KAC20247 色

@wizard-T

四枚の絵

 このアトリエには、四枚の絵がある。


 左右の絵の違いは一体何なのか。そして、前後の絵の違いは何なのか。


 確実な事として、左右のそれと前後のそれは性別が違う。

 その証拠として、その四枚の絵全てに第一次性徴の証が映っている。


 もしあなたがこの時点で全身の血を沸騰させるのであれば、今すぐこの部屋から立ち去る事を勧める。

 何せこの四枚の絵の内二枚には、百億円の値が付いているのだから。

 なおもう二枚はその百万分の一の価値もない。




 さてその四枚の裸体画は、正直似ているようで似ていない。特に同じ性別のそれ同士は、ぱっと見では同じだと言われても仕方がないかもしれない。

 だがもしその道に詳しい存在がいれば、二人の少年の眉毛が「英雄やってみた」の「麻村正」と言うキャラクターのそれと同じである事に気づくだろう。

 その麻村正と言うのは、物語の主役である。ただの平凡な高校一年生がいきなり剣と魔法の世界へと連れ込まれ、その上で修業を重ね当地の姫やクラスメイト達と共に冒険し魔王を倒すと言うありふれた冒険譚の主人公だ。だが当初はザコ敵からも逃げ出すような甲斐性なしだった主人公の成長が共感を覚え、単行本14巻で320万冊を売った。そして現在ではアニメも放映され、さらに2.5次元ミュージカルなる代物まで始まろうとしている。


 で、その麻村正と言うのは、正直美形ではない。一応それなりに筋肉は割れていたが、その腹筋がこの絵に反映されている訳ではない。太鼓腹と言う訳ではないが、細く力弱いウエストで剣など持てそうにないほどだ。

 このウエストの持ち主は「棋士団員」と言うライトノベルの主人公であり、中学一年生にしてプロ棋士になった主人公のそれである。棋士に体力が必要ないとは一言も言わないが、作中にも彼が体育ではビリ争いを繰り返す描写が幾度も出て来るのだからお察しの一言で済むだろう。

 他にも目は引っ込み思案なラブコメの主人公のそれ、右腕は50巻を数えるそれを描き上げる漫画家の主人公、右足は東大に十三歳で入学した男のそれだ。


 すべて、見る人が見ればわかるのだ。


 そしてもう二人の少女もまたしかりであり、目は戦記物語に出て来るメインヒロインのそれであり、右足の親指は日常系コメディのメインヒロインのそれ、髪型はガテン系漫画の女性の主人公のそれである事は共通していた。







 そう、二枚の男女の絵は、全くパーツは違わない。


 全ての存在がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたそれに色が塗られ、片方にだけ百億円の値が付けられているのだ。

 実にきれいな、肌色の絵の具が塗られた絵が。


 そしてもう一方には、文字通りぐちゃぐちゃの色が塗られている。

 そのパーツの本来の色にふさわしい色で。


 その結果、その絵には一万円の価値もないと判断されている。

 模倣品とかパッチワークとかではなく、あからさまなパチモンとされて。


 もう片方が当世きっての芸術品だと判断されたのに、だ。


 そして最大の事実として、この四枚の絵を描いた人間は全員別人であり、誰一人としてやましい志などない。

 あくまでも、「自分の絵」を描いたつもりなのだ。

 それでも百億円と一万円の差ができる。



 …おや?お気に召さなかったのか?ずいぶんと暗そうな顔をして。


 まあ、いいけど。


 


 昨日ここに来た、私の顔と同じだから。

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