チキンラーメンを茹でる3分と少しの時間
下谷ゆう
美冬
第1話 山の上のお城
それは、まだ私が『飼い殺し』という言葉を知らない頃のことだった。
せいぜい、小学校1年生か、2年生の頃だったと思う。
当時、私は坂の上の大きな洋館に住んでいた。
明治の頃、紡績で途方もない財産を築いた氷川家の初代当主が建てたそうだ。
瀟洒な煉瓦造りの洋館は、この地域では珍しかったらしく、街の人たちは『山の上のお城』と呼んでいたらしい。
小さい頃の私の世界は、車で送迎される隣町の小学校と父と母に連れて行かれるパーティーの会場を除けば、専らこの『お城』の敷地内で完結した。
専属の庭師によって整えられた庭園には四季折々の花が咲き乱れ、私は絵を描いたり、蝶々を追いかけたりして遊んだ。
緑の絨毯のように丁寧に刈り込まれた広い芝生の上で私は素足で寝っ転がったり、石鹸とストローを用意してシャボン玉を飛ばしたりした。
洋館の東側には三角屋根の塔があって(麓の人から『お城』と呼ばれる由縁だ。)、最上階の窓からは坂の下の街の向こうに海を眺めることができた。
私は窓辺の椅子に腰掛けて何時間も、どこまでも広がる青い海を見ていたものだ。
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