第032話 サマンサ


 サマンサ・バラーク・リンガイア。

 元々はアトレイアにある辺境の国、リンガ王国の第6王女だった。


 幼少のころから頭が良いことで有名であり、わずか8歳でリンガ王国の魔法学校を首席で卒業した。

 頭も良く、子供ながらに容姿も優れている彼女にリンガ王国の人々は期待した。

 第6王女であり、王位継承権も低かったが、才女である彼女は必ず、国のためになると思ったからだ。


 だが、リンガ王国の国王である父親はサマンサを冷遇した。


 別に嫌いだったわけじゃない。

 むしろ、末の娘であるサマンサを国王は溺愛した。


 しかし、サマンサは致命的なまでに他者に興味を示さなかったのだ。

 学校でも友達はいない。

 お付きの侍女にも距離を置く。

 そして、自分の両親や兄弟姉妹にすら心を開かなかった。


 サマンサは優秀ではあったが、とても国のために尽くす人材ではなかったのだ…………



 という噂話を聞いた私は思った。


 やった!

 クーデレ系ロリだ!!


 私はすぐにリンガ王国に飛び、サマンサの寝室に忍び込んだ。


 その時のことを覚えている。


 部屋に侵入した私をサマンサは濁った目で見つめていた。


「あなたは誰でしょう?」

「我こそは真祖にして王級吸血鬼、≪少女喰らい≫のハルカ・エターナル・ゼロなり!! 気軽にはるるんと呼ぶがいいぞ!」

「はるるん様、この国に何用でしょうか? ここは王級レベルが来るような価値のある物は何もありません」

「くっくっく、あるよ。たとえ、世界が滅んでも構わないようなお宝がね。君はそういうものはないのかな?」

「…………ありません。この世の中はすべて等しく灰色です」

「では、教えてあげよう…………この世の楽しさを。もっとも美しい色を!」


 これが私とサマンサの出会い。


 サマンサは今も当時と変わらない濁った目をしている。

 他者への興味も示さないところも変わらない。

 でも、変わったことが一つある。


 それは…………≪狂恋≫である。




 ◆◇◆




 私はベリアルにサマンサの話を聞いた後、ベリアルと別れ、サマンサを探している。

 サマンサは公爵級吸血鬼であり、魔力も高い。

 本来なら、私の探知能力があれば、探せる。


 しかし、サマンサは隠密に優れた吸血鬼だ。

 ましてや、今はベリアルに負け、傷を負っている。

 気配、魔力、それらすべてを消しているようで、見つけることが出来ない。


 あれからずっと探しているが、見当たらない。

 時刻は夕方の5時を回った。

 もしかして、もうこの辺りにはいないのかもしれない。

 そう思えてしまう。


 私はいったん諦めて、ウィズとキミドリちゃんに捜索の協力をお願いしようかと思い、帰ろうと思った。

 そして、駅に向かって歩き出したその瞬間、わずかに魔力を探知した。


 私はそのわずかな魔力を追い、走って、その場に急ぐ。

 魔力を追って着いた場所は、元は飲食店であったであろう空き店舗だ。


 私は扉を開けようと思ったのだが、鍵がかけられており、開かなかった。


 ここじゃないのかな……?


 いや、サマンサも霧になれる。

 霧の状態ならば、鍵なんか関係ない。

 むしろ、他の人間が入って来られないなら好都合だろう。


 私はここで間違いないと思い、霧になろうかと思ったが、通行人が多いことに気付き、近くのコンビニに入った。

 そして、すぐにトイレに入ると、霧になり、先ほどの空き店舗を目指す。

 空き店舗の前に来ると、扉の隙間から霧の状態で侵入し、そのままサマンサを探した。


 私が元厨房らしき、場所に行くと、そこには真っ黒なローブを着た黒髪の少女が眠っていた。


 私はすぐに霧の魔法を解くと、その少女に近づき、体を揺する。


「サマンサ、サマンサ」


 体を揺すられたサマンサは目をうっすら開け、私を見た。


「んっ…………あれ? はるるん様?」


 サマンサの濁った目が私を見つめている。


「そうだよ。おはよう」


 私はサマンサの頭を撫でながら挨拶をした。


「…………おはようございます。お久しぶりです」


 サマンサは顔色が良くないし、声も小さい。


「うん。体は大丈夫?」

「…………だいぶ、血を失ってしまいました。申し訳ありません。しくじりました。あのベリアルに後れを取るとは…………」


 サマンサは小さな声のまま、悔しげに言葉を吐き出す。

 

 まあ、そうは言うが、サマンサじゃあ、厳しいと思う。


「私の血を吸って」


 私は服をずらし、肩口を露出する。


「そんな…………恐れ多い」

「いいから」

「…………すみません」


 サマンサはそのかわいい小さな口を開け、私に噛みついた。

 そして、ものすごい勢いで血を吸う。

 

 直後、私の身体に快感が走る。

 キミドリちゃんに吸われた時のようなこしょばゆさではない。

 本当の性的快感だ。


 私はこの快感に流され、サマンサを押し倒したくなるが、弱っているサマンサにそれは出来ない。


 とはいえ、サマンサの鼻息がめちゃくちゃ荒い。

 ローブで見えないが、足がもじもじしているし、震えだしている。

 そして、サマンサの右手がローブのスカート部に入っていた。


 こいつ、一人で始めてるし…………


「サマンサ、もういい?」


 十分でしょ。


「あ、はい、すみませんでした」


 サマンサはそう言って、離れる。

 だが、顔は不満たっぷりだ。


 私はサマンサが離れた後に、事情を聞こうと思ったが、まずは家に連れて帰った方がいい判断した。

 ベリアルに報告するのもサマンサから話を聞いてからの方がいいだろう。


「サマンサ、今から家に行くよ」

「家? はるるん様の家でしょうか?」


 サマンサはパーッと期待をした顔になる。


「狭いけどね。あと、同居人がいる」


 私が同居人がいると告げると、サマンサはあからさまにがっかりした。


「…………そういえば、シュテファーニア様がいますもんね」


 いや、あんた、そんなの気にしないじゃん。

 むしろ、見られる方が興奮するド変態じゃん。


「もう一人いるけどね」

「は? は? えーっと、私は3人でするのはちょっと…………」


 こいつの頭にはそれしかないのだろうか?


「いや、そいつはババアだから」

「ちょっと、はるるん様がおっしゃってる意味が分かりません」


 サマンサは本当に意味が分からないようで、困惑している。


「その辺も含めて説明するし、サマンサの話も聞きたいからついてきて」

「はぁ? わかりました」


 私は首を傾げるサマンサを家に持ち帰ることにした。




 ◆◇◆




 サマンサを見つけた私は電車で家に帰ることにした。

 サマンサは町の情景が気になるようで、窓から外を見ている。


「昔、はるるん様から聞いてはいましたが、本当にアトレイアとは違うんですね。この乗り物にしてもすごいです。魔法ではないのでしょう?」


 サマンサは電車の席に座り、窓から東京の街並みを見ながら言う。

 しかも、夕方の朱い光がサマンサを照らし、とってもかわいい。


「だねー」


 電車って動力は何だっけ?

 石炭じゃないだろうけど…………

 電車って言うくらいだから電気かな?


「この世界は魔法がないからね。代わりに科学が発展したの」

「正直、こちらの世界の方が快適に見えます。錬金術なんかを学ぶ者は魔法が使えない落ちこぼれ扱いでしたけど、これを見ると、そうとも言えませんね」


 アトレイアにも化学や物理を研究するところはある。

 だが、魔法が発展したあの世界では誰も興味を持たず、かなり廃れた学問になってしまっている。


「どっちがいいかはわからないけどね」

「選民思想がなくなりそうですね。それが良いか、悪いかは一長一短ですけど」


 言ってる意味の半分以上がわからないのは私の頭が悪いからかなー。

 それとも、この才女がすごいのかなー。


「まあ、電車は便利だよ」

「ですね。これがあれば、兵站の維持が容易です。それに経済の活性化にも繋がりますね。でも、そうなると、格差が広がるということもあり得ますかね?」

「う、うん。そうだね」

「あ、すみません。興味ないですよね。まあ、すごいって言いたいんです」


 すげー、バカにされてる気がする。


「まあ、すごいかもね。私は魔法とかの方が好きだけど」

「はるるん様は魔法がお好きですもんね」


 私とサマンサは電車に揺られ、家を目指す。

 時おり、サマンサからの質問にも答えたりしていると、駅に着いた。

 私達は電車を降りると、駅を出て、アパートに向かう。


 サマンサは歩いている時も周囲をキョロキョロしがら見ており、興味が尽きないようだ。

 

 そうこうしていると、アパートの前までやってきた。


「ここが私の家」


 私はアパートの前でやってくると、立ち止まり、アパートを指差す。


「宿屋みたいですねー。もしかして、集合住宅ですか?」

「まあ、そんな感じ。そこの部屋が私の家」


 電気がついている所から見て、ウィズとキミドリちゃんはすでに家に帰っているようだ。


「シュテファーニア様にご迷惑をかけないでしょうか? あのー、そのー、ちょっと狭いですし…………もう一人、いらっしゃるのでしょう?」

「まあ、もうすぐ引っ越す予定だし、我慢させるよ。ほら、行こ!」


 私がそう言って、サマンサの手を握ると、サマンサの濁った目に色が付き、笑顔になる。


「はい!」


 うーん、めっちゃかわいい!

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