第7章

第126話 あきちゃんとキララ


 エクスプローラの第2世代をご存知だろうか?


 現在、エクスプローラは3世代に分けられている。

 最初期にエクスプローラとなった第1世代。

 現在のダンジョン学園卒業者を中心とした第3世代。


 そして、その間にいるのが第2世代だ。


 この第2世代はエクスプローラの人数が一番多く、優秀な者も多い。

 引退する者が多くなってきている第1世代に代わり、次のエクスプローラ業界を支える次世代のヒーローと呼んでもおかしくない。


 ただし、そんな第2世代には、エクスプローラ業界に影を落とす者も多くいる。

 

 あえて、名前は出さないが、第2世代で有名なエクスプローラは類を見ず、自己中心的なロクでなしである。

 某女性エクスプローラクランの2名は、まだ女性エクスプローラの活躍に貢献するなど、頑張っている方であるが、その他の有名どころは、直接的な表現は避けるが、即刻、エクスプローラを辞めるべきであると思う。


 これ以上、彼ら、彼女らを野放しにしておくと、エクスプローラ業界、ひいては、日本にとって、不利益しかないだろう。



「――ふざけんな!」

「なにこれ? 死ねや」

「何を言ってんだよ。事実じゃねーか」


 俺はとある喫茶店で憤慨している。


 今日、仲間と共に、ダンジョンに行ったのだが、約束があったため、探索を早めに切り上げた。

 そして、受付で清算をし、帰ろうかと思ったら、本部長が珍しく、協会のロビーにいた。


 俺は珍しいなと思ったが、人と会う約束があった為、本部長をスルーしようとした。

 しかし、本部長が俺を引き止め、何も言わずに、雑誌をくれたのだ。


 それは『週刊エクスプローラ』と呼ばれる週刊誌で、ダンジョンやエクスプローラのネタが満載な雑誌であり、エクスプローラだけでなく、一般人にも人気である。


 俺は本部長の意図がよくわからなかったが、貰えるものは貰っておこうと思い、受け取った。


 そして、約束していた2人と合流すると、話のネタにと雑誌を開いたのだ。

 そこに書かれていたのが冒頭の俺ら批判だったのである。


「書いた記者は誰? あきちゃんのブログに晒したるわ!」


 約束していた2人のうちの1人であるあきちゃんが憤っている。


 あきちゃんは名前を春田秋子といい、俺の同期であり、友達だ。

 昔はサエコやショウコとパーティーを組んだりしたし、解散となった後も、俺が川崎支部に行くまでは、よく一緒に遊んでたりもしてた。


 あきちゃんはBランクエクスプローラであり、≪モンコン≫の二つ名を持っている。

 あきちゃんは絵は好きで、特にモンスターの絵を好んで描いていた。

 それに加え、モンスターの特性を調べて、それを協会に提出もしている。

 その功績はかなりのものである。

 しかも、エクスプローラとしての実力も高く、協会や他のエクスプローラもあきちゃんの事を高く評価している。


 しかし、Bランクだ。


 理由はいっぱいある。

 一言で言えば、性格が悪い。


 例として、自己保身のために嘘をつく、他人を誹謗中傷するなどがある。


 まあ、一言で言えば、クズだね。


「書いてねーな。多分、俺らの報復を恐れたんだろうよ」


 俺は雑誌を読み込み、記者の名前を探すが、見当たらない。


「マジで殴りこみに行こうよ。瀬田君、じゃなかった、クーフーリンをけしかけよう」

「あきちゃん、頭良い! あのバカはすぐに行くぞ」

「だよね、だよね! 嘘をつくマスゴミには天罰だ!」


 その通り!

 名誉棄損した方が悪い!


「いや、だから、本当の事だろ。私はまだルーキーだけど、お前らの評判は良く知ってるぞ。最初に協会の初心者講習を受けた時、協会の職員から注意されたし」


 俺らの事を何もわかっていないこの女は…………えーっと、なんだっけ?

 苗字は忘れたが、キララだ。

 ≪正義の剣≫に所属するぺーぺーの新人。

 

 以上!


「ハァァー……えーっと、キララさんだっけ? あなたも協会に毒されちゃったんだねー。協会はね、あきちゃん達を悪者にして、自分達を正当化しようとしてるの。そうやって、あなた達、第3世代って言うのかな? その人達を上手いようにコントロールしようとしてるんだよ」


 さすがはあきちゃん!

 陰謀論で協会を悪者にし、自分を正当化しようとしている。


「違うと思うけど。だって、お前らって、マジで自己チューじゃん」

「あん!? あきちゃんを敵に回したいのか!? 枕で≪正義の剣≫に入ったって、ブログに書くぞ!」


 さすがはあきちゃん!

 新人にも容赦しないぜ!


「自分で言うのもなんだが、リアルっぽいからやめろや。多分、ほとんどのヤツが信じる」


 まあ、俺もそうなんだーって思うと思う。


「しかし、この記事の内容からして、俺らの誰かに何かをされたっぽいな。悪意というか、憎しみを感じる」

「あー、それは私も思った。言葉が強すぎる。しかも、微妙に≪ヴァルキリーズ≫を擁護してるし」


 キララも同感のようだ。


「誰? ルミナ君? ちょっと前に記者をボコしてたよね?」


 多分、あきちゃんが言っているのはスタンピードの時の記者達だろう。

 シズルの肩を掴んだので、脅した。


「ボコボコになんかしてねーよ。あきちゃんがブログでディスったヤツじゃない?」

「ディス? 正当な評価だよ」

「多分、お前ら全員、心当たりがあるんだろうなー」


 俺はない。

 そもそも、記者連中とは会ってもいけないのだ。


「なるほど。キララさんはあきちゃんがしっかり教育する必要がありそうだね。≪正義の剣≫の雑魚共には任せておけない」


 友達のいないキララはパーティーを組めない。

 今日は俺があきちゃんを紹介するための集まりである。

 そこで、あきちゃんにキララをお願いしたら、二つ返事で了承してくれたのだ。


「ど、どうも。何で私と組んでくれるんです?」

「ユリ…………≪正義の剣≫はね、教育方針がダメなんだよ。優秀なエクスプローラを育てられても、強いエクスプローラは育てられない。キララさんは≪正義の剣≫の中で、第1世代である木田さん達の他に有名どころを誰か言える?」


 ……今、ユリコって言おうとしたろ。


「…………知らない。言われてみれば、あのおっさん共以外で名前を聞かねーな。下手すると、学生の≪フロンティア≫の方が有名なんじゃ?」


 まあ、学生が≪正義の剣≫に入ったのは良くも悪くも話題になった。


 良い意味では、≪フロンティア≫すごい。

 悪い意味では、学生を卒業直前までは勧誘しないっていう暗黙の了解を破った。


 そのおかげで、≪ヴァルキリーズ≫は学園の女子を勧誘しまくり始めてしまったのだ。

 力のある大手クランにこれをされると、他の中小クランやパーティーは太刀打ち出来ない。

 今、ちょっとした問題になっている。


「あの雑魚共は実力よりも人間性を鍛えようとする。そんなもんを鍛えたかったら、寺にでも行けばいい。あきちゃん達はエクスプローラなんだよ!」


 あきちゃん、良いこと言う!


「新人指導をしてもらった時も、確かに、ダンジョンに行くより座学が多かったなー」

「意味ない。無駄。人間性でモンスターに勝てたら誰も苦労しないよ」


 あきちゃんが言うと、説得力があるなー。


「なるほど」

「でしょ? 前途ある新人を任せられないよ。あきちゃんについてきな!」

「は、はい! …………ちなみに、あきちゃんの本音は?」


 キララは意気込んで返事をしたが、ちょっと考えると、俺にあきちゃんの真意を聞いてくる。


「もうすぐ、ユリコが東京本部に帰ってくるから、狙われた時の身代わり要員」


 あきちゃんはユリコをめっちゃ恐れているのだ。


「ち、違うよ。あきちゃんは有望そうなキララさんを弟子にしたいだけだよ」

「じゃあ、弟子は庇えよ」

「…………獅子は我が子を千尋の谷に落とす」

「お前らって、マジでクズだな!」


 ”ら”はいらん。


「せっかくBランクを紹介してやったのに、なんてことを言うんだ」


 そんなんだから友達がいないんだぞ!


「悪い。ついでに≪フロンティア≫も頼むわ」


 ちゃっかりしてるなー。


「え!? ≪フロンティア≫って?」


 あきちゃんはびっくりしたみたいで、目を見開いた。


「キララが≪フロンティア≫を紹介してほしいんだってさ。ほら、俺の姉妹がいるじゃん」

「どういうこと!?」


 いや、今、言ったじゃん。


「キララはパーティーを組みたいんだよ。女のソロは危ないからな。ほら、前もあったじゃん」

「はい? キララは≪あきちゃんファミリー≫に入ったんだよね!?」


 何それ?

 パーティー名?

 だっさ……


「私って、あきちゃんとパーティーを組んだの? 指導をお願いしたんだけど……」

「君は今日から≪あきちゃんファミリー≫の幹部だよ!」


 その≪あきちゃんファミリー≫って、お前とキララだけだろ。


「あきちゃん、野良じゃなかったの? 前に気楽にやりたいって言ってたじゃん」

「野良? 私だってパーティーを組みたい……でも、誰も組んでくれない…………」


 元気だけが取り柄のあきちゃんなのに、沈みだした。


「いや、≪ヴァルキリーズ≫は? ってか、前に俺も誘ったじゃん」


 シズルとパーティーを組んですぐの時、パーティーメンバーを探していた。

 その時に野良のあきちゃんに声をかけたのだが、名前を言い間違えたら断られたことがある。


「今さら、サエコちゃんに頭を下げたくないし、同期の下にはつきたくない」


 ワガママだなー。

 だから、明らかに立場が下のキララとパーティーを組みたいのね……


「あきちゃん、≪正義の剣≫に入るん?」


 そいつ、一応、≪正義の剣≫だぞ。


「キララには辞めてもらう」

「え!?」


 さりげにキララを呼び捨てにし、上下関係をアピールしてる。

 さすがはあきちゃん。

 抜け目がない。


「キララ、辞めるか?」

「いや、辞めねーよ。前に言っただろ」


 聞いたね。


「だってさ」


 俺はものすごくショックを受けているあきちゃんに伝える。

 まあ、目の前で会話しているので筒抜けだが……


「やだー」


 嫌だって、言われてもねー。


「あきらめなよ」

「やだー。ルミナ君、なんとかしてよー」


 めんどくせーなー。


「出向みたいなのがあったろ。≪Mr.ジャスティス≫に頼めば?」


 そういうのがあった気がする。


「それだ! ルミナ君、賢い!」


 まあなー。

 わはは。


「じゃあ、木田さんに頼んで」

「は? めんどい」

「おねがーい。私、木田さんには頼めなーい」

「いや、あきちゃんも面識あるだろ」

「木田さんにそんな図々しいことを頼めないよー。ルミナ君が仲介して」


 そういえば、こいつは≪Mr.ジャスティス≫に憧れてたな。

 しかし、めんどい。

 何で俺がそこまでしなくちゃならないんだ?


「だるい」

「ルミナ君、これあげる」


 あきちゃんはアイテムボックスから写真を取り出し、俺に渡してくる。


「なにこれ?」


 俺は写真を見る。



 …………………。



「いいでしょ?」

「まあ、話は通してこう」


 しゃーない。


「ところで、私はその≪あきちゃんファミリー≫とかいうパーティーに入らないといけないの?」

「お前、新人がBランクのエクスプローラの仲間なんかに、普通はなれないぞ。ましてや、お前の要望通り、女だ」

「………………それもそうか。しかし、パーティー名がなー」


 気持ちはわかる。


 俺はめっちゃ嬉しそうなあきちゃんと複雑な顔をしているキララを無視しながら貰った写真を見る。


 それはシズルが歌手活動をしている時のきわどい写真だった。


 あー、何がとは言わないが、欲しいなー。




『そのセリフはひでー』


 これまで大人しくしていたシロが念話でツッコんでくる。


 ハァ……女はどうすんのかね?


『聞くに堪えねー』


 うるさいなあ……





攻略のヒント

 

 いえーい! 皆、元気ー!!

 あきちゃんは絶好調!

 何でかわかるぅー?


 ふふーん、教えてあげようかな?

 どうしようかなー?


 仕方がない。

 教えてあげましょう!


 この度、あきちゃんは…………パーティーを組むことになりました!!


 おー!! パチパチ!


 まあ、あきちゃん的には一人で気楽にやりたかったんだけどねー。

 どうしても、あきちゃんとパーティーを組みたいって言われたら、断りにくいよねー。


 そんなわけで、あきちゃんは野良を卒業します!!

 まあ、でも、ブログは続けるし、モンスター研究はこれからも続けるから安心してね!!


 じゃあ、今回は短いけど、この辺で!


 また、近い更新するから、みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?


『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る