデブ! 暑苦しい!]


19:07 達[亜由美、それちょっとヒドい]


19:07 太[www]


19:07 亜[www]


19:08 駿[おいっす]


19:08 達[おいっす]


19:09 幸[こんばんは、暑いですね]


19:09 亜[駿、まいど]


19:09 太[(アイスクリームのスタンプ)]


19:10 駿[みんな、金曜の夜ってヒマ?]


19:10 達[あー、わりぃ、バイトだわ]


19:11 幸[はい、ヒマしています]


19:11 亜[その日、田舎に帰ってるわ]


19:11 太[田舎でB級グルメの予定]


19:12 駿[ありゃま、さっちゃんだけか]


19:12 亜[金曜って何かあんの?]


19:13 駿[ほら、学校のちょっと先に大きい神社あるだろ]


19:13 亜[あー、裏門出た先の方にあったわね]


19:14 駿[そうそう、そこのこと。そこのお祭りがあるんだよ]


19:14 達[へー、知らんかった]


19:15 駿[だから、みんなでお祭り行こうかと思ったんだけどね……]


19:15 太[まさかのみんな不在www]


19:15 駿[さっちゃん、よければ一緒に行かない?]


19:16 達[デートじゃねぇか]


19:16 太[デートだね]


19:16 亜[さっちゃーん!]


19:16 亜[(号泣のスタンプ)]


19:16 駿[そのコンビプレイは、やめろっての!]


19:17 太[wwwwwww]


19:17 亜[さっちゃん、断りなさい! 男は狼なのよ!]


19:17 達[お前はピ○クレディーか]


19:17 太[www]


19:19 幸[私でよろしければご一緒させてください]


19:19 達[デートじゃねぇか]


19:19 太[デートだね]


19:19 亜[さっちゃーん!]


19:19 亜[(号泣のスタンプ)]


19:19 駿[もういいっちゅーねん!]


19:20 亜[wwwwwww]


19:21 幸[デートじゃないです]


19:21 太[【悲報】駿、五分で振られるw]


19:21 亜[(プギャー!のスタンプ)]


19:22 駿[もうなんでもいいや]


19:22 達[投げるな]


19:22 太[www]


19:23 駿[さっちゃん、十八時に学校の花壇前でいいかな]


19:24 幸[はい、わかりました]


19:24 亜[いいなぁ、駿]


19:24 太[(わっしょい! のスタンプ)]


19:25 亜[黙れデブ! 山車で引きずりまわすぞ!]


19:26 達[まぁ、ゆっくり楽しんできな]


 ◇ ◇ ◇


 ――金曜日 夏祭り当日


 夕方、学校へと向かう駿。


「ちょっと早いかな……」


 時間は、まだ約束の二十分前。日も長いこの時期、まだまだ明るい。


「まぁ、花壇に水でもまいてようかな……」


 学校に到着し、待ち合わせ場所の花壇へ向かった駿。


「あれ? もしかして……」


 花壇の前に女性がいることに気付く駿。女性は浴衣を着ているようだった。

 足早に駆け寄る。そして、女性に後ろから声をかけた。


「さ、さっちゃん……?」


 振り返る女性。


「駿くん、早いですね」


 そこには、可愛らしい浴衣を着た幸子がいた。

 髪はアップにまとめ、白い生地に藍色や淡い桃色・淡い紫の花をあしらった浴衣、上品な桃色の帯を巻いている。手には淡いブルーの巾着、足元は白に紫の花柄の鼻緒をつけた下駄を履いている。ちょっと化粧もしているようだ。


「さっちゃん、めっちゃ可愛い……」


 ぽろっと真顔で本音が漏れる駿。


「か、からかわないでください!」


 幸子は顔を赤くして、うつむいてしまった。


「でも、ありがとうございます……」


 駿に向き直る幸子。


「駿くんと一緒にいて、駿くんが恥かかないように、私なりに頑張ってみました……」


 幸子は、はにかんだ。


(オレのことを思って、浴衣着てきてくれたのか……)


 胸が熱くなる駿。


「さっちゃん、すごく似合ってるよ」

「良かった……」


 幸子は、幸せそうに微笑んだ。


「でも、浴衣着たりするのに、お母さんにたくさん手伝ってもらっちゃいました」


 ぺろっと舌を出して笑う。


「オレ、もっとまともな格好してくるべきだった……すまん、さっちゃん……」


 駿は、白いTシャツの上に青いチェック柄のネルシャツを上着代わりに羽織り、ブラックジーンズに、デッキシューズという、ラフ過ぎるほどにラフな格好をしていた。


「駿くんは、いつもカッコイイですよ」


 幸子は悪戯な笑みを浮かべた。


「!」


 顔に熱が帯びる駿。


「さ、さっちゃん、最近手強くなったな……」

「うふふ。私だって言われるばっかりじゃないんですよ、駿くん」


 笑い合ったふたり。

 気がつくと、日も大分傾いてきている。


「そろそろ行こうか」

「はい」


 カランコロンと幸子の下駄の音が田園風景に響いた。


「さっちゃん、どうぞ」


 腕を差し出す駿。


「歩きづらかったら腕につかまって。あと、ゆっくり行こうか」


 駿は、優しい笑顔を浮かべた。

 戸惑いながらも、駿の腕につかまる幸子。


「駿くん、ありがとう……」

「帰りもバスの時間調べてあるから、バスの時間に合わせて帰ろ、ね」

「はい!」


(ホントに駿くんは優しいなぁ……駿くんが彼氏だったら……)


 そっと目を閉じた幸子。


(<声>が聞こえなくてもわかってるよ……駿くんの隣にふさわしいのは、亜由美さんみたいな可愛くてキレイな女の子だもの……)


 そっと目を開けると、幸子の隣に駿がいる。


(今日の日を、この瞬間を、一生の思い出にしよう……)


「どうしたの、さっちゃん?」

「ううん、何でもないです」


 笑顔で返した幸子。


 やがて祭り囃子が聞こえてくる。

 ふたりは目的の神社に到着した。

 参道にたくさんの屋台が並び、大勢の人がごった返している。


「へぇ、結構人来てるなぁ」

「そうですね、もうちょっと閑散としているものだと思っていました……」

「とりあえず神社にお参りして、それから屋台を楽しもうか!」

「はい、そうしましょう!」


 ふたりは長い参道を進んでいき、神社の本殿でお参りをした。


「ところで、ここはどんな神様が祀られているんですか?」

「いや、知らないなぁ……あそこに社務所があるから行ってみよう」

「お守りとか売ってるかもですね」


 社務所を覗いてみるふたり。


「手広くやってる神様みたいだね……」

「そうですね……」


 社務所で売っていたお守りを見てみると、家内安全・健康祈願・交通安全など、色々な種類・色・デザインのものが販売されていた。


「せっかくだし、何か買っていこうか」

「そうしましょう」


 ふたりとも健康祈願のお守りを購入。


「ご利益があればいいですね!」

「そうだね、期待しよう!」


 笑い合うふたり。


「じゃあ、屋台を覗いていってみようか」

「はい! お腹空かせてきました!」


 参道の方へ戻っていく。


「あっ!」


 突然大声を出す幸子。


「お母さんの分のお守り、忘れてました……」

「あ、じゃあ、戻ろうか」


 駿の言葉に幸子が慌てだした。


「だ、大丈夫! 私ひとりで買ってこれるから!」

「う、うん、じゃあ、ここで待ってるね」


 社務所へカランコロンと足早に戻る幸子。


「すみません、これください」


 お守りを買って、社務所から戻ってきた幸子。


「駿くん、ごめんなさい。お待たせしました」

「ううん、大丈夫だよ。お母さんのお守り、買えた?」

「はい、買えました!」


 幸子は巾着をポンポンと叩く。


「OK、じゃあ屋台巡りに行こうか」

「はい、私お腹ペコペコです……」


 笑いながら屋台のある参道の方へと向かっていく幸子と駿。


 幸子の巾着には、自分の恋愛成就のお守りが入っていた。


(わかってはいるけど……神頼みするくらい……いいよね……?)


 幸子はそっと微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇


「オレ、お腹いっぱい……」

「私、まだまだ入りますよ!」


 何件かの屋台をはしごしたふたり。

 参道の脇にあったベンチで休憩中である。


「さっちゃん、いくね~! 口直しにラムネでもどう?」

「あ、いいですね!」

「じゃあ買ってくるよ、ちょっと待っててね!」


 参道を挟んだところにあるラムネ屋へ向かった駿。

 幸子はベンチに座って、ラムネを買っている駿を見つめる。


(こんなに幸せでいいのかな……)


「や、山田さん?」


 突然呼ばれた自分の名前。

 声をした方を振り向くと、自分に声をかけたであろう男性が立っていた。紺色の浴衣を来た女性を連れているようだ。

 男性は、耳にかかる位の長さの黒髪で、きちんとセットされている。背は駿よりも低く一七〇センチメートル位で、緑色のTシャツにジーンズを履いていた。

 紺色の浴衣の女性は、黒髪をアップにして、キレイにセットしている。背は隣の男性よりも一回り低く、一六〇センチメートル位か。

 ふたりとも年は自分と同じくらいで、男性の方は顔に見覚えがある。


(誰だっけ……?)


 幸子は記憶を手繰っていく。


『………………』


『……んだよ!』


『気持ち悪ぃんだよ!』


(えっ)


『山田菌!』


『山田菌が感染る!』


(えっ、えっ、えっ、えっ、えっ)


 忘れようとした過去、忘れたかった記憶。

 鮮明に蘇ってくる小学生時代の悪夢。


(彼は、あの頃、私をイジメていた……)


「林くん……?」


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