第151話 わっるいヤツにはおしおきだゾ☆彡


 今年初ダンジョンで26階層に行き、ゴーレムを相手に戦ってみた。

 ゴーレムは強くはなかったが、倒すの時間がかかりすぎることがネックとなった。

 俺達はその原因の一つが自分達のレベルの低さだと考え、今後はゴーレムしか出ない26階層から29階層でレベル上げをすることに決めた。


 今後のダンジョン攻略の方針を決めた俺達はその場で解散となった。


 時刻が夜の8時を過ぎており、すでに暗くなっていたため、シズルを学園の寮まで送ろうと思ったのだが、同じ寮生のちーちゃんとカナタがいるから大丈夫と断られた。

 まあ、ちーちゃんと男のカナタがいれば、問題はないだろう。

 カナタは若干、頼りなさそうに見えるが、ちゃんとしているし、そもそも、ちーちゃんを狙う変質者はいない。


 別にちーちゃんに魅力がないという話ではない。

 シズルやキララのような狙われやすい人間もいれば、ちーちゃんみたいに狙われにくい人間もいるということだ。

 だって、ちーちゃんは明らかに反撃してきそうだし、恰好がパンク過ぎて、変質者も物怖じするだろう。


 これは女になると、よくわかる。

 俺はナンパや変質者によく遭うが、派手な格好をしている時は、まず来ない。

 地味だったり、清楚な格好をしている時やシズルと一緒にいる時によく遭う。


 特に夜遅く、人通りの少ない道を歩いていると、よく遭うのだ。


 そう、今みたいにね……


『ん? またか?』


 俺の独白を聞いていたであろうシロが念話で聞いてくる。


『後ろから2人組が来てるね。駅からずっとだ』

 

 俺はシズルに断られたので、アカネちゃんを駅まで送っていった。

 その駅からずっとつけてきているのだ。

 さすがに、駅からずっとつけられれば、わかる。

 俺には≪索敵≫があるのだ。


『ストーカー? どうする?』

『2人組でストーカーはねーよ。前みたいなナンパか、暴行か……』


 まあ、こんな夜の人通りの少ない道でナンパはないだろうから、暴行かな。


『前に本部長が言ってたやつは? どこぞの組織がお前を狙ってるかもってやつ』


 以前、本部長やマイちんが注意するように言っていたやつのことだろう。

 女になった俺を調べたいとか、そういうの。


『キモ。どっちみち、用があるなら、こんなタイミングはない。誰がどう見たって、ヤバいわ。始末するか……』

『まあ、待て、相棒。お前、停学を食らったばっかだろ』

『あー、そうだなー。でも、停学と貞操は比べられねーよ』


 ありえないね。


『どっかに誘い込んで、先に手を出させろ。その後、ボコれ。正当防衛だ』

『そうするか……』


 俺はシロの言うことも、もっともだと思い、家に向かうルートから逸れ、近くにあるほぼ潰れかけている小さい神社に向かった。

 相手が誰だが、知らんが、こんな夜に廃神社には用はない。

 もし、ついてきたら変質者で確定だ。


 俺はそのまま歩いて向かいながら、索敵で2人組を探る。


『来てるか?』

『来てるねー。動くなら神社かな?』


 あの神社の近くには民家もないし、人など来ない。

 この時間ならなおさらだ。


 俺は神社に着くと、夜の神社の雰囲気にちょっとビビりながら、奥の賽銭箱まで行き、小銭を入れる。

 そして、手を合わせた。


『後ろにいる2人が不幸になりますように』

『この神社の雰囲気だと効きそうだなー』


 この神社は滅多に人は来ないが、有名だ。

 ……心霊スポットとして。 

 

 俺はお祈りを済ませ終え、帰ろうと思い、後ろを振り向くと、そこには男2人が俺の道を塞ぐように立っていた。


 まあ、索敵で探ってたから知ってるけど。


「神条ルミナだな?」

「我々と、共に、来てもらおう」


 男達は背が高く、ガタイのいい体つきをしている。

 そして、黒い服であり、マスクとサングラスで顔を隠している。


 いかにもだな。

 っていうか、サングラスで見えてんの?

 ここ、めっちゃ暗いんだけど……


「違いまーす。いやでーす」


 当たり前だが、誘いを俺は断った。


「いいから、来る」


 男2人のうち、1人は日本語が変だ。

 

 外国人かな?

 きっと、俺を捕まえて、海外の変態に売る気だ。

 昔、エロ本で見たぞ!


「行くわけね―じゃん。バカかな?」


 俺は軽蔑の目で見ながら、あざけ笑う。


 すると、日本語がおかしい男は何も言わずに、近づいてくる。


 怒ったかな?

 きっと、図星をつかれたんだろう。


「やめてー」


 俺は棒読みで悲鳴をあげる。

 すると、男はその場で止まってしまった。


「いや、止まるのかよ…………変態のくせに、ここまできて、躊躇すんなや」


 マジでバカかな?


 男は俺の言葉を聞き、再度、俺の方に歩いてきた。

 そして、俺の左肩を掴んだ。


「大人しく、来る」


 はい、痴漢。

 俺の国宝級の肩に触ったー。

 罪状は私刑でーす。


「死ね」


 俺は男の肩を左手で払いながら、右足を少し浮かせる。

 そして、そのまま、男の顔面目掛けてハイキックを放った。


「――――ッ!」


 男はとっさのバックステップで俺の蹴りを躱した。


 この距離で俺の蹴りを躱した?

 近すぎて、見えてないだろうに。

 ましてや、こんなに暗いうえに、サングラス。

 どうやって、気付いた?


 俺は右足を高く上げたまま、悩む。


『気を付けな。只者じゃねーぞ』


 だろうね。

 手加減したとはいえ、俺の蹴りを躱せるヤツが普通の人間のはずがない。


「お前、慎め。パンツ、見えてる」


 男は足を上げたままの俺に言う。

 今日はスカートだから、足を上げれば、見えるのだ。


「……マジで変態だな」

「お前、そのパンツはよくない」


 俺は頭に血が上るのがわかった。


 そして、俺は何も言わずに、男にダッシュで近づくと、男は焦ったように腕を振るった。

 俺はそれをしゃがんで躱しながら男の顎を掌底で打ち抜く。


「――グッ!」


 男がくぐもった声をあげた。


 俺はさらに、そのままの体勢から後ろ回し蹴りでクズ男の腹を蹴りこんだ。

 男は膝をつき、そのまま、前のめりに倒れた。

 

 俺はさらに男の頭を踏みつぶそうとした。


「何をする!?」


 すると、もう一人の男が俺に近づき、止めようしてくる。

 それを聞いた俺は一旦、止めたが、無視して、踏みつぶそうとした。


 それを見た男は慌てて、こちらに駆け込み、俺の足を止めようとする。

 俺はそれを見て、足を水平に傾けた。


 男は俺の足の動きを見て、察したのか、身構えようとした。

 だが、男が腕で自分の顔をかばうよりも早く、俺の足が男の顔面にめり込んだ。


「ブハッ!!」


 男は思わず、のけ反る。

 俺はすでに倒れている男を跨ぎながら踏み込み、のけ反って、隙だらけの男の顎に拳を叩き込んだ。


 顎を打ち抜かれた男はその場で崩れ落ちた。


「クズ共が! 死ね! ペッ!」


 俺は悪態をついて、唾を吐いた。


「こいつら、どうする? また、川に捨てるか?」


 シロが服の中から出てきて、聞いてくる。


「めんどい」


 俺はそう言って、男の懐をまさぐる。

 そして、戦利品を入手した。


「チッ! 3千円しか持ってねー」

「盗賊だなー。そういえば、お前の選択可能ジョブに≪盗賊≫と≪強盗≫があったな」

「迷惑料とパンツを見られたことによる精神的苦痛の慰謝料だよ」


 俺はもう一人の方の財布も見たが、こっちも5千円しか持ってなかった。


「しけてんなー。不景気か?――ん?」


 俺は他にもなにかないかと、男達の体をまさぐっていると、両者のパスポートと英語(多分)で書かれてあるカードを見つけた。


「シロ、英語読める?」

「読めない」


 俺も読めない。


「何、このカード?」


 カードは手のひらサイズであり、おそらく、身分証明的なカードであることはわかる。


「さあ? 身分証明書じゃないか?」

「ふーん、まあいい。迷惑料と慰謝料が足りないから没収だな」


 俺は2人の謎のカードとパスポートを奪った。


「そんなもん、いるのか?」

「俺はいらない。でも、こいつらは困る。ただそれだけ」


 ただの嫌がらせ。


「性悪だなー。下手すると、お前が捕まるぜ」

「俺は襲ってきたこいつらを撃退しただけだ」

「いや、盗んでんじゃん」

「俺は知らない。こいつらも意識がない。きっと、寝ている間に、誰かに奪われたか、落としたんだろうよ」


 証拠などない。


「まあ、好きにしろよ。周りに誰かいるか?」

「目撃者ゼロ。よし、帰ろう」

「俺っち、腹減ったわー」


 シロが不満そうに言ったため、時計を見ると、すでに9時を過ぎていた。

 俺も時間を認識したことで、お腹が空いてきたように感じた。


「コンビニに寄っていくか……」


 今日はもう疲れたし、食事を作る気が起きない。

 スーパーも開いてないだろう。


「コンビニかー」


 シロが不満を言う。


「好きなものを好きなだけ買っていいぞ。ただし、8千円までな」


 コンビニで8千円なら余るくらいに買えるだろう。

 シロの場合は余らないが……


「マジで? やったぜ…………いや、その8千円って」

「ケチのつく金はさっさと使うもんだ」


 証拠隠滅とも言う。


「手慣れてんなー」


 俺はプロフェッショナルだから。


「俺はダンジョン帰りに神社にお参りに来た。すると、レイプ魔か誘拐犯らしき男達に襲われた。俺は必死の抵抗で撃退。しかし、他に仲間がいるかもしれないと思い、逃げた。あとは何も知らない。いいな?」

「はいはい。俺っちにも何か聞かれたら、そう答えればいいのね」

「そうだ。ついでに、こいつらは俺のパンツを覗いていたことも言え」

「はいはい」

「よし! コンビニに行こう」


 俺はシロと事実確認という名の口裏合わせをすると、神社を出て、人通りの多い道に戻った。

 そして、コンビニに寄ると、シロの要望通りの大量の食糧と大人な味を楽しめるジュースをカゴに入れた。


「えーっと、身分証明書を――」

「あん!?」

「――こちらのボタンを押してください…………」


 俺は会計時に気の弱そうな定員を黙らせ、年齢確認ボタンを押す。

 そして、袋いっぱいな商品を受け取った。


 俺は商品をアイテムボックスにしまい、店を出た。

 そして、コンビニに備え付けられているゴミ箱にパスポートと身分証明書らしきカードを放り込んだ。


『捨てるん?』


 服の中に隠れているシロが念話で聞いてくる。


『持っててもしゃーないし、証拠はさっさと捨てる。ここなら明日には収集車だ』

『お前、絶対に初めてじゃないだろ』

『パスポートは初めてだ』

『あー……いつもは財布なのね』


 この手口は≪ファイターズ≫の先輩方に教わった。

 あいつら、マジでクズだな。


『どうでもいいから、さっさと帰ろう。俺は明日も学校なんだよ』

『だなー。いやー、今日はご馳走だ!』


 シロは嬉しそうだ。

 こいつは食うことしか頭にないのかな?





攻略のヒント


宛先  お肉魔人

差出人 紳士代表

件名  例の調査について


対象者に接触。

結果は失敗。


なお、金とパスポートとDカードを奪われた。

すぐに援助を頼む。


あの金髪、マジでクズだ。





宛先  紳士代表

差出人 お肉魔人

件名  Re:例の調査について


不用意に接触するなと言ったはずだが?

次はこちらで動く。


ひとまず、仮の身分証明書を送るが、しばらく、大人しくしていろ。

金はすまんが、無理。

俺も持ってない。

こっちの焼肉が美味いもんで。


対象者は噂通りのようだな。

ご愁傷様。


『とあるメール』より

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