第31話 母
私はすぐにこの残虐な行いの首謀者の元へと走った。
「ここに来てはいけないと言ったでしょう?」
ドラム缶の炎を暖炉でも見るかのように眺めている母は私に気がつくと、そう言った。私に声を荒げるわけでもなく、淡々と。
「どうして……、どうしてお母様はこんなことをするのですか?」
私は母を睨んだ。
それは生まれて初めての反抗だったかもしれない。
だが、母はそんな私に微塵も関心を示さない。
「わかりませんか?」
母は悠然と使用人たちの行軍に歩み寄り「貸しなさい」と運ばれる本の山から一冊を摘み上げた。
母はドラム間の側まで歩き、立ち止まる。私は慌てて母の後を追った。
「これが何かわかりますか?」
母は手にしたその一冊を私に見せた。
母は運ばれる山の中から無作為にこの本を手に取ったのだろう。
それは、なんという偶然だろう。
私が始めてタカナシさんに会った時におすすめされた本だった。
それは、私が夢中になった本です。
それは私が大好きな本です。
それは私にとって大切な本です。
それは-------------------------------------------
私の胸の中で母の問いに対する言葉が溢れていた。
だが、母はその一つだって待ってくれない。
まるで、汚物に触れるかのように不快そうな顔をして言った。
「少なくとも、『本』ではありません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます