第23話 古都からの手紙 5

「ミツキちゃん、今何か送らなかった?」


 マコトはエリザベート王女に抱きつかれくんかくんかされていた。

 考えるのを止めていたマコトだったが、ミツキが書き記した紙片がふぬけた表情の小鳥型魔導具に吸い込まれて行ったのを目撃していた。


「いけない……つい勢いで」


 紙片を吸い込んだ小鳥型魔道具はチカチカと輝いている。、


「何書いたの?」

「心の叫び声」


 ……詩人?、とマコトは思った。


「ミツキちゃん、考えなしに手紙を送っちゃだめだよ」


 ちょっと真面目な顔でミツキを注意するエリザベート王女。

 身体はマコトに密着したままだ。


 そもそもあんたが……と、イラッとするミツキ。


 そのとき小鳥型魔導具が輝き、ぺっと紙片を吐き出す。


 今度はマコトが紙片を開く。


《 誤解されるようなことを書かないでくれ 》


「……誤解?」


「誤解って……まだ何も伝えてないし……」


「じゃ……いままでのことは無かったことにするって伝えたほうがいいんじゃないの?」


 エリザベート王女の提案に、ミツキは一瞬考えた後、頷いてさらさらと文字を紙片にしたためた。そしてその紙片を魔導具のほうへにぽいっと投げる。

 紙片は魔導具に吸い込まれた。



 ◆◆◆


 筆箱に埋め込まれた魔導具がまたしても点滅した。


「今度は何が来るんだ……」


 そして、ぺっとケンイチの元に紙片が吐き出される。


 ケンイチは恐る恐るその紙片を開いた。

 それを両側からソルとダニエルがのぞき込む。



《 今までのことは無かったことにしましょう 》



「……」


 無言で頭を抱えるケンイチ。


「ああー……

 僕は愛が終わるときと目撃してしまいました……」


 感極まり嘆息を漏らすソル。


「ケンイチよ、女性に期待を抱かせるような振る舞いは……

 人間としてどうかと思うぜ」


 ケンイチの友人、下級貴族のダニエルは冷ややかな目でケンイチを見る。


「誤解だ……、

 俺たミツキはそんな仲じゃない……」


「彼女はそう思ってなかったんですよ……」


 この世の憂いを全て背負ったような遠い目をして、ソルは囁く。


「いやだから、そうじゃなくて……

 ちょっと考えさせてくれ……、

 ちゃんと真実を提示する方法があるはずだから」


 ちなみに現在、魔法史の授業中である。

 生徒はもちろん、先生もちらちらとごにょごにょ話している三人の方に視線を向けていた。完璧にマークされていた。


 また魔導具から紙片が吐き出される。


「……」


 ケンイチは恐る恐るそれを開く。

 今度は筆跡が違っていた。


《 ケンイチ、どうして返事をくれないの?

  胸が……苦しいよ 》


「マコトてめぇぇぇー……っ!」


 ドンと思わず机を叩いていまうケンイチ。

 更なる教室中の注目を浴びる。


「こ、これは……」

「え、これ、例の妖精族の女の子だな……。

 二股……、いや違う。

 ケンイチ……お前、妖精族の女の子との付き合いも『お遊び』だったのか……」


 頭を抱えるケンイチを両側から詰めるソルとダニエル。


「違う……根本的な誤解がある……」


 ケンイチの声は疲れていた。


「だってこの文面って、

 連絡が疎遠になった彼氏へのものとしか思えないじゃないか」

「ケンイチ君にとって周りのガールフレンドは全て身体だけ弄んでボイするだけの対象だったのですね……」


 ひそひそひそひそと、周りの生徒達が噂をしだす。絶対良い噂ではないだろう。


「ケンイチ君ソル君ダニエル君、君たちは授業中にいったい何をやっているのかね!」


 見かねた魔法史の先生がつかつかつかつかとケンイチ達の所にやってきてしまった。


 ◆◆◆


「く、苦しい……」


 マコトはペンをテーブルに落とした。


「はぁーん!もう、たまりませーんですわー!

 この筋肉の上に薄く脂肪がはった手足胸胴尻が素晴らしいですわー!、頭髪から首元から胸元から脇下から漂う甘いミルキーな香りがわたしを狂わせますわー!

 この手から感じる背骨骨盤あばら骨の手触りはどのようなシルクよりも至上ですわー!

 至上の愛が、至上の愛がわたしを溶かしますわー!」


 エリザベート王女にぎゅうぎゅうくんかくんかと抱きしめられたマコトは胸部を圧迫されて息苦しかった。あとちょっと王女の口調が令嬢感がでているが、ひょっとして素はこちらのほうかもしれない。


 それなりにあるエリザベート王女のバストが押し付けられていたが、柔らかさよりも苦しさが勝り邪心どころではない。


 トイレに行ったミツキに代わり、なかなか返事が返ってこないケンイチにむけて催促の文面をしためた。


 不幸にもこの時、マコトの心は叫びたがっていたのだ。エリザベート王女に抱きつかれちょっと生命とか貞操とかの危機も感じていたし。


 心の叫びは無意識となり、無意識は催促の文面に、ちょっとだけ文字を添えてしまった。


 マコトがその事に気づいた時には、文は既にふぬけた表情の小鳥型魔導具に読み込まれてしまっていた。


 全てがしょうもなくオーマチックであった。

 

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