第26話 帰途
花火大会は終わった。
会場からの帰り道、私の口数は減っていった。
帰りの電車の中で私は終始無言だった。タカナシさんも話かけてはこなかった。
とうとう、私たちの乗った電車は最寄駅に到着してしまった。
ホームの上には改札へと向かう人の波ができる。
私とタカナシさんはその波から外れたホームの端に止まっている。
振り返ると、山がある方角にぼうっとした怪しげな灯りがフェンス越しに見えた。
それが我が家の塔の灯りであることは私が一番よく知っている。
「帰りたくない」
無断外出をした上に、こんな夜遅くまで出歩いていたのだ。
どれほどの惨劇が待っているかわかったものじゃない。
そして、それに耐えた先に待っているのはなんだ?
永遠に続く氷川の檻だ。
「それでも、お嬢様は帰らなくてはなりません」
タカナシさんが隣でそっと言った。
私はまた深いため息をつく。そして、なんの気なしに思ったことを口にした。
「タカナシさんが私のお母様だったらよかったのに」
返事はなかった。
私は隣を見上げ、瞬間、自分の発言を猛烈に悔やんだ。
タカナシさんが、いつも陽だまりように笑うタカナシさんが、恐ろしい形相をしていた。
タカナシさんが私の肩に手を置いた。その手はブルブルと小刻みに震えていた。
「いいですか、お嬢様。二度と、二度とそのようなことをおっしゃてはなりません」
私は思わず泣きそうになっていた。
それでも懸命に声を振り絞る。
「ごめんなさい」
そして、
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