第184話 たとえ、失敗したとしても、次につなげよう


 50階層のボスに挑んだ俺達は、真っ先にクーフーリンを失うと、サエコは腕を切られ、サエコを庇ったおっさんAも死んでしまった。

 前衛が2人以上、戦闘不能となったところで、≪Mr.ジャスティス≫が撤退の指示を出した。


 俺は皆が撤退したことを確認すると、最後に一矢報いようと、破壊力のあるパンプキンボムを投げようと思った。

 しかし、デュラハンの素早い一撃により、サエコと同様に腕を落とされ、パンプキンボムによる自爆で死んでしまった。


 俺は気付いたら協会内の帰還の魔方陣にいた。


「クソッ! また死んだ……しかも、前回と同じく自爆かよ」


 俺は状況を理解すると、毒づく。

 しかし、誰の反応もなかった。


「シロは…………そうか、そういえば、あいつは俺が死んだら死ぬんだったな」


 というか、パンプキンボムの爆発に巻き込まれたかもしれん。


「ハァ……」


 俺は思わず、ため息が出る。


 あれが50階層のボスか……

 ちょっと強すぎじゃないだろうか?

 攻撃力もスピードもレベルが違いすぎる。

 

 うーん、これは要相談だなー。


 俺は他の連中と合流しようと思い、部屋を出た。


「お! ルミナ! 無事だったか!?」


 俺が部屋を出ると、警備員の榊が話しかけてきた。


「無事じゃねーよ。死んだわ」

「そうか。死んでたのか。他のヤツらが帰還したのに、お前が帰還しないから心配したぜ」


 普通に生きて帰還するのと、死んで帰還するとでは時間に誤差が出る。

 他の連中はすでに帰還済みなんだろう。


 そして、俺が死んだことを知らないということは、シロはまだ帰還していないようだ。


 というか、あいつって、死んだらどうなるんだ?

 モンスターだけど、帰還できんの?

 死んだらそのままだったりして。


「普通に生き返るわ。ここ開けろー」


 後ろの扉の向こうからシロの声が聞こえる。


「念力で開けろよ」

「めんどい。開けろー」


 俺はこのまま閉じ込めてやろうかと、イタズラ心が生まれたが、そんな場合じゃないので、扉を開けることにした。


 俺が扉を開けると、下の方にシロがいた。


「やあ、最悪の目覚めだな」


 シロが俺の身体によじ登りながら言う。


「そらな。お前、死んだん?」

「死んだ、死んだ。俺っちもお前と同様にカボチャ爆弾の導火線を見てたわ。すぐにお前の背中に逃げようと思ったが、間に合わなかった」


 さりげに俺を盾にしようとしてやがる。

 まあ、今さらか。


「お前も死んだら生き返るんだな。モンスターのくせに」

「俺っちはもうモンスターじゃねーからな。お前さえ生きていれば、死なねーよ」

「ふーん、まあいいか」

「それよか、他の連中は?」

「さあ? どこなん?」


 俺は榊に聞く。


「2階の会議室だ。敵は相当強かったみたいだな。他の連中の落ち込みようがすごかった」

「落ち込むって……情けねーな。たかだか1回負けただけじゃねーか」


 何のために生き返ると思ってんだよ。


「それはそうだけど、普通は負けたら落ち込むだろ」

「どうでもいいわ。そんなことよりも、今後どうするかが大事なんだよ」


 さっさと切り替えるのが大事!

 時間ねーし。


「お前は本当にポジティブだなー。まあ、良いことか。さっさと2階に行ってこい」

「はいはい」


 ってか、お前の相方はどこだよ?

 また、トイレか?


 俺は榊に向かって手を上げ、別れを告げると、協会のロビーに戻った。


「あ! お帰りなさい、神条さん!」


 俺が協会のロビーに戻ると、扉近くにいたかわいい職員さんが小走りで俺の所に寄ってきた。


「どうもー」

「すみません。桂木さんを呼んできますので、少々、お待ちください」


 職員さんはそう言って、受付の方に向かった。


 いや、別に呼ばんでも……

 2階の会議室に行けばいいんじゃないの?


 俺は仕方がないなーと思いながら待っていると、マイちんがやってきた。


「お帰り、ルミナ君。体に異変はない?」

「あるわけないじゃん。別に初めてでもないし」


 数は多くないが、俺だって、そこそこ死んでる。


「なら良かったわ。早速だけど、2階に行きましょう。本部長と他の人達が待ってるわ」

「クーフーリンとおっさんはもう帰還してる?」

「ええ。2人共、無事よ」


 まあ、あの2人は気にするようなタイプではないか……


 俺はマイちんについていき、2階に上がる。

 そして、例の会議室の前につくと、マイちんが扉をノックする。


「本部長、ルミナ君が帰還しました」

「入れ」


 だから、てめーは何様なんだよ!


 マイちんが扉を開け、中に入っていったので、俺もマイちんに続く。

 部屋の中に入ると、本部長を含めた18人全員が神妙な面持ちで立っていた。


 いや、座れよ。


「やあやあ、ごきげんよう」


 俺は軽く挨拶をしながら椅子に座る。


「ルミナ君、大丈夫だったの?」


 シズルが心配そうに聞いてくる。


「余裕、余裕。まあ死んだけどね」

「死んだの!?」

「そそ。帰る前にカボチャ爆弾を投げようと思ったらサエコみたいに腕がなくなっちゃった。そんでもって、自爆」

「……それで」


 シズルは納得したようだ。


「神条、無事と言っていいかはわからんが、ひとまずは無事でよかった。お前がいつまで経っても帰ってこないから心配したぞ」


 本部長が心配してなさそうな、いつもの表情で言う。


「まさか、あの距離で攻撃されるとは思わんかったわ」

「だろうな。話はここにいる連中から聞いた。かなりの強敵のようだ」

「ほんそれー」


 めっちゃ強い。


「皆、すまん。真っ先に突っ込んで、真っ先に死んだ」


 クーフーリンはバツが悪そうに言う。


「いや、君の判断は間違っていないし、許可を出したのは僕だ。まさか、あんなに強いとは思わなかった」


 まあ、速攻で退場したが、クーフーリンの判断は間違っていない。

 確かに、お供が出る前に速攻を仕掛けるのは定石の一つだし、特に俺達みたいなタンク不足のメンバーならなおさらだ。


 むしろ、判断を間違ったのは…………じー。


「嬉しそうな顔で私を見るな。チッ……わかってるよ。あそこで突っ込んだ私が悪いんだろ。すまなかった」


 サエコが舌打ちをしながらまったく反省するそぶりを見せずに謝る。


「お前のせいで、おっさんは死んだんだぞ。土下座しろー」


 おっさんAに謝れー。


「このクソガキはここぞとばかりに調子に乗るな。村松、気にするな。ボス戦では、タンクは死ぬ前提で動く」


 ケッ! 良い人ぶるな!

 お前が死んだのは余計なフラグを立てたからじゃい!


「まあまあ。春田さんが孤立してたし、仕方がないよ。それより、今後のことを考えよう」


 ≪Mr.ジャスティス≫がサエコを庇った。


 サエコが突っ込んだのとあきちゃんは関係がないように思えるが、まあ、深くは追及しないでおこう。


「それもそうだなー」

「まずは、あの超スピードだね。僕も見てたけど、いつの間にか、クーフーリン君の後ろにいたよね」

「それなんだが、あれって本当に速いだけか? どう考えても、避けれる間合いじゃなかったぜ? 本当に一瞬のうちに消えた感じだ」


 クーフーリンが首を傾げながら疑問を投げかける。

 実は俺も思うことがある。


「俺も本当に超スピードなのか疑問がある。実は最後に腕を飛ばされた時、スキルの斬撃かと思った。だが、衝撃波は見えなかったし、ヤツが剣を振った直後に俺の腕が落ちた。あれはスキルの斬撃じゃないと思う」


 スキルの斬撃は基本的に衝撃波を飛ばす技だ。

 見えないなんてことはない。


「それは私も思った。何よりも発動が速すぎる。私の方が先に構えてたのに、ヤツが剣を振ったら腕が落ちた」


 腕落ち仲間のサエコが俺に同意する。


「超スピードじゃない……何かのスキルか……?」


 俺達の疑問を聞いた≪Mr.ジャスティス≫が悩む。


「セイギ、俺もいいか? 俺はシールドバッシュで突っ込み、剣で刺されたんだが、ヤツの剣は俺の盾の向こう側にあって、俺の腹に刺さるような位置関係にはなかった。それなのに、気づいたら俺の腹に刺さっていた。明らかにおかしい」


 おっさんAの盾はタンクだけあって、そこそこ大きい。

 確かに、防御しながら突っ込むシールドバッシュで腹に剣が刺さるのはおかしい。


「つまり…………どういうことだ?」


 ≪Mr.ジャスティス≫は何かを言おうとしたが、思いつかなかったようで、首を傾げる。


「物理的におかしい動きを見せてるってことだろ。こらショウコ! お前、何か見てないのか?」


 ショウコのスキルで、ヤツのスキルがわかるだろ。


「ごめんなさい。デュラハンのスキルが多すぎてねー。うーん、何か変なのがあったかしら?」


 ショウコは思い出そうとしている。


「あのー、ウォープってのがありませんでした?」


 ちーちゃんがショウコに言う。


「あー、あったわねー。ウォープって何?」

「さあ?」


 ちーちゃんとショウコは首を傾げあっている。


 ウォープ?

 私、英語わからない。





攻略のヒント


「≪白百合の王子様≫の由来を教えてください」

「中学の時からのあだ名だね」

「そんな時から…………」


『二つ名の由来を聞いてみよう~安達ユリコ~』より

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