第016話 私の評価は上がって落ちる
「魔族? あんたが?」
長官が自らを魔族と名乗ったため、私は思わず、聞き返す。
「ああ、大公級悪魔だ」
大公級悪魔……
王級の次に上の階級だ。
「ウィズ、知ってる?」
同じ魔族であるウィズに聞いてみた。
「うーん、わからんなー。というか、妾はあまり同胞に興味がないし」
ダメな魔王だなー。
「まあ、魔族はあまり群れんからな」
男は苦笑し、ワインを飲んだ。
「ってか、どうやってこっちに来たの? この世界がダンジョンに溢れているのはあんたのせい? 私が転生する前はダンジョンなんかなかったけど」
キミドリちゃん、ついてきてる?
絶対についてきてないと思うけど。
「私もそれについて話したかった。まず、ダンジョンがこの世界に出来た原因だが、何者かがダンジョンの芽をばらまいたのだと考えている」
ダンジョンの芽って何?
知らない単語が出てきちゃったよ。
「ダンジョンの芽? そんなものはこの世界にはないであろう」
ウィズが反応した。
「もちろんない。だから何者かがこの世界に持ち込んだ。私はそう考えている」
「時渡りの秘術か……」
「それ以外に考えられない」
「なるほど」
私はキミドリちゃんと顔を見合わせた。
キミドリちゃんはぽかんとしている。
おそらく、私もだろう。
そして、同時のタイミングで首を傾げた
こいつら、何を言ってんの?
「ウィズー……」
置いてかないでー……
「ん? そういえば、おぬしはダンジョンについて詳しくなかったな。ダンジョンというのは一種の魔物なのじゃ」
ん?
「ただの洞窟じゃん」
不思議な洞窟。
「まあ、聞け。ダンジョンは少しずつ成長するものなんじゃ。これは洞窟に入った生物の魔力や生命力を吸収しておるのじゃ。そして、ある程度、成長すると、おぬしも知っているダンジョンになる。魔物を生み出し、素材や宝箱を餌に生物を呼び込む。そして、殺し、己の糧とするんじゃ」
へー。
ハエトリグサみたいなもんかな?
「ふーん」
「まあ、そんな魔物と思っていい。そして、この魔物はダンジョンの芽と呼ばれる種から生まれる」
「種?」
植物?
やっぱりハエトリグサだ。
というか、芽なのか、種なのか……意味わかんない。
「そう種じゃ。この種が芽吹き、洞窟となり、ダンジョンになる。こやつが言うには、その種をアトレイアから持ち込んだヤツがおるらしい」
「いや、こいつじゃん。絶対に犯人はこいつじゃん」
他にいないし。
「我が名に懸けて誓うが、違う」
私が疑いの目を向けると、長官は即座に否定する。
「それを信用しろと?」
無理、無理。
「ハルカ、魔族が名に誓う場合は嘘は言わん。名を失うからのう」
「別に良くない? あんた、名前をあっさり捨ててたじゃん」
「それはおぬしがそうしろと言ったからじゃ。本当は命を失うより、重いことなんじゃぞ」
……………………。
愛だね。
すばらしい愛だね。
でも、覚えられないから仕方がないね。
「ウィズー、愛してるよー」
私は誤魔化すため、机にいるウィズを抱える。
「はいはい。というわけで、こやつは嘘をついてないじゃろ」
「だねー。こいつが本当に魔族だったらねー」
「うん?」
ウィズが首を傾げた。
「こいつ、名前を名乗ってないよ? というか、こいつ、人間だよ」
「私は魔族だ」
長官はまたもや即座に否定する。
「魔力は魔族のものだもんね。いくらでも誤魔化せる。でも、吸血鬼の前には意味なかったね。私達は血の匂いで種族がわかるの。あんた、魔力を覆っているけど、人間の血の匂いがプンプンする」
私は最初に、こいつを見て、違和感を覚えた。
人間の血の匂いのくせに魔族の匂いもする。
そして、私はそれがどういうことを意味するか、知っている。
「あんた、転生者でしょ!」
私はビシッと、指をさした。
「ほう………………よくわかったな……確かに、私は人間だ」
犯人の自供ターイム!
「おー、ハルカ、すごい!」
ウィズが賛辞を贈る。
「まあねー!」
「どうして、私が転生者だとわかった?」
長官は感心したように聞いてくる。
「私もだから。もっとも、あんたとは逆」
「逆?」
「あんたはアトレイアの大公級悪魔だったんでしょう? そして、死に、こちらの世界の人間に転生した。私は逆。私はこちらの世界の沢口ハルカという人間だった。だけど、不幸の事故で死に、アトレイアの吸血鬼となった。そして、戻ってきた」
そもそも、大公級悪魔が時渡りの秘術を使えるわけがない。
私とウィズの合作でようやく完成した魔法なのに。
「そうだったのか…………ああ、言われてみれば、ハルカという名は向こうにはないな……」
長官は頷いている。
「なるほどのう……では、こいつは嘘をついているということか?」
ウィズが長官を睨んだ。
「まさか……嘘はついていないよ。王級悪魔である魔王シュテファーニアがいるのに嘘なんかつかん」
「ホントか?」
ウィズが長官の目をジーっと睨む。
「私は人間となったが、魔族の誇りを捨ててはいない」
「ならば、名を名乗れ」
「私は吉田ゴロウ。前世の名は大公級悪魔、≪煉獄≫のベリアルだ」
ふむふむ。
やはり私の推理は合っていた!
私、天才すぎる!
フハハ――って、お前、ベリアルかーい!!
あんなに強かったのに死んだんかーい!!
「ベリアル? ハルカが泣いて土下座して、小便漏らしたとかいう、あの?」
解説、いらなーい!
キミドリちゃんが私を見てるしー。
めっちゃ引いてるしー。
「ん? んー? あっ!」
ベリアルらしい長官は首を傾げていたが、何かに気付いた。
今、思い出したんかーい!!
「さっき見た時にどっかで会ったような気がしたんだが、あの時の小娘か!! 靴でも何でも舐めるから許してーって鼻水たらしてたあの雑魚吸血鬼か!?」
おーい! いらん情報を付け足すな!!
って、キミドリちゃんが薄ら笑いを浮かべてるし!!
さっきのかっこいい探偵役の私が消えていくー!
「忘れよう! 皆、忘れよう!! 忘れて、ベリアルさんの話を聞こう!!」
私は場を整える。
「いや、まあ、悪かったな。吸血鬼はいい経験値になると思ったんだが、あそこまで弱いとは思わなかったんだ」
忘れろって、言ってんだろ!
「まあよいわ。ハルカの雑魚伝説なんか、いくらでも聞いたわ」
スライムに負けたり、ガキどもに追い回されたりね!
私は向こうに転生したばっかりの頃は弱かったから仕方がないのだ!
「うむ。まあ、とにかく、我が名に誓って、嘘は言わん」
「わかった。信じよう」
ベリアルとウィズは頷き合っている。
けっ! 魔族同士で仲良くしてなさい!
「それでだいぶ、話を戻すが、何者かがダンジョンの芽をばらまいたというのは確かかのう?」
「それしか考えられん。それに、実はダンジョンが出来てから今日まで、様々な事件も起きている」
悪魔2人は私とキミドリちゃんを置いていき、話を進めている。
「様々?」
「とても人間がやったとは思えん事件だ。おそらくはダンジョンの芽を持ち込んだ者と同一と考えている」
「調べたのか?」
「一応な。だが、私一人では限界がある。それに、昨日もあったみたいだ」
ん?
昨日?
「ベリアル…………」
私はベリアルを止める。
「昨日も女子高校生が襲われる事件があった」
「ベリアル!! 黙れ!!」
「しかも、性的暴行を受けたようだ」
人の話を聞かんかーい!!
「聞いたことがあるのう」
ウィズも黙れ!!
「首元には噛まれたような傷があったという」
この場にいる全員が私を見る。
「はん! だったらどうした!? 我こそは王級吸血鬼≪少女喰らい≫であるぞ!! 少女の血を吸って何が悪い!!」
もう開き直ろう。
私は王の中の王だ。
何も問題はない。
「とまあ、この事件は置いておいて、とにかく、奇妙な事件が多いのだ。もし、その何者かがアトレイアの住人ならば、君達に接触する可能性がある。その時は私に教えてほしい」
「教えるだけで良いのか?」
「協力までは望まん。私もそうだったが、長命種は基本的に他者に興味を示さんからな」
まあ、合ってる。
「それなのに、あんたは捜査するの? めんどくない?」
私はこいつの行動に疑問を持った。
大公級悪魔であり、≪煉獄≫の二つ名を持つベリアルが何でこんな正義の味方みたいなことをしているんだろう?
「私は魔族の誇りがある。多くの者を殺してきたし、奪いもした。別にそれについては後悔も懺悔もせんし、誇りにすら思っている。だが、今はこの世界で生きている。最初は戸惑いもしたが、友人も愛する者もできた。守れるものは守りたい」
こいつ、死ぬな。
きっと死ぬな。
絶対に死ぬな。
「そうか。まあ、いい心がけだと思うぞ」
ウィズはうんうんと頷いている。
「ねえねえ。あいつ、死ぬよね?」
私はキミドリちゃんを揺する。
「一応、私の上司なんですけど……言いたいことはわかりますけども。あと、ハルカさんは死なないと思います」
まあ、不死だし…………
「あんたが私を呼んだ理由はわかったわ、とにかく、怪しいのがいたら報告すればいいのね?」
私はベリアルに要点を言う。
「まあ、そういうことだ。私はこの国では、そこそこのポストについている。何かと便宜も図れる」
ギブアンドテイクか…………
「いいでしょう。ウィズもいい?」
多分、嫌とは言わないと思うが、ウィズにも確認をしておこう。
「構わんぞ。どうせダンジョンについては調べる予定だったし、情報は教えよう」
「感謝する。青野君、この2人を頼む」
ベリアルはキミドリちゃんを見る。
「はい長官! まったく話についていけてませんけど、わかりました」
「うむ。それと今日はホテルを取っておいたので泊まっていくといい。本来ならディナーを共にするべきなのだろうが、あいにくと、これから別の会食でね。女性だけで楽しんでくれたまえ」
ベリアル長官はそう言って、立ち上がると、部屋にある電話でタクシーを呼んでくれた。
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