第17話 朱色の雨 4
「一応決まりだから。
あなたの部下が拘束されるまで、そのままで」
「はい……」
王宮を担う老人たちが集う会議室にて、マリーナ・ナミンガは手錠をはめられ部屋の隅の椅子に座らされた。服装は女官の制服から、どういうわけかメイド服を着せられていた。
王宮内でセキュリティーが確保され、かつ容易に入手できる衣類がそれしかなかったのだった。
彼女の部下の男性文官はまだ拘束されていない。
「ごめんね、替えの服装がそれしかなくて」
「いえ、おかまいなく……悪いのは全部わたしですから……」
服に細工がされていることを警戒して、マリーナの服は下着まですべて取り替えられることになった。
「きっとわたしこの後、ここのおじいちゃんたちに裏切り者として辱められるんだわ……」
「こいつら役に立つもの持ってないから大丈夫よ」
老婦人のその一言にテーブルを囲む白髪混じりの男共は頭を抱えて己の加齢を呪った。アレがアレでアレなのである。
老女官たちはニヤニヤたその姿を見ている、
「……侍従長、何を情けない顔をしておいでて?
孫がいるのにまだ頑張るおつもり?」
「事実でも人には言ってはならぬことがあるのだよ……」
同様に頭を抱えていた侍従長は弱々しい声を漏らす。
「ほほう、手を広げて見るものですな。
沿岸警備隊の定時報告にリリラリアに向かう竜便の報告がありますな。
クルトナ辺境領の企業所有の竜便が朝早くに飛んでいたようです。
この企業はいわゆるダミー会社、帝国軍の擬装に使われるものですな」
他の老人どもの様子などに目もくれず、映写魔導具を素早く捜査していた老男性文官がその手を止めた。
「クルトナから?」
「ほら今朝。辺境で反乱が起きたと話したではないか。
……その反乱鎮圧に失敗した部隊がいる自治区だな」
「軍から『痛みを知らない兵士』の術を授けられた部族で構成される部隊だ」
「……そんなのまで投入していたのか。それが失敗とは」
切り札が役に立たない時代がきたか……と、老人は続ける。
「その部隊が第二王子派の派閥か?」
「いや、部隊に付いてる若い神官将校がそっちの派閥らしい」
その答えに、ああと頷く老武官。
「……クルトナの支配部族が弱体化すれば
自治区の内戦発生リスクが高まります」
沿岸警備隊の報告をもとに問題の竜便の飛行ルートを地図上に描いてる老女官は告げる。
「内戦……」
手錠をはめられたマリーナは呟く。
「部族対立がそこまで激しいとの話は聞いてないぞ」
「情報の精度が足りない……そうで、上には情報が上がっておりませんわ」
「糞、失政を隠しやがったな!」
「あなたのような口うるさい老人がいますからね」
老女官はくすくすと笑う。
「あそこは魔獸合成につかう魔獸や魔石の産地だ。現役の冒険者も大勢いる。
内戦となると……厄介だな」
軍事物資の供給のことを考えた老武官は、背もたれにもたれ天井に視線を移す。
天井のシャンデリアは輝いていた。
「わたし……内戦で父を失いましたから
内戦は嫌ですね」
マリーナは自分の手錠を見つめながら呟く。
その時、会議室の扉がドンドンドンと叩かれる。
「入れ」
扉を開けて入ってきたのは一人の宮殿衛視だった。
「報告します!
先ほど被疑者を発見!
しかし、武器を所持しているため捕縛まで至らず!
現在対峙中であります!」
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