第142話 我が栄光のクリスマス


 俺は高橋先輩を救うため、強敵である立花の残党と戦った。

 その被害は絶大なものだった。


 あまりのショックに気を失った俺だったが、すぐに目が覚めた。

 だが、目が覚めると、姿は女に戻っていた。


 そして、すぐに到着した自衛隊に悪党2名を引き渡し、協会に帰還した。

 協会に戻ると、本部長に疲れたとだけ、言い残し、とぼとぼと家に帰った。


 家に帰った俺はやる予定だった掃除をし、そのまま寝た。


 そして、翌日、流れ作業のように予定したことを進める。


 実家に行き、お姉ちゃんにシロを渡す。

 そして、ケーキを取りに行くと、シズルを駅まで迎えにいった。


 俺はここで我に返った。


 このまま幽霊のような感じはマズい。

 確かに、ショックではあるが、シズルと過ごすクリスマスであることには間違いないし、当初の計画に戻ったと考えればいいのだ。


 こんなローテンションだと、シズルが傷つく!


 俺は持ち前の切り替えの早さを利用し、テンションを上げた。


 そして、しばらく待ってると、シズルがやってきた。


 シズルは俺を見つけると、満面な笑顔で手をあげる。


 そうだ。

 今日はあの笑顔を守ることを重視しよう。

 昨日だって、あんなゴミ共をのさばらしておくわけにはいかなかったのだ。

 あのゴミ共の魔の手からシズルを守ったと思おう。


「よう」

「こんにちは、ルミナ君。マフラー付けてくれてるんだね」


 俺は誕生日にもらったマフラーを巻いている。

 実は12日にもらってから今まで一度も巻かなかった。

 今日が初めてである。


 これも計画の一つだった。


「暖かいわー。あんがとな」

「うん」

「とはいえ、外は寒いし、行こうか」

「だねー」


 俺がシズルに手を伸ばすと、シズルはその手を握ってくれた。

 そして、そのまま歩いて、俺の家に向かう。


 ほら、絶対にいけるじゃん。

 いや、いかん、いかん。

 忘れよう。


 俺は心の中の煩悩を振り払った。


 他愛のない話をしながら歩いていると、家に着いた。


「お邪魔しまーす」

「どうぞー」


 シズルを家に招くと、シズルは着ていたコートを脱いだ。


 シズルがコートを脱ぐ時に、とある部分が強調されて見えた。


 見た?

 あれを今日、触りまくる予定だったんだぜ?

 いや、いかん、いかん。

 忘れよう。


 俺は再度、煩悩を振り払った。


「ところで、シロは?」


 俺が座ったシズルに温かい紅茶を出すと、シズルは紅茶を飲みながら聞いてくる。


「あいつは実家。実家でアカネちゃんとご馳走を食ってる」

「ふーん」


 これで暗に二人っきりだよと伝える予定だった。


「ルミナ君、昨日のあれは何だったの? 至急とかなんとか」

「あー、あれね…………言っていいのかな?」


 あんなに隠してたし、言ったらマズいかもしれん。

 しまったな。

 どこまでしゃべっていいか、本部長に確認しとけばよかった。


「うーん、悪いけど、しゃべっていいのかがわからん。また、話すわ。とりあえずは解決したし、問題はないな」


 トランスリングを使ったという大問題があるけどね。


「そっかー。じゃあ、また今度で」


 その後、シズルと色んなことを話した。

 そして、ご飯も食べたし、サエコとショウコにもらったジュースを飲みながらケーキも食べた。

 なお、ジュースはやばいくらいに美味しかった。


 その間も話をしていたのだが、距離は完全にゼロだった。

 というか、隣同士で座っているのだが、肩は完全に引っ付いている。

 もはや、仮ではなく、恋人以外の何ものでもない。


「このジュース美味しかったねー」

「だなー。どこに売ってんだ、これ?」


 金持ちセレクションはわからんわ。


「ねえ、ルミナ君」

「んー?」

「微妙に元気がないのはなんで?」


 あれ?

 テンション上げてんだけど。


「そうか?」

「なんとなくだけどね」

「うーん、昨日、ちょっとねー」


 トランスリングがねー。


「そう? 大丈夫?」

「全然、大丈夫」


 シズルは俺の言葉を聞いて黙っていたが、ふいに俺の頭を掴むと、自分の方に引いた。

 すると、俺の頭はシズルの膝(というか、太もも)に乗った。


 俺は何?と思いながらシズルを見上げる。


 シズルを見上げ、巨乳ってすごいなーと思ったが、それ以上にシズルの目が気になった。

 シズルは何も言わずに、ジーっと俺を見ている。


 怒っている感じはない。

 むしろ、逆。


 俺も何も言わずにジーっとシズルの目を見ていたが、手を伸ばし、シズルの頬を触った。

 シズルは嫌そうな顔をしない。

 そして、俺はシズルの髪を触り、手櫛で髪をすいた。

 俺の手にはサラサラでしっとりなシズルの黒髪の感触が残る。


 俺は再び、シズルの頬に手を置く。

 すると、シズルは頬を触っている俺の手を握った。

 拒否のための握りではない。

 それはシズルの目を見ればわかる。


 そのまま、見つめあっていると、不意に俺の口が開いた。


「昨日、ダンジョンで高橋先輩が暴漢に襲われそうになった」


 言っちゃダメなような気がするが、そんなもん知るか。


「うん」

「それを救出に行ったんだが、ゴミ共が強かった」

「うん」

「勝つためにトランスリングを使っちゃった」

「それで落ち込んでるの?」

「うん」

「そんなことだろうと思った」


 わかるのかな?


「わかる?」

「まあ、ルミナ君がその気なのは分かってたし」


 多少、匂わせはしたが、なるべく隠してたんだけど。


「ちなみに、どの辺?」

「色々とあるけどさ……ルミナ君、ベッドをきれいにしすぎ。いつも掛け布団なんか放り投げてるくせに、今日だけは異様にきれい」


 俺はそう言われて、ベッドに目線を移す。


 確かに、きれいだ。

 ホテルみたい。

 気合を入れすぎたな。


「花を散らそうかと思ったんだけど」

「絶対にやめて」


 だよね。

 俺もそれはないと思ったもん。


「そんなにしたい? この前もトランスリングを握りしめてたけど」


 誕生日のことだな。

 まあ、誤魔化せないのはわかってた。


「したいねー。お前と初めて会った時もしたいと思ったが、今はそんなクズい欲望じゃない。今はお前が欲しい」

「クズいねー。あの時、そんなことを思ってたんだ」


 シズルは笑いながら俺の頭をなでる。


「まあ、男の子だし」

「ふふ。する?」


 シズルは俺の目を見つめたまま聞いてくる。


「しない。女同士は嫌」

「まあ、私もそれは嫌かなー」

「だろうな」


 普通は嫌だ。

 ユリコが異常なだけ。


「ルミナ君、焦んないでよ。私達には時間があるの。焦らず、ゆっくりと。ルミナ君がダンジョンで言ってることだよ」


 まあ、それはね。

 ダンジョン攻略は命がけだもん。


「俺、焦ってるかなー?」

「ねえ、ルミナ君。私達、まだ付き合ってないよね?」

「仮だねー」


 付き合うのは男に戻ってから。

 俺自身がそう言った。


「うん。だけどね、私はそう思ってない。もう付き合ってると思ってる」

「うん」

「こうして、手を繋ぐのもいい。キスだってできる。それ以上だってね。この先をずっと歩んでいきたいとすら思っている」


 さすがは重い女。

 覚悟がすごいわ。


「うん」

「だから、焦らないで。彼氏の焦りって、彼女には怖いんだよ?」

「そんなもんか?」

「別にルミナ君が他の人の所に行くとか、浮気をするとかの話じゃない。単純に不安になる」


 よーわからん。


「自分がルミナ君に何を与えられるんだろうって不安になる。多分、この気持ちはルミナ君にはわからない。ルミナ君は自分が絶対だから」


 まあ、確かに、俺はシズルがどこかに行くとは思ってないし、どこかに行くのも許さない。


「なんとなく、わかった」

「私もね、今日、するんだーって、思ってた。今日は家に帰るつもりもなかった」

「泊まっていいよー」

「そうする…………しないけどね」


 というか、できないね。


「一緒にいられるだけでも幸せかー」


 そんなもんかもしれん。


「私はすごく幸せだよ」


 シズルはそう言って、俺の頭を抱きしめる。


 柔らかいなー。


「……ルミナ君、好きだよ」


 柔らかいなー。


「……俺もお前が好き」


 柔らかいなー。


 こいつ、すげーわ。



攻略のヒント


 ダブルベッドを買って良かった。

 でも、よく考えたらシングルの方が良かったんじゃあ…………

 まあ、いっか!


『神条ルミナの日記』より

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