第172話 41階層


 俺達は力を合わせて、40階層のボスであるホワイトドラゴンをやっつけた。

 そして、俺達は未知の領域である41階層にやってきた。


 41階層はこれまでのダンジョンとはかなり異なっていた。


 1階層から10階層がトンネルのような洞窟。

 11階層から20階層が遺跡みたいなレンガ造り。

 21階層から30階層がアリの巣のような洞窟。

 31階層から40階層が綺麗なコンクリート。


 そして、41階層からは中世の王宮のような作りとなっていた。

 通路の大きさは変わらないが、地面は大理石のような石造りに赤いじゅうたんが敷かれている。

 天井を見れば、所々にシャンデリアが設置されていた。

 しかし、どことなく薄暗く、通路の奥は見えない。


 それを見た皆は茫然としている。

 あまりにもこれまでとは構造が異なるからだ。


「俺、なんか見たことあるな」

「私も……」


 俺のつぶやきにシズルが応えた。


「なあ、シロ。ここってエクストラステージか?」


 そう、ここは春にシズルと来て、シロと出会ったあのエクストラステージに似ていた。


「違うぞ。エクストラステージはここがモチーフなんだ。というか、ズメイが50階層のボスレベルなんだよ」


 あのズメイの攻略難易度って、50階層級だったのかよ……

 よく勝てたな、俺。


「どうりで強かったわけだ」


 でも、勝てたね。


「まあ、と言っても、エクストラステージの試練は難易度が低めに設定されてるからなー。デュラハンはズメイよりも強いぞ」


 ですよねー。

 世の中はそんなに甘くない。

 

「とりあえず、最初に僕達が先行して戦ってみるよ。ショウコさんと斎藤さんはエネミー鑑定をよろしく。それとローグが出来る人間はなるべく警戒を怠らないようにしてくれ」


 呆気に取られている俺達の気を引き締めるため、≪Mr.ジャスティス≫が自ら先頭に立つ。


 がんばれー。

 あー、そういえば、俺もローグが出来るな。

 警戒しますかね。


 俺達は≪正義の剣≫を先頭に探索を開始した。

 探索と言っても、隅々まで探索するわけではない。

 時間がないので階段のみを探すのだ。


 俺達、後ろにいる者は≪索敵≫や≪罠探し≫で警戒をする。

 ここは地図もなければ、出てくるモンスターも不明なので、用心しなければならない。


「木田さん、モンスターが来たわよ。鑑定によると、敵はダークナイト。弱点は特にない。3体だから頑張って」


 ショウコが誰よりも早く敵を察知し、しかも、鑑定結果まで言う。

 それを聞いた≪正義の剣≫のおっさん達は構えた。


 しばらくすると、俺の≪索敵≫でもモンスターを察知できた。


「なあなあ、お前、なんでわかるん? 俺の索敵には全然、引っかからなかったぞ」


 俺はショウコに聞いてみる。

 どう考えても早すぎるのだ。


「私は特殊なレアスキルを持っているのよ」

「ユリコみたいなやつ?」


 ユリコもレアスキルであろうストーカースキルを持っていた。


「ユリコさんのオートマップとは違うわ。私のは鑑定の上位互換よ。遠くでも敵の情報が読み取れるの………………人間もね」


 ショウコは最後の”人間もね”のところだけ、俺の耳元で小声で言った。


 人間もって……

 ということは、こいつ、俺らのステータスが見えてんだな。

 だから、俺のマジカルテレポートを知っていたんだ。

 怖いわー。

 そりゃ、クーフーリンもあきちゃんもビビるわけだわ。


「お前、何のジョブだよ」

「それは秘密。でも、まあ、いい名前ではないことだけは確かね」


 まあ、カオスって言ってたもんな。

 マジで悪役令嬢だったりして……


『正解』


 シロの念話が聞こえてくる。


 まじかよ……

 そんなジョブがあるん?


『レアスキル≪神眼≫だ。お前の≪魅了≫と同じく魔眼系の能力。これが使えるのは≪悪役令嬢≫か≪独裁者≫だけ』


 なにその怖いジョブ?

 そりゃあ、カオスだわ。


 しかし、ショウコは色んな鑑定スキルを持っていると聞いていたが、正体はレアスキルだったんだな。


「……言っちゃダメよ。女になったあなたを証明したのは私なんだから」


 ショウコは再び、俺の耳元でささやく。


 なるほどー。

 俺が女になった直後に、こいつが訪ねてきたのは俺の正体を証明するためかー。

 ってか、心を読まれたし!!

 怖っ!


『相棒、すまん、間違えたわ。そいつは≪悪役令嬢≫じゃなくて、≪独裁者≫だ』


 やばいじゃん!

 こんな所にラスボスがおったし。

 昔、ケツを触ろうとしたことを怒ってないかな?

 忘れたよね?


 俺はチラッとショウコを見る。

 すると、ショウコはまったく笑ってない目をしながらニコッと笑う。


 覚えとるし!

 ってか、完全に心を読まれとるし!


 俺はもう何も考えないようにした。


 俺は何も知りません。

 ショウコは今まで通り、ご飯をおごってくれる気前のいいクソ金持ちっと。


『クソはどうかと思うけどな』


 こいつ、俺を売って、媚びまでも売りおった!

 ひっでー相棒。


 俺が薄情なシロに呆れていると、ダークナイトと思われる黒い全身鎧のモンスターが3体現れた。

 ダークナイトは剣と盾を持っており、名前の通り、ナイトっぽい。


 ダークナイト達は横並びになり、≪正義の剣≫に襲い掛かった。

 同じような騎士系の≪正義の剣≫はこれを正面から迎え撃つ。


 なんか映画みたいでカッコいいな。


 ダークナイトは41階層に出現するモンスターだけあって強い。

 防御も攻撃もさまになっているし、3体で連携するのも上手い。

 しかし、それは≪正義の剣≫の専売特許である。

 いくら、ダークナイトが強敵でも、6人いる≪正義の剣≫の方が優勢だ。

 

 人数の多さを利用し、盾で抑えたところを他の人間が攻撃する。

 この方法で、1体、また1体と倒し、最後の1体も≪Mr.ジャスティス≫の剣で倒した。

 ≪正義の剣≫の完勝である。


「うん、すばらしいな。実に参考にならん」

「だよな。あれを私達にやれって言われても無理」


 俺とサエコは≪正義の剣≫にブーイングする。


「いや、君達は君達のやり方でやってよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫が至極真っ当なこと言葉を返した。


「サエコ、次はどうする?」

「私らが行く。お前らは見てな」


 サエコはそう言って、仲間を引き連れて、≪正義の剣≫と交代した。

 そして、サエコ(バカ)、クーフーリン(バカ)、あきちゃん(バカ)を前衛とし、ショウコ(金持ち)、セツ(ダジャレヒーラー)、そして、キララ(レベル10)を後衛としている。


 キララ、大丈夫か?


 俺はちょっと心配になったが、まあ、後衛だし、大丈夫かと思った。


 ≪ヴァルキリーズ≫+その他のパーティーは意気揚々と進んでいく。

 正直、さっきの≪正義の剣≫と比べると、非常に不安になる。

 おそらく、ショウコがいるからだとは思うが、こいつら、まったく警戒をしていないからだ。


 俺が不安になって見ていると、ショウコの足が止まった。


「来たわよ。同じダークナイトが3体ね」


 ショウコはそう言うと、前衛のバカ3人は構える。

 そして、俺達の目にもダークナイトの姿が見えたと同時に、クーフーリンとあきちゃんが突っ込んだ。


「おらー!!」

「ぶっ潰してやるー!!」


 こいつら、バーサーカーか?


 クーフーリンは突進し、槍で1体のダークナイトを貫いた。

 そして、あきちゃんはその拳で1体のダークナイトを殴り飛ばすと、倒れたダークナイトにマウントを取り、殴りまくっている。


 早くも2体倒したのだが、ダークナイトは3体いる。

 残ったダークナイトは、槍で攻撃し、隙だらけになっているクーフーリンに斬りかかった。

 クーフーリンはすぐに槍を引き抜くが、ダークナイトの攻撃の方が速かった。


「っつ!」


 ダークナイトの剣はクーフーリンの肩を斬った。

 しかし、クーフーリンも槍で辛うじて、受けたようで、傷は浅い。


「痛ってーな!!」


 クーフーリンは怒鳴りながら、ダークナイトの胴体を蹴り、距離を取った。

 ダークナイトは蹴られたくらいでは、たいしたダメージはなかったようで、再び、クーフーリンに斬りかかる。

 しかし、距離を取ったその間合いは槍に有利な間合いだった。


 クーフーリンはダークナイトを突くが、ダークナイトの剣はクーフーリンには届かない。

 ダークナイトはそのまま煙となって消えていった。


「うん、すばらしいな。お手本のようなダメな戦い方」

「だよね。2人しか戦ってないし」


 俺と≪Mr.ジャスティス≫は≪ヴァルキリーズ≫というか、バカ2人にブーイングする。


「私らは急造パーティーなんだから仕方がないだろ。あの2人が指示に従うとは思えんし」


 サエコが俺と≪Mr.ジャスティス≫に反論した。


 まあ、そうかも。

 クーフーリンとあきちゃんは長らくパーティーを組んでいなかったから、連携が苦手なのだ。


「じゃあ、次は俺らがいくわ」

「気を付けてね。いつでも援護にはいけるようにしておくから」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫の言葉に頷くと、仲間と共に≪ヴァルキリーズ≫+その他と交代する。


「どうするの?」


 シズルが戦い方を聞いてくる。


「出てくるモンスターはダークナイトっぽいから、いつもの感じでいい。俺と瀬能が前に出るからお前らは援護。アカネちゃんは後衛の護衛はいいからすぐにヒールを使えるようにしとけ」

「わっかりました!」


 アカネちゃんがテンション高く敬礼をする。


「よっしゃ、行こうぜ」


 俺達はいつもと同じように、俺、瀬能、シズルを先頭にし、ちーちゃん、アカネちゃん、カナタを後衛にして進んでいく。


「なあ、あのシャンデリアを持って帰ったら高く売れねーかな?」


 俺は上を見上げながら言う。


「無理じゃない? 基本的にダンジョンの物って壊れないし、取れないんじゃないかな?」

「そっかー。しゃーない」


 俺の家に置けないかな?

 いや、邪魔か。


 俺は無駄に豪華な通路を見ながら歩いている。

 もちろん、集中して索敵しているが、敵の反応はない。


 ショウコー、敵、いるー?


「はいはい。来たわよ。ダークナイトが3体。ここの階層はこの組み合わせしか出ないのかしら?」


 俺達はショウコの返答を聞いて構える。


「視認出来たら一斉に魔法を放つぞ」

「りょーかい」

「わかりました!」


 ちーちゃんとカナタは返事をし、詠唱を始める。

 俺は両手でハートマークを作って、待ち構えた。


 俺達が待っていると、先ほどと同様に、ダークナイトが3体現れる。


「いくぞ! ラブラブファイヤー!」


 燃え燃え~。


「ファイヤー!」

「ウインド!」


 俺達は魔法を放ち、先制攻撃をした。


 しかし、敵を一体も倒すことが出来なかった。


「チッ! 行くぞ!」

「おう!」


 俺は瀬能に声をかけ、ハルバードを取り出す。

 俺と瀬能は前に出て、襲い掛かってくるダークナイトを迎え撃つことにした。


 俺は1体のダークナイトに向けて、ハルバードを振り上げる。

 その俺に他のダークナイトが攻撃しようと斬りかかってきたが、瀬能が盾でこれを抑えた。


 俺はその間にハルバードを振り下ろし、ダークナイトを叩きつぶす。

 ダークナイトの鎧はボロボロになり、そのまま煙となって消えた。

 どうやら鎧の中身はないようだ。


 俺は他の2体を見ると、瀬能が上手く抑えてはいるものの、41階層のモンスターはさすがに荷が重いようで、苦戦している。


「瀬能、一回下がれ!」


 俺の指示を受け、瀬能が下がろうとするが、ダークナイトの1体が瀬能の後ろに回り、退路を断とうとする。


 チッ! 上手いな。


 俺は敵の動きに感心するが、ピンチだ。

 俺がヤバいなーと思っていると、瀬能の後ろに回ろうとしているダークナイトの顔に黒い刃が当たった。

 シズルのシャドウブレイカーである。


 シズルのシャドウブレイカーはたいしたダメージは与えられなかったが、ダークナイトの一瞬の隙をつき、瀬能が下がった。

 それと同時に、火魔法と風魔法が飛んでくる。

 2体のダークナイトはまたもや魔法をまともに食らったが、まだ生きていた。


 しぶといなー。


 俺は魔法を食らい、ひるんでいる1体のダークナイトに向かってハルバードを振り上げる。

 それと同時にアカネちゃんが前に出てきて、もう1体のダークナイトに槍を突いた。


 俺はそのままハルバードを叩きつけると、アカネちゃんの方を見る。


 アカネちゃんがダークナイトに顔面に槍を突き刺しているため、ダークナイトは完全に死んでいると思った。

 しかし、ダークナイトは消えておらず、剣を持っている腕が動く。


 まだ、動けんのかよ!


「チッ!」


 俺はアカネちゃんが危ないと思い、キューティーヘアーを使い、髪の毛を伸ばす。

 そして、アカネちゃんに斬りかかろうとしている腕を抑えた。


「うわっ、キモ!」


 ひっでー。

 助けてやったのに。


「いいからとどめを刺せ!」

「あ、ごめんなさい」


 アカネちゃんは俺に謝りながら、槍を引き抜き、胴体に突き刺す。

 今度こそ、ダークナイトは煙となって消えた。


 これですべてのダークナイトを倒すことが出来た。


 実に辛勝である。


「疲れましたー」

「疲れてるところを悪いが、瀬能にヒールをかけてやれ」

「あ、そうですね」


 アカネちゃんはすぐに下がっている瀬能の所に向かった。


 うーん、敵が強いね。

 まあ、俺達のレベルを考えるとしゃーないが。


「お疲れ。上手くやったじゃないか」


 ≪Mr.ジャスティス≫が近づいてきて、ねぎらってくれる。


「こんなもんだろうなー」

「君達は本当に連携が上手いし、バランスがいいねー。羨ましいよ」

「すごかろう。あげないぞ」

「勧誘したいし、柊さんを返してほしいけどね…………それより、その髪をどうにかしてくれない? 怖いんだけど」


 あ、伸ばしたままだった。


 俺はすぐに妖怪金髪女から魔女っ娘ルミナちゃんに戻す。


「お前の魔法って、本当に変だな」


 サエコもやってきて、バカにしてくる。


「うっせー。触手プレイにすんぞ!」

 

 ≪姫騎士≫とかいうエロ本御用達のジョブを持つお前にはお似合いだ。


「お前、絶対にカオスだわ」


 やかましいわ!





攻略のヒント


 世の中、変な人が多いなー。


『エクスプローラ名言集 三島セツ』より

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