第150話 ゴーレム


 俺達はちーちゃんのゴーレム講義を聞いた後、26階層へやってきた。

 ちーちゃんの話を聞くと、ゴーレムは手ごわそうだが、25階層の虫地獄に比べれば、精神的には楽だ。

 もう、ゴキブリを踏み潰したり、ムカデに絡みつかれたくはない。


 26階層はこれまでとは変わらず、薄気味悪い洞窟である。

 なのに、そこまで怖くないのは出てくるモンスターが虫じゃないからだろう。


「とりあえず、探索するか。ゴーレムは遅いらしいし、奇襲はなさそうだなー」


 俺は25階層までとは違い、晴れやかな気分でダンジョンの通路を歩く。

 しかし、全然、索敵にモンスターが引っかからない。

 これまでなら、わんさか虫が出てきたのに、一向にゴーレムが出る気配がない。


「いねーなー」

「いないねー」


 俺がつぶやくと、同じく、隣で敵を探しているシズルが相槌を打つ。


「まさか、石だから探知できないとか言わねーよな」


 俺の索敵はモンスターと人間の気配を探知するスキルなため、無機物は感知できない。


「いや、ゴーレムはモンスターだよ。ゴーレムは数が少ないんだ。と言うよりも、これまでの虫が多すぎ」

「出ないは出ないで、レベル上げがなー」


 マジカルテレポートの制限的に、さっさと30階層のボスを倒したいが、その前にこいつらのレベル上げもしたい。

 一番レベルが低いカナタは15もない。

 一番レベルが高い瀬能でも19だ。


 いくら俺がいるとはいえ、適正レベルを考えると、さすがにそろそろマズい。

 というか、俺もレベルが30しかないから、そろそろ一撃突破が厳しくなってくるころだろう。


 本来なら、24階層、25階層でレベル上げが一番だが、あそこは嫌だ。

 そうなると、26階層から29階層のゴーレムでレベル上げしかない。


「来たよ。まあ、多分、ゴーレム。1体ね」


 俺がレベル上げについて考えていると、シズルの≪諜報≫がモンスターを感知したようだ。


「そらそうだ。よし、俺がやってみる」


 どんな相手かわからない場合はまず俺が出るべきだろう。

 俺が一番強いし、リーダーだ。

 こういうところでポイントを稼がなければならない。


 他では稼げないどころか、マイナス評価だもん。


 俺は意気揚々と前に出ると、素手のまま構えた。

 さすがに剣は刃こぼれしそうなので、使わない。


 俺が構えて、しばらくすると、奥から2m以上はある大きな石の塊が現れた。

 体のサイズ的にはオークに近いが、やはり体が石なため、オークより大きく見える気がする。

 武器を持ってないところを見ると、通常のゴーレムだろう。


 ゴーレムはドシドシと俺に向かって歩いてきている。

 しかし、マジで遅い。


 まあ、あの巨体で石なんだからしゃーない。

 もし、これが速かったら脅威どころではない。


 俺は待つのもあれなので、こちらから仕掛けることにした。


 とりあえず、必殺の跳び蹴りを放つためにジャンプする。

 ゴーレムはまったく反応せずにおり、俺はそのまま顔に蹴りをぶち込んだ。


 普通のモンスターであれば、俺の跳び蹴りを受ければ、飛んでいくか、首の骨が折れるだろう。

 しかし、ゴーレムはドシンと後ろに倒れるだけだった。


「とんでもない重量だな」


 俺がそう思うくらいには足に感触が残っている。


 この堅さはシズルの斬撃ではダメージを与えるのは無理だな。

 瀬能でも無理かもしれん。


 ゴーレムは遅いため、シズルがダメージを食らうことはない。

 しかし、ダメージも与えられそうにもなかった。


 仰向けに倒れていたゴーレムはゆっくり上半身を起こしだす。


「……………………えい」


 俺はゆっくり上半身を起こしたゴーレムの頭を踏み、再び、地面に叩きつける。

 ゴーレムにはダメージはないだろうが、また仰向けになった。

 そして、再び、ゆっくりと上半身を起こし始める。


「……………………えーい」


 俺はまたもや、ゴーレムの頭を踏み、再び、地面に叩きつけた。

 そして、ゴーレムが仰向けになったところで、俺はハルバードを取り出す。


 俺は起き上がろうとする、ゴーレムにハルバードを叩き込んだ。

 ゴーレムは小石が飛び散り、砕け、死んだ。


「うーん、何とも言えんなー」


 俺は首を傾げながら仲間のところに戻る。


「余裕そうに見えたけど?」


 シズルが俺の独り言に反応した。


「ハルバードを使うくらいには堅い。しかし、遅すぎだし、動きがロボットみたいだ」


 多分、倒れ、起き上がり、倒れのコンボは永遠にやっていただろう。

 学習能力がない。


「そんな感じだったねー。私じゃ無理そう。忍法かなー」

「だな。お前は後衛に下がれ。瀬能、ゴーレムは力はあると思う。お前は抑えるというよりも、引き付ける感じでいってくれ」

「了解。確かに、あの様子では、諦めてターゲットを変える感じじゃないな」

「じゃあ、後衛は魔法な。今までと変わらん」


 がんば!


「ん。適当にやるよ。あんたは近づいてきたゴーレムを自慢のハルバードでよろしく」


 まあ、そうなるな。


「アカネちゃんは俺と来い」

「え!? なんで!?」


 俺がアカネちゃんに前衛に出るように言うと、あからさまに嫌な顔をした。


「ゴーレム相手では、お前の後衛での役目はない。そもそも遅すぎて、ダメージを受けらんし、後衛に到達することもない」

「あー……まあ、そうですねー」

「危ないことにはならないから、前に出て、ゴーレムを倒せ」

「いけます? 槍ですよ?………………壊れないかな?」


 アカネちゃんは槍の穂先を見る。


「関節か頭を狙え。コツを掴んだら、すぐに倒せる。何のために、その槍をくれてやったと思ってんだよ。もし、壊れたら新しいのをやるから前に出ろ」


 めっちゃ高いんだぞ、それ。

 ゴーレムごときに壊されるわけがない。


「わかりましたー。やってみまーす」

「じゃあ、フォーメーションが決まったところで探索を続けるとするか」


 俺達はシズルとアカネちゃんの位置を入れ替え、再び、歩き出した。

 すなわち、俺の隣がシズルではなく、アカネちゃんに変わったのだ。


 何か嫌だな。


 俺は隣に不満を持ったが、言い出したのは俺だったと思い、切り替えて、探索をする。

 シズルが後ろに下がったため、索敵は主に俺がやっているのだが、ゴーレムが遅いので、奇襲の心配はない。


 そのまま探索を続けていると、何体かのゴーレムと戦闘になった。


 変更したフォーメーションによる戦闘は上手くいっている。

 瀬能が引き付け、後衛が魔法を放つ、そして、アカネちゃんや俺が攻撃をするといった感じで、ゴーレムをノーダメージで確実に倒していっている。


 だが、いかんせん、時間がかかりすぎていた。


 ゴーレムは堅く、魔法が効きづらい。

 アカネちゃんが槍で突いても、ゴーレムはちょっとやそっとのダメージはモノともしない。

 例え、手が取れようとも、普通に歩くし、攻撃してくる。

 本当にモンスターなのか、疑問だ。


 そして、さらに厄介なのが、ゴーレムナイトである。

 ゴーレムナイトは剣と盾を持っていた。

 剣は別に脅威ではない。

 遅いから、まず当たらないのだ。


 問題は盾である。

 これが非常に邪魔なのだ。

 まず、魔法を盾で塞ぐ。

 そして、アカネちゃんの突きや俺の攻撃を上手く受けていた。


 おかげで、一体を倒すのに非常に時間と労力を使っている。


「センパイ……きついです。槍より先に私が参りました」


 アカネちゃんが弱音を吐く。

 でも、しゃーない。

 体力が自慢な俺でも疲れているレベルであり、瀬能に至っては肩で息をしている。


「前衛全滅。お前らは?」


 俺は後ろを振り向き、後衛に確認する。


「後ろはマナポーションがあるからまだいけるけど、トイレに行きたい」


 ちーちゃんが後衛を代表して言う。

 多分、シズルとカナタもだろう。


「帰るか」

「そうしてほしいね」


 まあ、前衛がダメな時点でわかっていたことだが、これ以上は無理と判断し、帰還することにした。


 俺達は地図にある帰還の魔方陣まで行き、協会に帰還した。

 協会に帰還すると、後衛3人はトイレに行き、その間に、残りの俺達はマイちんに成果を清算してもらった。

 その間に、カナタは戻ってきたが、ちーちゃんとシズルはまだだった。

 

 清算を終え、ちょっと待っていると、ちーちゃんとシズルが戻ってきたので、清算結果をちーちゃんに渡す。


「今思うと、これもあたし一人がやってる」

「お前は参謀兼会計な。よろしく」

「まあ、いいけど…………えーっと…………」


 さすがは電卓女。

 相変わらず、暗算だぜ。

 こいつに目を付けた俺の慧眼に震えちゃうね。


「はい、こんな感じ」


 ちーちゃんが清算書に収支結果を書いてくれたので、俺達はそれを見る。


「悪くはないな」

「少なくとも、虫モンスターよりもいいですね」

「その分、疲れましたけどねー。私は前衛してましたし」

「精神的に疲れるよりはいいでしょ。僕達後衛でも、虫は嫌だし」


 俺も成果的には悪くないと思う。

 ゴーレムの魔石や素材は高く売れるみたいだ。

 だが、やはり時間がかかるのがネックだ。


「時短のアイデアはないか?」


 俺は皆にアイデアを募る。


「センパイが爆弾を投げる。センパイが特攻する」

「まあ、それが一番早いけど、パワーレベリングになるよ。ただでさえ、24階層をルミナちゃんに任せてるわけだし、これ以上はあたし達の伸びが悪くなる」


 アカネちゃんの意見をちーちゃんが却下した。


 俺も嫌。

 めんどいわ。


「カラーゴーレムは? あれなら魔法が有効でしたよね?」


 続いて、シズルが意見を言い、ちーちゃんに聞く。

 そういえば、今日の探索ではカラーゴーレムが出なかった。


「カラーゴーレムは28階層からだね。そこまで行って、レベル上げが一番かな」


 ちーちゃんがシズルの質問に答え、自分の意見を言いつつ、賛同した。


「いいんじゃない? 単純にボク達のレベルが低いのが問題だし」

「ですね。ってか、僕はレベル14なんですけど」


 瀬能とカナタはちーちゃんやシズルの意見に賛成のようだ。


 ふむふむ。

 やはり時短よりも地道にレベル上げがいいのね。


「じゃあ、28階層までは今のペースで行って、28階層からレベル上げするか。それで、良いところまでレベルが上がったら、30階層に行く。それでいいか?」


 最後に俺がリーダーらしくまとめる。


「いいと思う」

「それでいいよ」

「虫は嫌だしねー」

「前衛かー。まあいっか」

「頑張ります!」


 これで、今後の方針が決まった。

 まあ、簡単に言えば、レベル上げだ。

 どう考えても、俺達はダンジョンの階層と比べて、レベルが低い。


 これは虫エリアを嫌がったことと、俺のマジカルテレポートによるショートカットの弊害だろう。


 だが、こればかりは仕方がない。

 嫌なものは嫌だし、マジカルテレポートはチートそのものだ。

 これくらいならば、デメリットでもなんでもない。


 そもそも、学生が30階層に行こうとしてること自体がおかしいのだから。


 明日からは地味なレベル上げを頑張ろう。





攻略のヒント


 レベルが上がると、能力の向上と共に、スキルポイントを得られる。

 能力の向上は数値ではわからないため、皆、スキルポイントに一喜一憂している。


 手っ取り早くレベル上げを行う方法はパワーレベリングだが、戦闘やダンジョン探索の貢献度が低いと、得られるスキルポイントが低くなる。

 これは皆が知っていることだが、私はパワーレベリングで下がるのはスキルポイントだけでなく、能力の向上もではないかと思っている。

 確たる証拠はないが、各エクスプローラを見ていると、そんな傾向にあるように思えるのだ。


 皆もそのことを頭に入れておいた方がいいだろう。


『とあるエクスプローラのブログ』より

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