第2話 鳥籠

 私は自由な時間をいつも一人で過ごしていた。

 私がもっと幼い頃は雪子が相手をしてくれたのだが、


『氷川の長女であるお人が遊んでばかりなのはいかがなものでしょう?』


 と怖い顔をするようになってしまったので、誘えなくなってしまった。


 私はいつも一人で遊んでいたのだが、寂しいと感じることはほとんどなかった。

 そもそも、放課後はピアノやらお花やら、漢籍やらのお稽古が毎日のようにあって私が自由にできる時間はほんのちょっとしかなかった。


 確かに、時々、家の外で遊んでみたい、街で買い物をしたり映画を見たり、花火大会に行ってみたいと思うことはあった。けれど、それを言えば母が厳しい顔をするだろう。

 こっそり敷地を抜け出そうにも、私が坂の下に続く門に近づいただけで


『美冬様!』


 とお手伝いさん達が駆けつけるので、多分無理だろう。


 そもそも、私は不幸ではなかった。

 ちょうど鳥籠で生まれたカナリアが籠の中で過ごすことに何の違和感も

 覚えないように。

 そして、私はカナリアよりよっぽどマシだったのだろう。

 広い敷地の中で自由に動き回れたのだから。

 だけど、たった一つだけ例外があった。


 洋館の北側の森に行くことだけは禁止されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る