第31話 母

 私はすぐにこの残虐な行いの首謀者の元へと走った。


「ここに来てはいけないと言ったでしょう?」


 ドラム缶の炎を暖炉でも見るかのように眺めている母は私に気がつくと、そう言った。私に声を荒げるわけでもなく、淡々と。


「どうして……、どうしてお母様はこんなことをするのですか?」

 私は母を睨んだ。

 それは生まれて初めての反抗だったかもしれない。

 だが、母はそんな私に微塵も関心を示さない。


「わかりませんか?」

 母は悠然と使用人たちの行軍に歩み寄り「貸しなさい」と運ばれる本の山から一冊を摘み上げた。


 母はドラム間の側まで歩き、立ち止まる。私は慌てて母の後を追った。

「これが何かわかりますか?」

 母は手にしたその一冊を私に見せた。

 母は運ばれる山の中から無作為にこの本を手に取ったのだろう。

 それは、なんという偶然だろう。

 私が始めてタカナシさんに会った時におすすめされた本だった。


 それは、私が夢中になった本です。

 それは私が大好きな本です。

 それは私にとって大切な本です。

 それは-------------------------------------------


 私の胸の中で母の問いに対する言葉が溢れていた。

 だが、母はその一つだって待ってくれない。


 まるで、汚物に触れるかのように不快そうな顔をして言った。


「少なくとも、『本』ではありません」




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