異世界帰りのペド吸血鬼は自堕落に生きたい
出雲大吉
第1章
第001話 ≪少女喰らい≫
吸血鬼。
それは、この世界では夜の王と呼ばれている。
吸血鬼は死なない。
吸血鬼は強い。
吸血鬼は冷酷である。
吸血鬼に血を吸われると従属して、吸血鬼になってしまう。
人の世にどれほどの噂が流れ、人々が畏怖したかはわからない。
しかし、現実は残酷だ。
確かに、冷酷で強い吸血鬼はいる。
でも、それは人間も同じであろう。
だから、当然、弱い吸血鬼もいる。
そう。
私だ。
私ははっきり言って、あんま強くない。
しかも、冷酷でもない。
自分でも、自分のことは悪いヤツだという自覚はある。
時には物を盗み、時には少女の血を無断で吸った(吸いまくった)。
そして、時には人を殺したこともある。
だが、冷酷にはなれない。
何故なら、私は平和な国で生まれ育ったからだ。
いや、平和な国で生まれ育ったことがある、と言ったほうが正しい。
意味がわからないだろうが、事実だ。
私は日本という国で生まれ、高校、大学を卒業し、社畜にまでなった。
しかし、死んだ。
死因は不幸な事故だ。
決して、淫行で警察に捕まりそうになったわけではない。
脳の片隅にある『逃げて、階段で足を滑らせて死んだ』という記憶は多分、勘違いだろう。
とにかく、私は死に、この世界に転生(転移?)した。
吸血鬼として。
人間だった時と見た目は変わっていなかったが、吸血鬼だった。
私に親や家族はいない。
それは前世でも同じだった。
だから、1人でも寂しくはなかった。
しかし、この世界は暴力に満ち溢れている。
国同士は頻繁に戦争を行い、街の外は魔物がうじゃうじゃだ。
あ、私は魔物じゃないよ。
一応、亜人。
争ったこともない日本人がこんな世界に生まれ変わっても、すぐに死にそうなものである。
だが、私は死ななかった。
私は今年で記念すべき200歳だ。
私は200年間、生き延びた。
頭脳を駆使し、外敵から逃れ、1日に1時間もかけて必死に魔法の勉強もした。
吸血鬼が強くなるためには、血を吸うことが効率的である。
そして、血を吸う相手が強ければ強いほど、私は強くなれる。
でも、私は少女の血しか吸わない。
吸血鬼にとって、血を吸う行為は食欲と共に性欲も満たされる。
私は女だ。
それも金髪美人!
最初は黒髪だったけど、紆余曲折あって、今は金髪になった。
似合うし、可愛いからいいでしょ。
そんな私は前世から性癖がほんのちょっと人からずれていた。
ほーんのちょっとね!
そして、この世界の強いヤツは大体が筋肉マッチョマンである。
いやじゃい!
可愛い女の子とヤリた…………血が吸いたい!!
そんな好き嫌いの多い私は弱い。
とは言っても、普通の人間よりかは強い。
低級悪魔や普通のドラゴン程度なら倒せる。
しかし、それ以上は無理だ。
この200年で何回土下座をして見逃してもらったことやら。
そんな弱っちい私が200年も生きることが出来たのは私が賢かったからだ。
そんな私は、とある山奥の城に住んでいる。
この城は何百年も昔に魔王が住んでいたらしい。
その魔王は勇者に倒されたため、ここは無人の城であり、私が住み着いた。
そして、この城は何故か魔物も人も寄り付かない。
なんか畏れ多いらしい。
ばーか!!
事故物件じゃねーんだから!
と、思っていたのだが、本当に出た。
魔王が。
それは私の膝にいる。
私の膝の上で気持ち良さそうに伸びをしている。
ニャーン。
猫である。
しかも、白猫。
せめて、黒猫であってほしかった。
私は元々は魔王が座っていたと思われる玉座に座っている。
「ねえ? 暇なんだけど」
私は膝の上でゴロニャンしている魔王に話しかける。
「平和で良いではないか。妾が魔王だった時は勇者やら人間の兵士やらで気が休まる時がなかったわ」
膝の上の白猫が見上げ、無駄に偉そうな口調で答えた。
「そりゃあ、私だって、そんなヤツらに来てほしくないけど、さすがに暇すぎるよ。もうこの城に引きこもって100年は経つよ?」
「もうそんなに経ったのか? 時が経つのは早いのー」
ババアめ!
まあ、私も年齢的にはババアだけど。
「やっぱり、あの魔法で日本に帰るしかないかな?」
「あの魔法って、時渡りの秘術か? うまくいけば良いが、失敗すれば、間違いなく死ぬぞ?」
時渡りの秘術は、時空を越えることが出来る魔法であり、これを使えば、日本に戻れる。
しかも、200年前にタイムスリップすることも出来る。
…………理論上は。
「死ぬのは嫌だなー」
「おぬし、200年も生きたのじゃろ? もう十分ではないか?」
500年は生きてるクソババアが何か言ってる。
「私は1000年以上は生きるつもり。たとえ、媚びへつらいながら頭を下げてもね!」
私が200年も生きられたのは、この処世術とハッタリのおかげである。
「情けないのー。吸血鬼界では、おぬしはかなりの格であろうに」
実は吸血鬼はそんなに長生きは出来ない。
何故なら、そんな長生きの吸血鬼は危険すぎるために、すぐに勇者が討伐に来るのだ。
だが、私は大丈夫!
何故なら、弱いから!!
そして、引きこもっているから!!
「しかし、暇。あ~あ、ゲームしたい。漫画読みたい。ポテチ食べたい」
この世界には娯楽がなさすぎる。
知ってる?
この世界の人間の最大の娯楽って、公開処刑なんだよ。
しかも、女の場合はモザイクだらけ。
野蛮どころか、頭がおかしいとしか思えない。
だから、私はこんな誰も近寄らない辺境の地に逃げたのだ。
「妾はここでも良いが、おぬしのいた世界に行ってみたい気もするのう」
私達はこの城で100年も一緒にいる。
私達の娯楽は基本的におしゃべりだ。
だから、日本の事や生前のことなど、色んなことを話している。
「でも、死にたくはないのよ。もう少し、時渡りの秘術を解明してからね」
幸い、時間だけは山ほどある。
そのうち、安全に日本に行くことも可能であろう。
「そうかー。しかし、覚悟を決める時が来たようじゃな」
膝の上にいる魔王が私を見上げ、ニヒルに笑う。
「何の?」
「フフフ、どうやらお客さんが来たようじゃ」
魔王は私から目線を外すと、私が座っている豪華な玉座の前方にある巨大な扉を見る。
私はそれに釣られて、扉を見た。
すると、私の背よりも遥かに高い扉がゆっくりと開かれる。
「え? どうして?」
何故、ここに人が来る?
ここに住んで、100年間、誰も来なかったのに……!
扉が開くと、そこには黒目黒髪の男が1人で立っていた。
「ほぅ……勇者か」
魔王が感心したようにつぶやく。
ゆ、勇者……
最悪だ!
人間は弱い。
それなのに、人間が滅びないのは勇者がいるからだ。
勇者は神の加護により、吸血鬼や魔物はもちろんのこと、魔王ですら倒してしまう恐ろしい存在なのだ。
「ここにいたか…………ようやく見つけたぞ!!」
マズい!
勇者には勝てない。
ここは策を用いて、凌ごう!
「ゆ、勇者さま! お助けください! 私はリンガ王国の王女サマンサです。何者かに拐われ、ここに幽閉されていたのです!」
秘技、お姫様!!
説明しよう!
秘技、お姫様とは、お姫様の振りをして助けてもらい、隙を見て、逃げる作戦だ!
私は身長が145センチしかなく、見た目は絵に描いたような金髪少女である。
どう見てもお姫様!
「シンゴ、騙されてはダメよ」
誰もいないのに声がしたと思ったら勇者の背後から赤髪の少女が現れた。
少女は黒一色のローブに三角帽子である。
どう見ても、魔法使いだ。
「そうです。この者はそうやって人を騙し、不意打ちをするのです」
またもや、勇者の背後から金髪の少女が現れた。
今度は白一色のローブであり、どう見ても、教会の僧侶だ。
「ち、違います! 私は本当にサマンサです!」
騙すの無理かもー。
「何を言っているのですか、≪少女喰らい≫。リンガ王国のサマンサは貴女が食べてしまったではないですか?」
え?
私、サマンサを食べたっけ?
サマンサは私に従順な恋人Cだ。
最近のお気に入りの子であり、この前、眷属にしてあげた。
最近って言っても20年くらい前だけど……
「≪少女喰らい≫って、何のことですか!? 私はそんな吸血鬼を知りません!」
あ、知らないって言ってるのに、吸血鬼って言っちゃった。
気づかないでー!
「おや? ≪少女喰らい≫が吸血鬼なことをご存知で? なのに、貴女は≪少女喰らい≫を知らないとおっしゃる?」
教会の僧侶(以下白女)がドヤ顔で指摘する。
うぜぇぇぇ!!
古◯警部補に追い詰められる犯人の気持ちがわかる。
「もう無理だと思うぞ」
膝の上の白猫が私の顔を見上げる。
ムムム、こうなったら仕方ない。
「私の肩に移動して」
「ほい」
私は白猫に肩に移動するように小声で言うと、白猫は私の肩に移動する。
フフフ、私がただ頭を下げ、靴を舐めながら200年も生きたと思ったら大間違いだ!!
「ククク、少しは頭が回るお嬢さんのようだな。いかにも、我こそが≪少女喰らい≫である。して、こんな辺境の地までやってきて、何の用かな? もしや、わざわざ私に食べられに来たのかな? お嬢さん?」
私は急に態度を変え、大物っぽく見せる。(厨二言うな!!)
「た、食べるって……サイテーですね!」
「本当に噂通りのヤツみたい!」
白女と黒女が顔を赤くする。
あれ?
もしかして、食べるって、比喩表現の方!?
だったら、サマンサを食べたわー。
ってか、≪少女喰らい≫って、そっちかー。
ダサいどころか変態の称号じゃん。
「そんなヤツがいる所にわざわざやって来たのだから、それ相応の覚悟はあるのだろう? なーに、我は優しいから安心するが良いぞ」
何か、大物が悪徳小物貴族になってきてないだろうか?
大丈夫かな?
「≪少女喰らい≫、お前は危険な吸血鬼だ! 世界の平和のために、ここで倒させてもらう!!」
勇者は黒女と白女を庇うように前に出ると、腰から立派な剣を抜き、こちらに向けた。
「あれは聖剣じゃな。あれを食らえば、いくら吸血鬼と言えど、お陀仏じゃぞ」
肩にいる魔王が小声で教えてくれる。
吸血鬼は不死身だが、日光と聖なる力に弱い。
つまり、ピーンチ!!
「例のやつを準備して」
「良いのか?」
「このままではどのみち死ぬ。なら、賭けるわ」
「わかった。死んでも妾が一緒に地獄に行ってやろう」
1人で行け。
私は天国で天使ちゃんと戯れるのだ。
「我とやろうというのかな、少年?」
やめてくれない?
弱い者イジメは良くないゾ!
「そうだ。お前を倒し、ボクは日本に帰る!」
ん?
こいつ、同郷なのか。
そういえば、見た目が黒髪黒目で完全に日本人だわ。
「ほぅ……貴様は異世界勇者だったのか」
なお、異世界勇者という言葉は今、作った。
「そうだ!!」
勇者君、ノリが良いな。
「私を倒せば、帰れるのか……だが、それは無理だよ」
私はカッコよく首を横に振る。
「何!? 勇者であるボクがお前に負けるとでも!?」
本当にノリが良いな。
「まさか。いくら我でも勇者である貴様には勝てまい。だから、逃げさせてもらうよ」
「逃げきれるとでも?」
フッ……っと鼻で笑う勇者君。
「もちろんだよ。ところで、君は我を倒したら日本に帰れると思っているのか?」
「国王と約束した!」
「フフフ、一国の王が貴重な戦力を手放すものか。貴様はこれから数多くの敵を倒さなければならないだろう。帰れるのは何年後かな?」
「っ! 黙れ!!」
勇者君は私の言葉に心当たりがあるようだが、強い言葉で必死に否定した。
「フフフ、まあよい。だが、たとえ、貴様が元の世界に戻れたとしても、残念ながら元の世界は滅んでいるよ」
「何!? どういうことだ!?」
「こういうことだよ」
私は立ち上がると、カッコよく指を鳴らす。
…………鳴らなかったけど。
そして、私が指を鳴らす(鳴ったんだい!)と、私の足元に魔方陣が現れた。
「な! 何だそれは!?」
「転移の魔方陣だよ。君もこれでこの世界に来たのだからわかるだろう?」
知らないけどね。
「何だと!?」
「さようなら、日本人の勇者君。私は一足先に日本とやらに行き、遊んでくるよ」
ゲームや漫画のことだよ!
「き、きさま!!」
勘違いをしている勇者君は烈火のごとく怒っている。
「フフフ、君には家族がいるのかな? 妹さんはいるかな?」
「き、きさま! アイリに手を出したら許さんぞ!!」
だったら、名前を言うなよ。
バカなのかな?
「アイリちゃんと言うのか…………フフフ、優しくしてあげよう」
「や、やめろ!! アイリはまだ高校生なんだ!」
だったら、ヒントを与えんなや。
ってか、高校生?
ちょっと年増だな…………微妙……
うーん、まあ、この際だし、もうちょっとからかってやろう。
「わかった。勇者である貴様の家族には手を出さないでおこう。それでは私は日本に行くよ。最後に貴様の名前を聞いておこうかな」
「僕の名前は長澤シンゴだ!!」
はい、バカー!
「フフフ、ということは、長澤アイリちゃんだな?」
「な!?」
本当にバカだね。
「フフフ、さあ! 偉大なる夜の神よ! 我に力を授け、日出国への扉を開き給えー!! フハハ、さらばだ、勇者よ! この夜の王はるるん様が貴様の故郷を滅ぼしてやる!! しかし、貴様は何もできまい!! この世界で指を咥え、震えているがよい!! なーに、アイリちゃんのことは心配しなくても良いぞ。この≪少女喰らい≫は優しいからなー! アーハッハッハー!!」
「ま、待てえぇー!!」
勇者君の叫びは空しく、私と魔王は魔方陣の光に包まれ、転移する。
…………さーて、戻ったらポテチ食って、ビール飲んで、寝よ。
引きこもり、サイコー!!
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