第125話 ミレイさんとキララ


 ≪Mr.ジャスティス≫と決闘した俺はなんとか勝つことができた。


 勝負を終えた俺達の元にそれぞれの仲間が駆けつける。


「セイギ…………」

「悪い……やっぱりルミナ君は強かったよ」


 ≪正義の剣≫のおっさん達は≪Mr.ジャスティス≫を立たせると、≪Mr.ジャスティス≫は仲間に謝った。


「いや、こちらこそすまん。リーダーであるお前に黙ってこんなことをしただけでなく、こんな役目も背負わせてしまった」


「いいよ。勝てたら良かったんだけど、魅了はずるいよね」


 ずるくないわ!


「木田さん…………」


 キララも≪Mr.ジャスティス≫に近づく。


「近藤さん、すまない。負けてしまった。悪いけど、約束だけは守ってくれ」

「はい。私の方こそ、多大な迷惑をかけました。申し訳ありません」


 キララは頭を下げた。


「ルミナ君、約束通り、近藤さんを東京本部でアイドル活動はさせないようにする。それでいいかい?」

「ああ。それでいい」

「ハァ……疲れた。もう帰ろう。僕は明日から30階層のボスに挑まなくちゃならないんだぞ」


 ハードスケジュールだなぁ。

 だから、真面目にやってなかったのか……


「帰れ、帰れ。早く寝ないと、明日に響くぞ」

「誰のせいだと…………あー、ミレイさん」


 ≪Mr.ジャスティス≫は顎をさすりながら俺を抗議の目で見ていたが、何かを思い出したかのように、ミレイさんの方を向く。


「はい、何でしょうか」

「まずは、ウチの連中があなたに多大な迷惑をかけた。責任者として謝罪する。すまなかった」

「いえ、それはもう結構です」

「僕達、≪正義の剣≫はあなたの邪魔をするつもりもないし、むしろ、頑張ってほしいと応援している。ミレイさんのおかげで、エクスプローラのイメージが良くなっているし、僕達の励みにもなっている。そのことについて、自信を持ってほしい」

「はい、ありがとうございます」

「……この失態は必ずお返しする。指導はもう必要ないだろうが、何かあれば、僕達を頼ってほしい。僕達は必ずあなたの味方になることを誓います」


 ≪Mr.ジャスティス≫はリーダーらしく、頭を下げる。


「いえ、こちらこそ、あなた方には感謝しています。この東京本部で活動できているのは、あなた方が治安維持に努めているおかげです。これからもよろしくお願いします」


 ミレイさんもまた、頭を下げた。


 なんか2人共、大人だなー。


「ルミナ君、僕達はもう帰るよ。約束だから、マイさんには一応、伝えておく。それと、ここでの出来事は口論になったが、話し合いで終わったってことでいいね?」


 ここで決闘しましたとは言えないからな。

 多分、勘ぐりはされるとは思う。

 しかし、双方が言い張れば、問題はない。


「それでいい。俺達は話し合いの末、和解した…………あー、君達」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫からおっさん共に目線を移した。


「…………なんだ?」

「いやー、ごめんね。男に戻るのが遅くなりそうで、ちょっとやさぐれてたんだ。お前らがおもしろい反応するから調子に乗っちゃった。てへ」


 俺は誠心誠意、謝ることにした。


「…………もういい。セイギの言う通り、昨日今日でコロコロ意見というか、人間が変わる貴様の言動を気にした我らが悪かったのだ………………ミレイさん、そして、学生の君達。関係のない君達を巻き込んだことを謝罪する。特にミレイさんには大変失礼なことを言ってしまった。本当に申し訳ない」


 おっさんは俺をスルーし、ミレイさんに頭を下げた。


「いえ、先ほども言いましたが、もう結構です。あなた方には感謝もしておりますし、助けられています。これからもお互い頑張りましょう」

「すまない…………君達も本当にすまなかった。こんなことは学生である君達に見せるべきではないし、巻き込んではいけないことだ。すべては我らの不徳の致すところ。大変申し訳なかった」


 おっさんはミレイさんの次に、シズル達に頭を下げる。


「い、いえ、僕達はあまり気にしてませんから」

「そうです。ボク達は見てただけですし、こういうこともあるんだーって勉強になりました」

「ってか、話しを聞いてると、悪いのって、ルミナちゃんじゃない?」

「センパイがクズな理由で煽ってただけですしね」

「………………えーっと、ごめんなさい」


 あー……仲間って素晴らしいなー。


「言っておくが、生贄って言ったのはクーフーリンだからな。俺じゃないぞ!」


 誤解は解かねば!


「…………ルミナ君、あっち行ってようか」


 シズルが俺の手を引き、皆から離していく。


 あーれー。


「…………君達、≪陥陣営≫がクソガキと呼ばれているのは、あれが原因だ。すまないが、我々ではどうしようもできなかった。よろしく頼む」

「いえ……」

「自己中なのは知ってるよ」

「いつもの神条さんだよね」

「あの謝罪と呼べるかもわからない謝罪もシズル先輩への謝罪アピールで、心では舌を出してますしね」


 あー……仲間って素晴らしいなー。


 その後、≪正義の剣≫とキララは帰っていった。




 ≪正義の剣≫とキララが帰った後、俺達はまだ、10階層に残っていた。


「ミレイさん、どうする? もう一度、レッドゴブリンに挑むか?」


 ミレイさんは結局、レッドゴブリンを倒していないため、まだ依頼は終えていないのだ。


「ううん。もう大丈夫。あとは自分の仲間とやってみる。依頼はここで終了ね」

「そっか。まあ、ミレイさんなら大丈夫だよ。ってか、エクスプローラを続けるの?」


 ミレイさんにはエクスプローラの汚い点を見せた。

 障害となるキララは消えたし、この先のリスクを考えれば、今まで通り、上を目指さず、適当にやるのが良いとは思う。


「続けるよ。でも、≪ヴァルキリーズ≫には入ろうかな。さすがに怖いしね」


 春の暴行事件もあったし、模倣犯が出るかもしれない。

 ダンジョン内は証拠が残りにくいし、エクスプローラの中には最低なヤツもいる。

 言っておくが、俺のことではない。


「それがいいよ。女がエクスプローラをやるには、どうしても、そこが障害になる。≪ヴァルキリーズ≫はそういったノウハウもあるし、安心だと思う。一応、サエコとショウコに言っておくよ」


 昔から女エクスプローラのそういった問題はあった。

 それを良しとせず、立ち上がったのが、サエコであり、≪ヴァルキリーズ≫だ。


「ありがと。ルミナ君、あらためまして、依頼を受けてくれて、ありがとう。私はなんとか自信を持つことが出来たし、エクスプローラアイドルも続けられそうです。これもすべてあなたのおかげ。サエコさんやショウコさんがあなたを推薦した理由もわかりました。出来たら、他の子達もお願いしたいんだけど、そこまで迷惑はかけられません。あとは私の方で頑張ります」


 がんがえー。


「俺は指導の依頼だけは真面目にするから」

「そうね。あと、私を見捨てないでくれてありがとう」

「いや、見捨てねーよ」


 依頼の最中に見捨てるわけないじゃん。


「他の人の目がものすごく冷たかったので……何もできないポンコツな私ですが、ルミナ君のおかげでなんとかなったよ」


 まあ、レベルの18のCランクがあのざまじゃねえ……


「それをマイちんに伝えて」

「はいはい。ねえ、ルミナ君って次男? リンゴ好き?」

「長男。リンゴは好きだけど、青森は嫌。俺は都会っ子だから」


 農家は嫌!


「残念。ってか、Rainさんがものすごく怖い目をしてるから冗談はやめるね」

「冗談ていうか、年齢差を考えな」

「どーん!」


 俺は笑顔のミレイさんにグーで殴られた。


 そして、俺達は依頼を終えたので、協会へと帰還した。



 協会に戻ると、マイちんに依頼終了の報告と≪正義の剣≫と揉めたことを説明した。

 もちろん、決闘の事は言わず、話し合いで解決したことにする。

 その際、俺が悪かったので謝罪したことも説明すると、マイちんは上機嫌でうんうんと頷いていた。


 その後、ミレイさんと別れ、マイちんからそんなに高くない依頼料を受け取る。

 普通の指名依頼は高額だが、指導の依頼は安いのだ。

 だから、指導の依頼は慈善事業であり、評価が上がりやすい。

 俺の評価が下がると、マイちんが指導の依頼を持ってくるのはそのためだ。

 これには多分、警告も兼ねてある。

 これ以上はランクが下がるぞ、と。


 とはいえ、今回も無事にとは言えないが、依頼は終了した。


 その日はその場で解散し、俺は一人で家に帰ることにした。


 今日は大変な一日だったが、また、明日からダンジョン攻略に精を出したい。

 

 まあ、でも、疲れたから明日は休みにしよう。

 ってか、瀬能とちーちゃんの試験って、いつなんだ?

 その辺も含めて話し合わないとなー。


 俺は明日からの予定を考えながら一人暮らしの自宅に帰宅した。




 ◆◇◆




 翌日、俺は本部長に呼び出された。


 内容は昨日の≪正義の剣≫との一件だ。

 俺はマイちんに話し合いで解決したと言ったのだが、まったく信じてもらえなかったようだ。


 俺は本部長の追及をかわし、断固として暴力などに頼っていないと、説明した。

 おそらく、本部長は納得はしていないだろうが、証拠もないため、無事、釈放となった。

 協会は決闘を黙認しているが、禁止行為であるため、よくは思っていないのだ。


 俺は本部長の話が終わり、部屋を出ると、本部長室の扉を蹴り、逃げ出した。


 証拠はないのでセーフだ。

 (なお、後日、監視カメラに映っていたため、怒られた)


 俺はざまーみろと思いながら、家に帰ろうと、協会のロビーを歩いている。

 すると、ソファーに座っているキララと目が合った。

 

「お前、なんでここにいるの?」


 俺はキララはてっきり他所に移ったのかと思っていたので、疑問に思い、聞いてみた。


「あ? あー、例のやつか…………お前、暇か? ちょっと付き合え」


 キララはめっちゃ感じ悪く俺を誘う。


 ミレイさんや≪正義の剣≫の前では殊勝だったのに、今は生意気さが前面に出ている。


「なんだよ? 俺は紅茶が好きだぞ。あ、ペットボトルのはいや」

「チッ! 図々しいヤツ…………まあ、いいか、お姉さんがおごってやる。ついてこい」


 キララは憎々しげに舌打ちをすると、立ち上がり、協会を出るために歩き出した。

 俺もそれに続く。


 協会を出ると、向かいのエクスプローラ御用達のレストランに入る。


「ご注文は何になさいますか?」


 俺達は席に座ると、店員がやってきて、注文を聞く。


「ま、まりあーじゅ…………これ」


 俺はメニューを指差し、店員に注文を伝える。


「読めねーくせに、一番高いやつを頼むんじゃねーよ。私はカフェオレをお願いします」


 キララも注文を伝えた。


 その後、少ししたら、注文した何とかっていう高い紅茶とカフェオレがやってきた。


「で? 何か用?」


 俺は早速、用件を聞く。


「気の短いヤツだな。こんな美人とティータイムを楽しめるってのに」

「俺、美人さんなら毎日、鏡で見てるから」

「ナルシストも入ってんのか…………重症だな。まあ、自分が好きなんだろうな。だから自己中になるわけだ」


 先に自分を美人って言ったのは、お前だぞ。

 冷静に人を分析してるが、自分のことだろ。


「ケンカを売りに来たん?」

「ちげーよ。ちょっと話がしたくてな」

「ふーん。そういや、お前、東京本部を出ていかねーの?」


 なんでいんの?


「あー、それも含めてだな。私、アイドルを辞めるわ」

「へー、辞めるんだ? ずいぶんとあっさりしてんなー」

「まあ、私は別にアイドルになりたいわけじゃないしな」

「そうなん?」

「私は金が欲しいんだ。私の家、貧乏だったし。本当は最初からエクスプローラになりたかったんだが、ダンジョン学園には金がなくて入れなかった。だから、バイトして、上京の金と資格試験の費用を貯めた」

 

 だから試験を受けたのか。


 ダンジョン学園に入り、卒業すれば、資格を貰える。

 しかし、ダンジョン学園は入学料も授業料も高いのだ。

 最近では、国からの補助もあるらしいが、それでも高い。

 まあ、設備や内容を考えると仕方がない面もある。


「なるほどねー。あ、ここ、奢ろうか?」


 高いの頼んじゃった……


「そんなことを気にすんな。ガキは黙って奢られてろ。私の家は岩手の農家でな。最近は農家も厳しいんだ。下には弟や妹達もいるし、金を稼ぎたかった」


 安いのを頼めばよかった……


「それなのに、アイドルを辞めるの? 別にここじゃなくても、アイドルくらい出来るだろ」


 今の時代はネットや動画配信もあるし、岩手でご当地アイドルでもやれよ。


「アイドル活動は装備を整えるための小金稼ぎだ。名前も売れやすいしな。どうせ、近いうちに辞めるつもりだったんだよ。まあ、もうちょっと稼いで、名前を売りたかったけど」


 名前が売れれば、スポンサーが付く。

 二つ名持ちは特にすごい。

 俺はイメージが悪いから無理だけど。


「その割にはミレイさんに突っかかってたな」

「青森の田舎娘に負けられるか」


 岩手娘、青森娘を笑う。


「どっちも変わらないような……」

「岩手は日本で一番大きい県なんだぞ」


 だからなんだよ。

 ってか、北海道じゃないの?


「まあ、よくわからんが……」

「あんな田舎娘ならすぐに勝てると思ったんだよ。でも、蓋を開けてみたら、強いし、めっちゃ人気でやんの」


 キララはアハハ、と笑う。


「まあ、あの人は優しさがにじみ出てるからなー。殺伐としたエクスプローラの中のオアシスなんじゃね?」

「オアシスねー。やっぱり、私には無理だ。他人に笑顔を振りまくのはストレスでしかない。ちなみに、私は最初、ミレイさんじゃなくて、Rainの方を警戒してたんだぞ」


 シズル?

 確かに、元芸能人だけど。


「あいつの何を警戒すんだよ」

「いや、勝てる気がしない。歌もめっちゃ上手いし、顔もいい。それに、戦力差が歴然だろ」


 キララは自分の胸をさすった。

 俺はそんなキララの胸を見るが、ふくらみが微妙にあるのはわかる。


 確かに、お前ではねぇ。


「ほーん」

「でも、初めて会った時に敵ではないと思った」

「お前、勝てるところあんの?」


 ねーよ。


「いや、私がお前らと初めて会った時、あいつ、お前と手を繋いでたろ。その後もイチャイチャとしてたし、男がいるなんて、アイドルとしては致命的だよ」


 イチャイチャなんて、してたか?


「お前は彼氏いないの?」

「…………これまで勉強とバイトで忙しくてな。彼氏どころか、友達と遊びに行ったことも数えるくらいだ」


 あ、地雷、踏んだ。


「こ、これからは楽しめよ」

「まあ、もうちょっと安定して稼げたらなー」

「≪正義の剣≫は辞めないの? 俺はお前があそこにいた理由がわからん。普通は≪ヴァルキリーズ≫に行くだろ」


 女エクスプローラがまず考えることは≪ヴァルキリーズ≫に入るかどうかである。

 なぜなら、≪ヴァルキリーズ≫は女エクスプローラがいれば、手放しに勧誘するクランだからだ。


「ぶっちゃけ、≪正義の剣≫で知名度と実力をつけさせてもらったら、移籍するつもりだった。≪ヴァルキリーズ≫のジャージを着た背の高い女がいつでも来ていいって言ってたし」


 ショウコだな。


「行かないの?」

「あんな迷惑をかけておいて、はい、サヨナラなんて言えるかよ。≪Mr.ジャスティス≫まで巻き込んだんだぜ? こうなったら何とか仲間を探して、あそこでのし上がるしかねー」

「そんなもん、気にしなくてもいいのに……」

「大人は責任感ってのを持つんだよ」


 責任感?

 なにそれ?


「よくわからんが、頑張れ」

「それでさー。お前、誰か有望そうなの知らない? できたら女が良い」


 まあ、男と組むのは危ないか……


「お前、レベルはなんぼ?」

「5」


 帰れ。


「安心しろ。とても頼りになるヤツを紹介してやる。お前と同じ≪踊り子≫だ」


 しかも、めっちゃ強い。


「それ、≪白百合の王子様≫だろ。絶対にゴメンだ。彼氏ができる前に女に走ってどうすんだよ」

「まあ、紹介しなくても、向こうから来るか……予言してやると、『君、≪踊り子≫なのかい? 私もなんだ。≪踊り子≫は数が少ないから大変だよね。そうだ! 情報交換しよう。ご飯でもどう?』って、白々しく誘ってくるぞ」


 脳内再現が簡単にできる。


「マジ?」

「マジ、マジ。しかも、向こうはお前が≪踊り子≫なのは最初から知ってる。ってか、もうせっせと情報を集めてると思うぞ。多分、ご飯を食べながら、自分も貧乏だったとか嘘をつく。それで警戒心を弱める」


 あいつは裕福な家に生まれたダボハゼだ。


「えぐい。ってか、お前、詳しいな」

「前に女の落とし方を教えてもらった。最悪の場合は薬を盛って、いい関係になっちゃえって、言ってた。女は一度やった相手をなんだかんだで繋ぎとめようとするからって」


 これをめっちゃ誇らしげに言っていた。


「ゲスい。マジでこえー」

「俺はその話を聞いて、ドン引きしてた。ちなみに、これはまだマシな方で、人に話せるやつだな」

「噂以上にイカれてやがる。対策はないの?」

「あいつの前で飲食をしないことだ。あと、単純に会わなければいい。あいつは掲示板では大人気だから、あいつが協会にいるとすぐにわかるぞ」


 いるだけで事件を起こす女。


「なるほど。これだけで、高い紅茶をおごってやったかいがあったな」


 あんま紅茶の味がわかんないって、言ったら怒りそうだな。


「感謝しろ。ついでに、はるちゃんを紹介してやる。俺の同期で、野良だけど、優秀だ」

「ほうほう。パーティー組んでくれるかな?」

「無理。≪正義の剣≫のことが嫌いだから。しかも、二つ名持ちのくせに、嘘ばっかついて、信用ゼロ」

「二つ名? なんての?」

「≪モンコン≫」

「≪モンコン≫かー。まあ、我慢すっか。あ、それとさあ、お前、≪フロンティア≫って、知ってる? ウチにいる学生パーティーなんだけど」

「そりゃね。同じ学校だし」

「だよな。あそこって5人なんだよー。ガキなら御しやすいし、安心だろ?」


 そういえば、あそこはアカネちゃんが抜けたから1人空いてんのか。


「まあ、≪フロンティア≫は俺のお姉ちゃんと妹のホノカがいるし、安心なんじゃね?」

「お、女もいんのか! しかも、お前の身内。紹介して」

「いいけど、学生だぜ? 昼間はどうすんの?」

「嫌だけど、どっかのパーティーで姫様プレイするよ。実績のない私だと、それくらいしないとパーティーに入れん。だから、≪モンコン≫に期待してる」

 

 こいつも大変だねー。

 ってか、試験でトップの成績を取った≪踊り子≫がこれって、他の新人エクスプローラはどうしてんの?


「お前、同期は?」

「同期はみんな最初からパーティーを組んでいる。お前らダンジョン学園のエクスプローラは知らないだろうが、試験を受けるヤツで、一人でエクスプローラになろうなんてヤツはいない。特に女はな」


 あー、俺の時とは時代が違うんだな。

 今は、良くも悪くも、情報が出回っているから、最初から信頼できるヤツとパーティーを組むんだ。

 それで実績を積み、途中で解散するとしても、ある程度、上に上がってからにするんだ。


「お前、友達いないって言ってたもんなー」


 可哀想……


「言ってねーよ。友達くらい、いるわ…………岩手に」


 マジで可哀想……


「俺が友達になってやるから、泣くんじゃないぞ?」

「いや、泣かねーわ。泣いてる暇なんてねーよ。私は稼いで、実家の農家を立て直すんだよ」


 がんがえー。


 その後、キララと連絡先を交換し、高い紅茶を奢ってもらった俺は帰路につく。


 ミレイさんもキララも色々と大変なんだなーと思う反面、自分がものすごく恵まれていることに気付いた。

 俺にはシズル、カナタ、アカネちゃんという自分を慕ってくれる仲間がいる。

 ちーちゃん、瀬能という先輩なのに、後輩の俺をリーダーと認めてくれている仲間がいる。


「俺って、幸せ者だねー」

「そう思うならもっと仲間を大切にしな」


 シロが念話でなく、きちんと言葉にして言ってきた。


「ラブ&ピースだねー」

「ラブ&ピースだぞー」


 よし、今日から俺は聖人君子になろう!


「とか言って、多分、来週にはヤリたーいって、ほざいてるんだろうなー」


 それはいつも思っている。

 今も思っている。




攻略のヒント

 以下のエクスプローラのエクスプローラ協会東京本部の出入り禁止令を解く。


 安達ユリコ


『エクスプローラ協会HP お知らせ』より

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