第5話 籠の中の宿命
東の塔の最上階について窓を開けると、熱気を含んだ潮風が私の頬を撫でた。
もうすぐ夏なのだ。
眼下に広がる海には遠くに一艘白い船が浮かんでいる。
「頼んだよ、カナリア号」
私は愛機をそっと撫でると手首にスナップをきかせて思い切り投げた。
カナリア号はふわりと上昇すると海に向かって一直線に飛んでいく。
その勇姿を惚れ惚れと眺めているとき、予想外の出来事が起こった。
強い海風が吹いたのだ。
カナリア号は煽られた。
高度をどんどん上げていく。
海から進路を大きく変えて山側に流される。
私の目には米粒ほどしか見えなくなったカナリア号はそのまま洋館の北側の森へと消えた。
私は予想外の大飛行に
「おお、すごい」
と興奮した。
しかし、すぐに何だか心の中にぽっかりと穴が空いたような気分になる。
「カナリア号……。」
私は愛機を飲み込んだ森を寂しげに見やる。
作ってたった数時間だけれど、私がカナリア号をどれだけ好きだったのか、失ってみて初めて知った。
もう一度折りなおせば良いと冷静になれば思えるのだが、当時の私はそうはしなかった。
急いで塔の階段を駆け下りた。
そして、向かった。
禁じられた北の森へと。
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