第25話 古都からの手紙 7
新王都のケンイチの筆箱に付いている魔導具がまた輝きだした。メールがくるのだ。
ケンイチはうっ、と思わず声を漏らした。
無情にも魔導具からぺいっと紙片が吐き出され、机の上をコロコロと転がり、止まった。
「……」
ケンイチは目の前の魔法史の先生に視線で、開いてもいいか?と尋ねた。先生は頷いた。
……とめてくれよ。
ケンイチの本音をいえば、ここは止めて欲しかった。絶対ろくでもないことが待っているのに決まっているからた。
隣のダニエルとソルも沈黙したままケンイチの手元を凝視している。妙な緊張感が漂う。
ケンイチはいろいろ諦めで紙片をぺらりと開いた。見たことのない筆跡だった。
《 あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛
あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛
あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛
あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛ 》
「ええ……?」
一瞬、ケンイチの脳は理解を拒否した。
それは、詩人の血が奏でる魂の叫びであった。
それは、詩というにはあまりにも野蛮だった、
それは、言葉ならぬ絶叫であった。
詩は己の野蛮さを開陳した。
この詩人の身に一体何が起きたというのだろうか?
※書いたのは詩人ではありません。
◆◆◆
「マコトちゃん! ワイヤーよ、ワイヤーを持ってきて!
これ以上この国を恥を晒すわけはいけないわ!」
「ダメ! リズさんが制御できないよー!
暴走! 暴走! エリザベート王女が暴走!」
「あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ゛
嗅がせろぉぉぉー! 風呂上がりの少女の香りを嗅がせろぉぉぉー!」
「な、何が起きているのじゃ?
妖精族の少女が、自国の姫を羽交い締めにする事態とは……
一体何が起きているのじゃ?!」
「……」
旧王都の一角にある中古魔道具ショップ「ハロー☆マジック」は賑やかであった。
◆◆◆
「おや……この字は!」
ケンイチの手にある紙片に書かれている文字をじっと見ていた魔法史の先生は、目をくわっと広げた。
「……字?」
「おおぅ……間違いない。これは先の生徒会長の筆跡。
我がリリアリア王国第三王女エリザベート様の御筆跡だ……」
教室内にいた生徒達の一部はその名を聞いて、驚きの声を漏らした。
「お、王女様?
それって、字を見ただけで……判るのですか?」
「もちろんだとも!
王女様在学中の手書きの論文、手書きの答案、手書きの生徒会日誌、全てコピーして毎日目に焼き付くぐらい繰り返し読んでいるわたしだ!
見間違えるはずがない!」
うわっ、この先生ヤバい……。
ケンイチの前に知りたくも無い事実が開示されていく。
「ケンイチ君は中等部からの入学だから知らないのも無理はないですけど
今の生徒会長の前は、王女であるエリザベート様が生徒会長だったんです。
……一昨年ぐらいに飛び級で卒業されましたが」
「すごい生徒会長だったんだぜ。
身分に関わらず、不正を絶対許さない鉄の表情の綺麗な人でさ……
学校の雰囲気も、王女様の時代からずいぶん良くなったしな」
「……ふーん」
ソルとダニエルの先の生徒会長の解説を聞いた後に、もう一度手元の紙片を見た。
二人から聞いた正義の王女様のイメージと手元の紙片からにじみ出る狂気が、どうも上手く一致してくれない。
「向こうの状況としては……、ミツキやマコトの近くに王女様がいる感じだよな……」
ケンイチは思案する。
可能性1。ミツキとマコトが何らかのトラブルに遭遇し、偶然にも初めて出会った王女様とてんやわんやしてる。
可能性2。ミツキとマコトと王女様が元々知り合いで、三人がトラブルに巻き込まれて、てんやわんやしてる。
可能性3。王女がてんやわんやして、ミツキとマコトが巻き込まれている。
「うーん……」
メール五通だけでは決め手に欠ける。
そういやミツキとマコトの身近にいる高い身分っぽい女性と言えば、ラノア王立学院の妙な自主研究サークルの副部長がいたな、とケンイチは思いだした。
国産の最高級品の衣類が買える財力をもっているのに外国産品を身に付けない、というなかなかの拘りをもった学院生だった。
「……ないわー」
ケンイチはふと副部長が王女様である可能性を考えてしまった自分に苦笑した。
またケンイチの魔導具が光った。
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