第031話 すましたヤツほど異常性癖を持っている
「いやー、美味しかったですねー。血って、お酒と合うんですねー」
何も知らない人が聞いたらヤバそうなことをキミドリちゃんが笑顔で言っている。
キミドリちゃんは私の血をチェイサーにし、ビールを飲んでいたため、ご機嫌なのだろうけど、めっちゃ飲まれた私はちょっとふらふらする。
私がふらふらしながら、ポテチを食べていると、私の携帯が鳴った。
「だれー?」
「ベリアルじゃ」
私がウィズに聞くと、携帯の画面を確認したウィズが答える。
「ベリアル? なんだろう?」
「さあ? 出るか?」
「じゃあ、まあ……」
出ないのもあれだし。
私は携帯を取り、スピーカーモードで電話に出た。
「もしもーし、なんか用?」
『もしもし、私だが、今、大丈夫かね?』
電話口からベリアルの声が聞こえる。
「3人で飲んでるんだけどね。まあ、大丈夫だよ」
「それは失礼。邪魔しては悪いので、率直に用件を言うが、明日、君に会って話したいことがある」
え?
デートのお誘い?
やだぁー。
「何で?」
「君に確認したい事と報告しておきたい事があってね。電話ではあれだから直接話したい」
「えー、明日はダンジョンに行くんだけどなー」
めんどいよー。
「ハルカ、行ってこい」
私が嫌がっていると、ウィズが会いに行くように言う。
「え? なんで?」
今日、一番成果が少なかったから戦力外?
ひどーい。
「マンションの話があるし、会って、頼んでこい。今日のペースを考えれば、妾とキミドリが明日一日フルでやれば終わるじゃろ」
あー、そういえば、勝手にベリアルの名義を借りようって話してたけど、その話をベリアルにしてなかったな。
「私も頼みたいことがあるからいいよー」
私はウィズの話を聞いて、納得し、ベリアルに了承する。
「マンション? よくわからんが、明日、聞こう。では、明日の13時にこの前、君が泊まったホテルの1階の喫茶店に来てくれ」
あの豪華なホテルか……
帰りにチラッと見ただけだが、確かに、喫茶店があったと思う。
「わかったー」
「頼む。ではな。宴会の邪魔をして悪かった」
ベリアルはそう言って、電話を切った。
「用って何だろ? 天使かな?」
「さあな。切羽詰まった感じではなかったし、たいしたことじゃないじゃろ」
かねー?
「じゃあ、明日は私とウィズさんだけですねー」
キミドリちゃんがビールを片手にウィズに話しかける。
「そうなるな」
仲良くねー。
「明日で500万に届きそう?」
「多分、大丈夫だと思います。どっちみち、精算は後日ですしね。私が精算すると、借金返済に充てられますので…………」
そういえば、そうだったね……
「じゃあ、2人とも、頑張って。私は話を聞きに行くついでに名義貸しについて頼んでみるから」
「うむ」
「お願いしまーす」
私達は話がまとまったところで宴会を再開し、深夜になる前には就寝した。
◆◇◆
翌日、ウィズとキミドリちゃんは朝早くから出かけ、私はそれを寝ぼけまなこで見送った。
そして、二度寝した私は10時くらいに起き、出かける準備をする。
「この部屋に一人でいるって、懐かしいなー」
何気に200年ぶりの事である。
こっちに戻ってからはいつもウィズと一緒にいたから、新鮮だ。
「大学に入学して以来、ずっとこの部屋だったからなー。色んな女の子を呼んだなー」
私はちょっと懐かしさを感じつつ、着替える。
そして、出かける準備が完了したので12時過ぎには家を出た。
この前のホテルは家からちょっと遠いので、電車を利用する。
私は電車に揺られながら最寄りの駅の到着を待った。
電車が駅に着き、歩いてホテルまで行くと、時刻は約束の時間の5分前だった。
私は珍しく遅刻しなかったーっと思いながらホテルに入り、喫茶店に向かう。
喫茶店に入ると、お客さんが一人のスーツ姿の男性以外は誰もおらず、閑散としていた。
もちろん、その唯一の客はベリアルだ。
私はベリアルの席に行くと、対面に座る。
「この店って、あんた一人なの?」
私は席に着きながらベリアルに聞く。
「貸し切りにしてもらった」
金持ちだなー。
「あんたって、めっちゃ儲けてる?」
「まあ、ここを貸し切りに出来るくらいの金と権力はある。好きなものを頼みたまえ。奢りだ」
どうせ、経費でしょ。
接待費。
ソースはキミドリちゃん。
「じゃあ、何にしようかなー?」
私はメニューを見るが、全部高い。
コーヒー1杯2000円ってなんだ?
パフェも5000円する。
高いなー。
「じゃあ、このメロンパフェとコーヒーにする」
私がそう言うと、ベリアルが静かに手を挙げた。
そして、やってきた店員に自分の分のコーヒーと私のコーヒーとメロンパフェを注文する。
しばらく待っていると、店員がコーヒー2つとメロンパフェを持ってきた。
私はそのパフェを受け取り、一口食べる。
めっちゃうめー!
「私もあんたみたいな金持ちになりたいわー」
「いずれなれるさ。探索者は儲かるからな」
うーん、いくら儲けてもベリアルみたいになれそうにないと感じるのは何故だろう?
威厳かな?
「話って、何?」
私はパフェを食べながら本題に入る。
もぐもぐ。
「いや、その前に君の話を聞こう。マンションとか言っていたが…………」
ベリアルは自分の話より、昨日、電話でチラッと話した私の方の用事が気になるらしい。
「実は賃貸マンションに引っ越したいのよ。でも、探索者って、審査に通りにくいらしくて、ベリアルに名前を貸してもらいたいの」
「私が借りればいいということかな?」
「うん。お金は払うから」
「ちなみに、いくらかね?」
「月100万」
「そこそこだな。まあ、その程度なら良かろう。後で場所を教えてくれれば、すぐにでも借りられる」
100万をそこそこと言えるのか…………
うーん、この余裕が欲しい。
「ありがと。今日で初期費用とかは用意する予定だから」
「わかった」
ベリアルがいいヤツで良かった。
話が実にスムーズだ。
「で? あんたの話って?」
私は自分の用事が終わったので、ベリアルの用事を聞く。
「うむ。君は≪狂恋≫という吸血鬼を知っているかね?」
サマンサじゃん。
「知ってるというか、私の眷属だね」
眷属だし、恋人だし、家族だ。
「黒髪の幼い少女で、公爵級吸血鬼で合ってるかね?」
詳しいな。
「そだよー。プラス、目が濁ってたらサマンサ以外にいないね。ってか、あんた、めっちゃ詳しくない? サマンサはまだ30年しか生きてないんだけど…………」
サマンサの見た目は10歳程度だが、30歳くらいである。
吸血鬼になると、見た目の成長が止まるからだ。
「30歳で公爵級にまでなったのか…………すごいな」
ベリアルはサマンサのことを聞いて、素直に称賛している。
実際、30年くらいで公爵級になるのはすごいことだ。
普通はなれて男爵級か子爵級止まりだろう。
「まあ、元から頭が良くて、魔法学校を首席で卒業した才女だからね。いっぱい血を分けたし。で? うちの子がどうかしたの?」
私はベリアルが何でそんなことを聞いてくるのかがわからない。
しかも、サマンサに詳しい。
サマンサはあまり表に出る子じゃないうえにベリアルって、サマンサがいた時はもう死んで、こっちの世界に転生してない?
「いや、君はその子をこの世界に連れてきたのか?」
「うんにゃ。無理無理。だって、いきなり勇者に襲われて、慌てて逃げてきたもん。サマンサだけじゃなく、他の子も連れてきてないよ」
残念だ。
皆、元気かなー。
「そうか…………」
ベリアルはコーヒーを一口飲み、考え始めた。
「どしたのよ?」
「いや、昨日のことだがな…………電話をするちょっと前に吸血鬼に襲われた」
ん?
「そいつは自らを公爵級吸血鬼の≪狂恋≫と名乗った」
「へ?」
ベリアルが言っている意味が分からない。
「見た目はさっき言ったとおりだ。濁った目もしていた」
サマンサじゃん!
「サマンサがこの世界にいるの!? どうやって!?」
「それを確認したかったのだが、心当たりはなさそうだな…………」
「ないよー。何でいるんだろ?」
サマンサは魔力が高いし、頭もいいけど、時渡りの秘術を使えるとは思えない。
「この前の天使案件かもしれん…………」
「そうなの? サマンサは吸血鬼だよ?」
「いや、私を襲撃しているからな。天使に近しい可能性がある」
うーん、違うと思うなー。
あの子は他者を頼るタイプでもなければ、他者に興味を持つタイプでもない。
「ベリアル、あんた、サマンサに名乗った?」
私は心当たりが一つあったので、聞いてみることにした。
「名乗ったな…………あの吸血鬼、最初は尋問のような質問をしてきたが、名乗った瞬間に襲ってきた」
あー…………
「多分、それだよ。私は昔、あんたと初めて会った時の話をサマンサにしてる。その時もめっちゃ怒ってたし」
サマンサはその二つ名の通り、ちょっとヤンデレが入っている。
かわいいんだけどね。
「なるほど…………それで襲ってきたのか……」
私の言葉にベリアルも納得したようだ。
「それでさー、サマンサはどこ?」
私にとっては、ベリアルが襲われたことはなんかよりも、肝心のサマンサがどこにいるかだ。
「わからん。撃退したのだが、逃走した」
まあ、サマンサじゃあ、ベリアルには勝てないか…………
サマンサは魔力が高いし、頭もいい子なのだが、戦闘は得意ではない。
むしろ、苦手だし、弱い。
公爵級吸血鬼ではあるが、実力は伯爵級よりも下かもしれない。
「仕方がないね」
「そう言ってもらえると、ありがたい。何せ、腕ごと胴体を真っ二つにしたからな」
ふむふむって、おーーーい!!
こらーー!!
「うちの子に何してんだ!!」
私はめっちゃ怒る。
それはもう怒った。
自分の眷属であり、可愛い恋人でもある子に何をしてくれてんだよ!
この悪魔め!
悪魔だけども!
「仕方があるまい。公爵級吸血鬼相手に下手に手加減などできん。貴様ら吸血鬼はすぐに復活するからな」
リョナだ。
こいつ、リョナだ。
人のかわいいロリっ子をリョナりおった!
「それはどこよ?」
「この近くだ」
近くか…………
それほどの傷を負っているのならば、そう遠くには行っていないだろう。
「この当たりを探してみるわ」
私はパフェを食べている途中だっだが、そうも言っていられず、立ち上がった。
「お願いしたい。どういう目的で、そして、どういう手段でこっちの世界にやってきたのかを知りたい。とはいえ、私が行っても姿を現さないだろうし、ここは親である君に任せる」
「そうするわ。何かわかったら連絡するから」
「頼む」
サマンサ、大丈夫かなー?
生きているとは思うけど、やさぐれてないかなー?
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