第15話 卒業パーティーに出ました
楽しかった学園生活だったが、卒業だ。
卒業生代表の言葉はダンティルだった。三年間首席を貫いた根性は認めてあけるしかないなと感心している。
最前列の真ん中の席では、ベティーネ様がキラキラなサファイアで壇上のダンティルを見つめていた。
そして、私はそれを遠くの席からでなく、斜め後ろ―私にとっての特等席―からそれを見つめていた。
ベティーネ様には隣に座るようにと言われた。でも、式典の最中にお隣をジッと見ているのはおかしいでしょう?
私たっての希望でこの席になったのだ。まさに幸せなひと時だった。
〰️ 〰️
そういえば、卒業式一週間前、私は久しぶりに強制力に慄いた。
私が階段を登っていると、なんと、突風が吹いたのだ。私の体はフワッと宙に浮き、私は顔を青ざめさせた。何かを掴もうと手を上下させるが何もなく、私はそのまま落下していく。思いっきり目を瞑り衝撃を覚悟した。
『ドン!』『ドン!』『ドサッ!』
あれ? 痛くない?
「「いててて……」」
私のお尻の下にはダンティルとエリアウスがいた。階段の上から走ってきたベティーネ様が私に手を差し伸べてくれて私は立ち上がる。
「ここまでドジだと洒落にならんな。もう少し淑女の勉強をしたらどうだ?」
眉を寄せ腰を擦りながらダンティルが立ち上がった。
「それにしても軽いな。少しは姉上に鍛えてもらって筋肉をつけろ」
エリアウスも首をポキポキさせて立ち上がった。ロジビータお義姉様と兄は、年始の王城パーティーの警備を最後に仕事を辞め実家の辺境伯領へ戻っている。ロジビータお義姉様はエリアウスのお姉様だ。
「えへへ。二人ともありがとう!」
私は最近、淑女の仮面より、天真爛漫、明朗闊達を全面に出している。社交界では、仮面をつけるが、これからも友達でいたいこの人たちには素を見せていた。
「リセル。怪我はない?」
「ベティ。ありがとう。大丈夫よ。下に素晴らしいクッションがあったから」
「「おいっ!」」
四人で大笑いした。右からはマジラウルとカルラが、左からはフロレントとゲルダが、心配そうに急ぎ足でやってくるのが見えた。
「ほぉら。カルラとゲルダも心配しているわ」
ベティがクスクスと笑いながら呟いた。
「マジラウルに少しは説教してもらえ」
ダンティルが意地悪く笑った。
「それより、フロレントに説法してもらっらどうだ」
エリアウスも意地悪が嬉しそうだ。
「べぇ」
私は二人に向かって舌をチラリと出した。笑顔のベティが私の腕を『ピチリ』と叩く。
〰️ 〰️
卒業パーティーの入場は相手のいない人を配慮して個々に入場することになっている。私はベティとカルラとゲルダと一緒に入場した。それはそれは注目されたが、ベティと一緒に作ったドレスなので恥ずかしいものではないと思う。
自信はない。だって最近、私の本気スマイルに誰も靡かないのだ。主人公力どこいった?
パーティーが始まってすぐのことだった。
「ベティーネ・メルケルス。前へ」
舞台前に並んだダンティルが声を大きくした。ダンティルと並ぶエリアウス、マジラウル、フロレントも、それぞれの婚約者を大きな声で呼んだ。
イルザリット様もパーティーのために来ていたようだ。
四人の淑女がそれぞれの婚約者の前に並ぶ。すると、メイドがそれぞれの男性の色をした大きな花束を持ってきて男性に渡した。
「ベティーネ。私は明日より王太子として扱われる。これからも私の隣にいてくれ」
ダンティルが大きな声でプロポーズした。
「カルラッテ。君となら子どもたちを幸せにできそうだ。よろしく頼んだよ」
「ゲルダリーナ。ペロに負けないくらい幸せな家族になろうね」
「イルザリット。待たせたな」
四人は揃って婚約者へ花束を渡した。四人の淑女はそれはそれは嬉しそうにそれを受け取った。
『八人が対面しているもの。これが断罪の代わりのイベントなのね。素敵だわ』
私はいつの間にか、ダンティルたちの後ろの特等席でこのイベントを堪能し、思いっきり心を込めて拍手をした。会場のみんなもそれに合わせてくれた。
男性たちは淑女たちへとエスコートの手をのばす。淑女たちはメイドに花束を渡し、男性たちの腕を取り会場の方へ向いた。
「卒業生も、そして、在校生も、私は明日より王太子となり、そしていつか国を背負う。君たちは私の同世代として国の繁栄にこれからも協力してほしい」
ベティたちは淑女の礼を、マジラウルとエリアウスは騎士の礼を、フロレントは司教の礼を会場に向けてした。
真ん中のダンティルは、礼はしないが堂々とした笑顔を会場に向けた。
会場は拍手喝采であった。
ダンティルの合図で音楽が始まるとこの四組が一曲目を踊った。そして本格的にダンスパーティーが始まった。
〰️
パーティーが落ち着いた頃、私はベティと壁際で楽しく歓談していた。
ふと、顔を上げると、なんと私の中の理想の紳士様がこちらに向けてものすっごい笑顔で歩いてきた。
銀髪を後ろに撫でつけ、キリリとした大きなサファイアは優しげで、歩き方で鍛えられていそうだとわかる壮年の紳士だ。
私の目はその方を見ただけでチカチカしクラクラと目眩を感じたが、これを見逃すわけにはいかぬと根性で目を見開いた。
「ベティっ! 私、一目惚れしてしまったわっ!」
「えっ?」
ベティが私の視線の先を見た。
「うっそぉ……。リセル……。嘘だと言って」
ベティは私には時々子供のような言葉になる。
驚いたことにその壮年の紳士は私達の前に立った。
「ベティーネ。卒業おめでとう。
彼女がアンナリセル嬢かな?
アンナリセル嬢。娘が世話になったね」
笑顔で私の手を取り触れるか触れないかのソフトなキスをしてくれた。
が、私はそれどころではなかった。
『む、娘? ベティを娘って言ったの?』
私は思考するより先に感情が出てしまいポロポロと泣き出した。一目惚れから一分で失恋したのだ。
確かに、私のイチ推しはベティだ。
イチ推しにそっくりな壮年の紳士……。
それはベティの父親に違いない……。
「お、お父様っ! とにかく今は離れてくださいませ。わたくし、アンナリセル様と控室へ参りますわ」
大慌てのベティはポロポロと泣く私の肩を支えて歩き出した。が、すぐに後ろを振り向く。
「あ、でもお帰りにはならないでくださいね」
ベティは父親に念を押すと私を連れて会場を離れた。
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