閑話 相棒がうざい


 最近、相棒がうざい。

 めっちゃうざい。


 元より相棒は、多少、言動と性格に難があるものの、基本的には素直な性格をしているため、そんなにうざくはない。


 しかし、先月、トランスリングを手に入れてから変わった。

 

 まず、最初に変わったのはシズルに自分の想いを伝えてからだ。

 相棒がシズルに告って帰ってくると、相棒はすぐに女に戻った。


 俺っちがどうだったと聞くと、上手くいったと、答えた。

 俺っちがまあ、そうだろうなーと思っていると、相棒はそれからずーっと膝を抱えてぼーっとしていた。

 

 時より、唇を触り、ニヤついており、ちょっとキモかったが、相棒が嬉しいようなので、温かく見守ることにした。


 そんな静かな夜の翌日、ダンジョンから帰還し、家に戻ってくるなり、相棒がめっちゃうざくなった。


 まあ、よくしゃべる。

 やれ、自分はすごいだの、やれ、シズルは良い女だの。

 同じ内容の事を言い方や語彙を変えて、自慢する。


 バカのくせに、語彙力だけはあるからタチが悪い。

 普段はアホなくせに、自慢する時と人の悪口を言う時だけ、頭が良くなるのは何故なんだろうか……

 

 俺っちは相棒のためにと我慢した。


 そして、その翌日も同じことが続いた。

 その翌日も。

 また、その翌日も。


 1週間も続いた。


 うぜえ!


 しかし、1週間後、急に静かになった。


 理由は分かっている。


 バカは気付いたのだ。

 皆がとっくの前に気付いていたことに、ようやく気付いたのだ。


 ダンジョン探索中、相棒がポツリとつぶやいた。


「なあ、トランスリングで40階層ってことは、トランスバングルは何階層だ?」


 相棒がつぶやいた瞬間、空気が凍った。

 シズル達は無言になった。

 

 皆、気付いていた。

 当たり前だ。

 少し考えれば、分かることだろう。

 でも、相棒はバカだし、浮かれに浮かれていたから気付かなかったのだ。


 その日のダンジョン探索は中止になった。

 

 帰還してから相棒は協会のロビーにあるソファーに座り、何もしゃべらず、ぼーっと一点を見ていた。


 仲間達は何とか相棒を慰めようと話しかけていたが、相棒はうん……とか、そうだな……としか答えない。


 皆、相棒が男に戻るには時間がかかることに気付き、ショックを受けていると思っている。

 特にシズルは相棒の手を握り、必死に慰めている。


 でも、俺っちは相棒に呆れていた。


 何故なら、俺っちは相棒の考えていることが分かるからだ。


 こいつは……

 

『えー……戻るのに何年かかるん? せっかく彼女が出来たのにヤレねーじゃん。マジかよー……あ、でもトランスリングで90分戻れるか……でも、2ヶ月かかるしなー。それに、雰囲気作りを考えると90分は短いな。男に戻って、さあヤろうって感じになるか? ならないよなー……マジでどうしよう……シズルの手、やわらかいなー……』


 クズだと思った。


 仲間やシズルが必死に慰めているのに、こいつはまったく聞いておらず、心の中は煩悩に満ち溢れている。


 その後、相棒が今日は解散と言って、解散となった。

 俺っちは帰りたくねーなーと思った。


 そして、家に帰ると、予想通り、クズの愚痴が始まった。

 昨日までは微笑ましいウザさだったのに、この日からはクズのウザさに変わった。

 しかも、最後は拗ねて終わるというめんどくささだ。


 そして、その日から相棒がすさんだ。

 まあ、元々、ロクな人間じゃねーけど。


 翌日、相棒は協会に着くと、周りにいるエクスプローラ達を睨みつけ始めた。

 まさしく、チンピラである。


 そして、≪正義の剣≫のメンバーを煽りだした。


 ≪正義の剣≫は留守中とはいえ、ホームであるロクロ迷宮のスタンピードを自分達で止められなかったことを悔やんでいた。

 しかも、掲示板では≪正義の剣≫より、≪陥陣営≫の方が頼りになるだの、やはり第1世代より第2世代の方が優れているだの、書き込まれている。

 ≪正義の剣≫のメンバーの心中は穏やかではないはずだ。


 そして、性格の悪い相棒はそれが分かっているのだろう。

 相棒は≪正義の剣≫を見るなり、性悪そうに口を歪めて、絡みだした。

 

 まあ、酷い。


 言い方やキャラを変えて、煽る。

 こういうことだけは得意な人間だ。


 ≪正義の剣≫の面々は拳を握りしめて、睨むしかできない。


 相棒はそれを見て、さらに煽る。


「きゃー、こわーい! スタンピードのモンスターじゃなくて、こんなかわいい女の子を殴るんだ? 天下の≪正義の剣≫も落ちたもんだねー。あ、そうか! あの時、お前ら居なかったもんな! じゃあ、仕方ないね! キャハ!」


 ≪正義の剣≫が可哀想だと思った。

 ≪正義の剣≫は何も言わず、その場を立ち去るが、その後ろ姿にも相棒は煽り続ける。


 相棒は以前、自分が≪教授≫や≪白百合の王子様≫と同程度の評価であることに憤慨していた。


 でも、お前は間違いなく、そいつらと同程度だ。

 立派な日本三大エクスプローラの恥の1人だよ。


 本来なら、こんなことはシズルやマイが許さないだろう。

 でも、あの2人は俯いて悲しそうな顔をするだけで、止めない。


 あの2人は相棒が男に戻れないことで、荒れていると勘違いしている。

 そして、女になった理由が自分達にあると思っているため、止めることが出来ないのだ。


 実際のところ、あのバカは女のままであることを気になどしていない。

 ただ、自分の欲望が先延ばしになったことに拗ねているだけである。


 そんな状況なので、相棒は調子に乗ってしまった。


 女になってからは大人しくしており、協会や他のエクスプローラから見直されていた相棒の評価は、いつもの日本三大エクスプローラの恥に戻った。



「なあ、相棒。お前、めっちゃ評判悪いぞ」

「うーん、痛いよぅ…………あん? 今さら、何言ってんだ? 俺の評判が良かったことなんてねーよ」

「いや、最近は見直されてたんだぞ。スタンピードを止めたりしただろ」

「ふん! 有象無象共の評価なんてどうでもいいわ! あー、気分わりぃ……」


 すぐ、拗ねる……

 うぜぇ……


「それに、俺は大切な人から想われていれば、それでいいの!」


 恋する乙女みてえな顔でなんか言ってる……

 きめぇ……うぜぇ……


「ほどほどにしとけよ」

「フンッだ! …………うーん、痛いよぅ……男に戻りたいよぅ」


 お前、そのうち、その大切な人からも見捨てられそうだぞ…………





攻略のヒント

 以下のエクスプローラは、テレビ等のマスメディアの取材を受けることを禁じる。


 坂本ケンジ

 神条ルミナ

 瀬田コウタロウ

 春田秋子

 

『エクスプローラ協会東京本部 受付前張り紙』より

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