第22話 古都からの手紙 4

「あ、きた」


 ミツキとマコトの前にある小鳥型の魔導具から、ぺっと紙片が吐き出された。ミツキがその紙片を広げる。


《 ミツキか? 今、授業中なんだ。

  静かにしてくれ、集中してるんだ。 》


「……なんだコイツ」

 と、マコト。


「こちらの思いも理解してよね……」

 と、ミツキ。


 テストメールのあの一文から旧王都側の事情を読み取ることは難しいと思う。


「とは言え、いまはケンイチ……というかゴエモンヤ商会の力を借りないと、

 帝国の王女二人を安全に過ごせる環境を用意できないのも事実。

 歯がゆいわ……」


 顎に手を当て思案するミツキ。

 その思案はテストメール送信時にもあってほしかった。


「……本当はわたしが何とかするべきなんだけど。

 王族が他国事に近衛とか使うと動くと大事になるし、お兄様達のように私的な秘密機関も持っていないなし……。

 ゴメン、必要な費用はこちらで出すから……」


 萎れるリリアリア王国第三王女。

 今さらっとリリアリア王国王宮の闇深い話の一端が出てきたような気がしたが、気にする人間はいなかった。とりあえず費用の心配をしなくてもよいこは良いことだった。


「王女様も色々大変なんだねー」


 と力なき王族に同情するマコト。これがいけなかった。


「そぅなのー!

 お小遣いの使い道についても公金みたいな物だから色々監査が入ったり-、

 行動のいちいちと記録に残しておかなかったり-、あとでチェックされたりー、

 毎月大量のお見合いを断ったり-、ともの凄い大変なのよー」


 がばっと、テーブル近くの椅子に座っていたマコトに飛びつく。その姿、野獣なり。

 抱きつかれたマコトは一瞬何が起きたのか判らなかったが、マコトの香りを鼻いっぱいに吸い込む姿を見て恐怖を感じ――考えることを止めた。


 それを見て、ミツキのペンが紙片に文ガリガリと字を書き付ける。



 ◆◆◆


「ん?」


 新王都にて授業を受けているケンイチの手元にぽーんと折りたたまれた紙片が飛んできた。

 見ると筆箱から魔法の波が立っていた。


 ミツキか、と呟いてケンイチは紙片を開く。


《 一瞬でも信じた自分がバカだった。 》


「ん……?」


 その紙片をみて額に手をあてて考え込むケンイチ。


「どうしたんですか? ケンイチ君」


 ケンイチの隣から友人の下級貴族の子ソルがのぞき込んできた。


「いや、旧王都からの知り合いから

 手紙が送られて来たんだが……」


「……これは不穏な。

 ケンイチ君はお金の関係だと思っていたのに。彼女は本気だったんですね……」


 ソルはやれやれと頭を振った。


「は?」


「だって、ケンイチ君は金で肉欲を満たすだけのため彼女の部屋でエロいことをしたのに

 彼女はそれでもケンイチ君に愛があることを信じていたんですよ……。

 だが、それがある日、彼女はケンイチ君に愛が無いことに気づいてしまった……。

 彼女は自分の部屋は風俗店ではない、と訴え、ケンイチ君の愛を信じていた自分を嘲ってこの文をしたためた……なんと悲劇な」


「この二文でそこまで想像できるお前が怖いよ……」


 うんうんと感慨に浸ってるソルをジト目で評するケンイチ。

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