第183話 おー、死んでしまうとは情けない
ロクロ迷宮50階層のボス部屋前の部屋で一泊した。
俺はシロに起こされ、目が覚める。
昨日はおっさんAとキララと話しながら見張りを行い、時間が来たので、カナタを起こし、交代した。
その後、すぐに寝たので、疲れは残っていない。
精神力も回復しているし、万全の状態だろう。
俺は着替え、髪をとき、準備を整える。
それが完了すると、朝飯を食べるため、テントを出た。
俺がテントを出ると、すでに他のメンツは全員集まって、朝食を取っていた。
「遅いぞ。どんだけ寝てたんだ? 相変わらず、図太いヤツだな」
俺が近づくと、ショートの髪をはねさせたサエコが文句を言ってくる。
「起きてたわ。女は時間がかかるんだよ」
「いや、私も女だから。むしろ、お前は男だから」
「その寝ぐせを直してから言え。おい、俺の飯は?」
俺はシズルの横に座ると、手を伸ばす。
「はいはい。菓子パンとおにぎりがあるけど、どっちがいい?」
シズルはコンビニで買ったと思われるチョコのパンと鮭のおにぎりを取り出した。
「どっちも」
「じゃあ、これ」
俺は菓子パンとおにぎりを受け取り、食べだす。
「絶対にこんなヤツ、やだわ」
キララがパンを食べながらつぶやく。
「うるせーな。犯すぞ」
「お前は死んだほうがいいな」
やかましいわ。
「すみません。この人、寝起きが最悪だから」
「いっつもだよね」
「一生寝てるべきですよねー」
シズルがキララに謝ると、ちーちゃんとアカネちゃんも乗っかってきた。
「誰か、コーヒー持ってない? 暖かいの」
コーヒー飲みたい。
「どうやってお湯を沸かすんだよ」
サエコが呆れた様子で言う。
「火魔法で何とかなんないかな?」
「無理じゃね? 薪でもあれば、お湯を沸かすくらいはいけるかもだけど」
めんどいし、薪なんて持ってないな。
「そういうのないの? キャンプグッズとかでさ」
「知らない。私、キャンプしないし」
だろうな。
サエコがキャンプしている姿を想像できん。
「缶コーヒーならありますよ。常温ですけど」
≪ヴァルキリーズ≫のヒーラーであるセツが缶コーヒーを取り出した。
「ちょうだい」
「どうぞ」
俺はセツから缶コーヒーを受け取り、飲む。
微糖かい……
まあ、いいや。
「全員揃ったし、今日の最終確認をするけど、いいかな?」
≪Mr.ジャスティス≫が今日の予定を説明するようだ。
「どうぞー」
うーん、おにぎりとコーヒーは合わんな。
「今日はこれから50階層のボスに挑む。ボスはデュラハン。あと、キリングドールとリビングアーマーもいる。デュラハンはクーフーリン君と春田さんにお願いする」
「おう」
「おっけー」
≪Mr.ジャスティス≫がクーフーリンとあきちゃんを見ると、2人は軽く応えた。
「キリングドールとリビングアーマーはルミナ君とサエコさんでお願い」
「はいよ」
「任せときな」
俺とサエコも頷く。
「後衛は援護。まずはキリングドールとリビングアーマーを掃討してほしい。残った僕達が護衛をする。ショウコさんとRainさんは近くに来たキリングドールを倒してほしい」
「了解」
「わかりました」
ショウコとシズルも了承した。
「最後に言っておくけど、まだ時間もあるし、無理をする必要はない。危険を感じたらすぐに帰還してくれ」
≪Mr.ジャスティス≫がそう言うと、全員が頷く。
俺達は朝食を食べ終えると、各自、片づけを行い、最終準備を整えた。
そして、全員がボス部屋への扉の前に立つ。
「いくよ」
先頭の≪Mr.ジャスティス≫がそう言って、扉を開けた。
中に入り、視界に飛び込んできた風景は、いつものようなボス部屋ではなかった。
このボス部屋はそこまで広くはない。
ただ、前方に長い部屋であり、床はレッドカーペットが敷かれていた。
そして、その先には豪華な椅子が置いてある。
俺はこの風景を見たことがあった。
「ここって……」
シズルが俺を見ながらつぶやく。
それはそうだろう。
シズルも見たことがあるはずだ。
ここはかつて、シロと出会い、ズメイと戦い、シズルのお母さんを助けたポーションを手に入れたエクストラステージだからである。
俺はこの王宮にある謁見の間のような風景を忘れたことがない
なにしろ、俺が女になった場所でもあるからだ。
「ここかよ……」
「具体的には違うけどな。エクストラステージはここを模写しているんだ」
シロが教えてくれる。
「なるほどね」
ズメイは50階層程度で、ここをモチーフにしてるって言ってたしな。
しかし、デュラハンがいねーな。
やっぱり近づかないと、出てこないのか?
「あの玉座が怪しいな」
「そりゃな」
まあ、あそこじゃなかったら、あの玉座は何だってんだって話になる。
「≪Mr.ジャスティス≫、キリングドールやリビングアーマーがいないし、俺と秋子で速攻をしかける」
クーフーリンが槍を構えて、≪Mr.ジャスティス≫に言う。
「大丈夫か?」
「ボス戦では、めんどくさいお供を呼ぶ前に倒すのが定石だろう。俺の槍で一撃で仕留める」
「わかった。春田さんも続いてくれ」
「はーい」
大丈夫かね?
不安になる二人だわー。
「行くぞ!」
「おー!」
クーフーリンは気合を入れ、誰もいない玉座に突っ込んでいき、あきちゃんもそれに続く。
俺とサエコもキリングドールとリビングアーマーを警戒し、前に出た。
クーフーリンが部屋の半分程度に到達すると、玉座に首から上がない黒い騎士が姿を現す。
そいつは盾を持っておらず、両手剣と思わしき剣だけが見えた。
「ひえ、すでに死んでんじゃん」
「デュラハンは首無し騎士なの」
シロが教えてくれるが、それくらいは知ってる。
ギャグだよ、ギャグ。
デュラハンは立ち上がると、剣を構えた。
すると、クーフーリンの目の前に、無数のキリングドールとリビングアーマーが現れる。
「サエコ!」
「ああ、行くぞ!」
俺とサエコはそれを見て、突っ込んだ。
あきちゃんはキリングドールとリビングアーマーを前に一度止まったが、クーフーリンは構わずに突っ込む。
そして、クーフーリンがキリングドールとリビングアーマー軍団の前まで来ると、リビングアーマーがクーフーリンを抑えようとした。
しかし、クーフーリンは一気に飛び上がり、リビングアーマーを飛び越すと、そのままリビングアーマーの後ろに着地し、デュラハン目掛けて、一直線で走っていく。
すげー。
クーフーリンのくせに、かっこいいぞ。
俺はクーフーリンに感心していたが、そうも思っていられない。
キリングドールが俺に向かって走ってきているからだ。
「チッ! 相変わらず、大人気だな」
俺はハルバードを取り出し、一体のキリングドールに振り下ろす。
ハルバードを受けたキリングドールは砕け散るが、キリングドールは他にもいた。
俺が他のキリングドールの切り裂きをバックステップで躱すと、横からサエコの剣がキリングドールの胴体を突く。
「サエコさん、ルミナ君、魔法が行くよ!」
≪Mr.ジャスティス≫の声を聞いた俺とサエコは慌てて下がる。
すると、キリングドール軍団に魔法が降り注いだ。
俺は一度、目を切り、あきちゃんを見ると、あきちゃんはリビングアーマーを一人で蹴散らしている。
次にクーフーリンを見ると、ヤツはデュラハンに接近しようとしていた。
クーフーリンは走った勢いのまま、突っ込み、デュラハンに向けて、槍を突き出す。
「食らえ! グングニルッ!」
もうツッコまないぞ。
クーフーリンが一撃必殺の槍を放っているのに、デュラハンは微動だにしていない。
終わったんじゃね?
デュラハンがどれだけ堅いかは知らないが、クーフーリンの槍を受けて、生き残れるとは思えない。
俺は終わったーと思い、安堵した。
しかし、クーフーリンの槍は玉座に当たった。
クーフーリンの槍を受けた玉座は粉々に砕け散っている。
「は?」
サエコの口から情けない声が漏れる。
それもそのはずだ。
俺もまったく同じ気持ちである。
あの距離でクーフーリンの槍を躱したこともだが、状況がよくわからない。
俺の目にはクーフーリンの姿が見えない。
クーフーリンの後ろにはデュラハンが立っているからだ。
いつ動いた!?
俺はクーフーリンとデュラハンの動きを見ていた。
デュラハンの姿が消えたと思ったら、すぐにデュラハンがクーフーリンの後ろに現れたのだ。
意味がわからん。
「瀬田! 後ろだ!」
サエコが叫ぶ。
それもそのはず。
デュラハンは剣を振り上げていた。
クーフーリンは慌てて、後ろを振り向き、迎撃しようとする。
無理だ。
その間合いでは槍が使えない。
一瞬にして、デュラハンの剣はクーフーリンの胴体を切り裂いた。
そして、クーフーリンは地に伏し、動かなくなる。
マジかよ……
クーフーリンが一撃て。
俺はどうしようかと悩む。
「神条! 私が行く。お前は秋子の援護に!」
サエコはそう言って、突っ込んだ。
バカが!
クーフーリン相手に完勝した相手をお前一人で倒せるわけねーだろ!
「≪Mr.ジャスティス≫! タンクをサエコの援護に行かせろ!」
俺は後ろを振り向き、≪Mr.ジャスティス≫に向かって、叫んだ。
そして、≪Mr.ジャスティス≫が頷いたのが見えると、あきちゃんの元へ急ぐ。
俺があきちゃんの元に来た時にはサエコはデュラハンと対峙していた。
俺はあきちゃんと協力して、リビングアーマーを蹴散らす。
サエコ一人では無理だが、リビングアーマーやキリングドールを放っておくことは出来ない。
さっさと片付よう。
「チッ!」
「んー、数が多いよー」
リビングアーマーは防御力があるため、一撃では倒せない。
それでも何とか蹴散らすが、数が多い。
俺達がそうこうしているうちに、サエコの方も動いた。
サエコの神速の一撃がデュラハンを襲う。
しかし、デュラハンは難なく躱すと、反撃で剣を振るった。
サエコは躱せなかったらしく、剣で受けるが、サエコの細剣ではデュラハンの大剣を受けきることが出来ず、サエコは後退する。
あれは長くは持たんな……
俺がやばいかもーと思っていると、俺とあきちゃんの横をおっさんAが走って通っていった。
援護か……
サエコはバックステップで、さらに距離を取ると、剣を掲げた。
サエコの必殺技である千剣を使うのだろう。
だが、安直すぎる考えだ。
デュラハンの超スピードを忘れたのか?
サエコが剣を掲げていると、デュラハンも距離を取った。
ん?
俺がデュラハンの動きに疑問に感じていると、デュラハンは離れた場所から剣を振るう。
当然、剣が届く距離ではない。
しかし、デュラハンが剣を振るった瞬間、サエコの腕は細剣と共に地面に落ちた。
はい?
スキルの斬撃か?
そんな事まで出来んのかよ!?
腕を落とされたサエコは地面に座り込み、落ちた自分の腕をボーッと見ている。
デュラハンはそんな戦意を失ったサエコに近づくと、剣を振り上げた。
あ、サエコも死んだ。
俺がサエコを諦めていると、援護に向かっていたおっさんAがデュラハンに突っ込む。
「シールドバッシュ!」
おっさんAはサエコのピンチを救い、デュラハンを吹き飛ばした。
しかし、おっさんAの背中から大剣が突き出している。
おっさんAはその場で崩れ落ちた。
げっ!
タンクのおっさんAも一撃かよ……
そういえば、あいつ、昨日、今度、結婚するんだとか言ってたな。
今思うと、めっちゃ死亡フラグじゃん。
「撤退だ!!全員、帰還の結晶を使え!!」
後ろから≪Mr.ジャスティス≫の声で撤退の指示が聞こえる。
まあ、これ以上は無理だろう。
サエコ、あきちゃんはすぐに帰還の結晶を取り出し、帰還した。
後ろを見ると、他の連中も帰還したようだった。
俺は帰る前に一撃を食らわせてやろうと考えた。
「パンプキーン」
俺は手を前に出し、カボチャ爆弾を取り出し、投擲しようとする。
デュラハンとは距離がある。
いくらあいつが速かろうと、ここまでは届かない。
俺は全力で遠投しようとした。
だが、デュラハンはいつの間にか、大剣を持っており、その大剣を俺に向けて振るっている。
まさか……
次の瞬間、俺の右腕が急に軽くなる。
そして、俺の足元には血で染まった美しい腕が落ちていた。
痛みはない。
腕を失ったことへの喪失感もない。
ただ、俺は腕の横に落ちているカボチャ爆弾の導火線を見ていた。
あかん! 爆発す――
目の前が真っ暗になった。
攻略のヒント
帰還の結晶は帰還の魔方陣がない所でも協会に帰還できる便利なアイテムである。
ただし、高価であるうえ、使用回数に制限があるため、使用を惜しむエクスプローラが多い。
確かに、帰還の結晶は貴重である。
そのため、惜しむ気持ちはわかるが、使用のタイミングを見誤ってはならない。
貴重とはいえ、命に代えられるものではないことを今一度、理解しておこう。
『週刊エクスプローラ 特別コラム』より
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