第23話 駅にて

 くしゅ!


 私は何度目かのくしゃみをした。

 私の住んでいた街の駅は海沿いにあった。

 単線で待合室もない吹きさらしのホームがあるだけの小さな駅だ。塗料のはげたベンチに腰掛け、定刻をすぎても来る気配のない電車を私たちはずっと待っている。


 タカナシさんがティッシュをくれた。「あびばどう」と受け取って私は鼻をかむ。

「冬は嫌い」

「どうしてですか?」

 何を分かりきったことを、と私は隣に座るタカナシさんを見上げる。


「寒いから」

 私の単純な回答にタカナシさんはクスリと笑った。

「そうですね。タカナシも寒いのは嫌いです。冬の寒い日はこたつでみかんに限りますよ」

「私、実はこたつって見たことない」

「ああ、お屋敷にはないでしょうね。こたつに入ってみかんを食べたり、アイスを食べたり、ビールを飲んだりすると楽しいですよ。日本の冬はこたつに限ります」

 タカナシさんは懐かしそうな顔をした。タカナシさんがここまで言うのだからこたつはさぞいいものに違いない。

「いいな〜、うちにもあればいいのに」

「洋館には似合わないかもしれませんね」

「じゃあ、タカナシさんのお家に置こうよ」

「それはいい考えですね。そうなると、本を片付けなくちゃ」


 くしゅ!!

 今度はタカナシさんだった。

 私はタカナシさんにティッシュを差し出す。

「ありがとうございます」

「タカナシさんも冬、嫌い?」


 タカナシさんは私を見て、それから線路越しに見える遠くの水平線を見て、ポツリと言った。

「いいえ、タカナシは冬が好きです」

「寒いのは嫌いなのに?」

「ええ。だから、昔はあまり好きではありませんでした。でも8年前に好きになりました」

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