第6章
第107話 鏡よ、鏡、この世で一番かわいいのは俺だよな!?
世の中の男子学生が一番興味があることは何だと思う?
答えは決まっている。
そう、エッチなことだ。
異論は認めない。
決して認めない。
その興味を世の中の可哀想な男子達はきっとDVDやネットで満たしているだろう。
しかし、俺は違う。
何故なら、俺は女だから……じゃなくて、彼女がいるからだ。
まさしく、リア充の中のリア充である。
それなのに、俺は満たされない気持ちでいっぱいだ。
別に自分の彼女に不満があるわけではない。
俺の彼女は綺麗な黒髪をした巨乳(重要!)で、多少、口うるさい所があるし、たまに俺を無視することもあるが、基本的には優しくて、良い女だ。
でも、満たされない……
何故ならデキないから!!
何故、デキないんでしょうね?
「俺っちに聞いてんのか?」
いつものようにテーブルの上で俺の携帯をいじっていたシロがこちらを見ながら聞いてきた。
今日は日曜日だが、ダンジョン探索はお休みの日である。
「お前以外に誰がいる?」
「いつものくだらん独白かと思った」
くだらなくねーよ。
「なあ、彼氏彼女ってヤリまくりじゃないの? 俺はそう習ったけど」
「彼氏彼女じゃねーからじゃね? あと、お前が習ったのはエロ本だろ」
「でも、告ってOKもらったし」
「男に戻ったら、だろ。自分の今の姿を鏡で見てみな。爪の手入れをしているその姿をな……」
俺はシロにそう言われたので、横に置いてある姿見で自分を見る。
そこには爪を磨いている金髪の超絶美人さんがいた。
うーん、男には見えないなー。
「ハァ……ヤリてーなー」
「……ヤレば?」
「入れるモノがねーよ」
「なくてもデキるだろ。ユリコれば?」
ユリコればってなんだよ?
いや、言いたいことはわかるけど……
「そっちの趣味はないんだよ」
「じゃあ、諦めろ」
シロはそう言うと、再び、携帯をいじりだした。
「お前、さては真面目に聞いてないだろ」
「聞く価値ねーよ。それに、この問答が何度目だと思ってんだよ……」
「そんなに言ってたか?」
「お前がシズルに告ってから1ヶ月の間、毎日、そればっかじゃねーか。いい加減、ウザい」
「だってねえー。あれから1ヶ月経つけど、何の進展もないんだもん」
ヤルどころかキスもしてねーよ!
「はよ男に戻れ。はい、この話は終了」
まあ、結局、結論はそこになるのは俺だってわかってる。
「男に戻るのはいつになることやら……」
先月、俺はロクロ迷宮の40階層でトランスリングを入手した。
これは俺が男に戻るためのトランスバングルの劣化版で、2ヶ月に一回しか男に戻ることができないアイテムだ。
俺はこのトランスリングを手に入れたことを喜んだ。
シズルに自分の想いを伝えることができ、シズルとの関係性が一歩前に進んだからである。
しかし、それから1週間くらい経った後に気付いたのだ。
40階層で劣化版のトランスリングってことは、トランスバングルって、めっちゃ深層じゃね?
40階層に行ったのは罠に引っかかった偶発的なものであり、俺の適正階層は25~30階層程度だろう。
俺のパーティーである≪魔女の森≫で言えば、もっと下がり、20階層程度だ。
あれ?
トランスバングルを入手するのって、実はめっちゃ時間がかからね?
俺は疑問に思ったので、パーティーメンバーに聞いてみると、皆、無言になってしまった。
どうやら皆、気付いていたらしい。
でも、俺には言いにくく、黙っていたようだ。
俺のテンションはガタ落ちした。
俺の予定では、来年には男に戻る予定だったからである。
ところが、蓋を開けてみれば、男に戻るのはまだまだ先の話。
俺のテンションも急降下するってもんだ。
「もういっそのこと、女として生きようかねー」
シズルとヤレないのは嫌だが、これはこれで悪くない。
「何を言ってんだよ。一昨日は泣きながら、男に戻りたいって言ってたくせに」
「それはしゃーねーよ。俺は重い方なんだ」
今日が日曜なのに、ダンジョン探索が休みなのは、俺の体調不良が原因である。
しかし、それがあったか……
まるでボディブローをずっと浴びせられたような感覚がずっと続いているようなのだ。
さすがに心が折れそうである。
しかも、それが定期的にやってくるから嫌になる。
「なあ、スキルでどうにかなんないのか?」
「≪痛覚耐性≫でいけると思うぞ」
「ああ、それがあったな」
≪痛覚耐性≫は痛みを感じづらくなるファイター系のスキルである。
ってか、瀬能が持ってる。
タンクは敵の攻撃から味方を守るため、一番痛い思いをする。
だから、タンクにとっては≪痛覚耐性≫は必須なのだ。
「俺はスキルポイント的に取れなさそうだなー」
俺は後衛職のメイジである。
前衛スキルを取るにはポイント数がとんでもなくいる。
「お前って、元はグラディエーターだろ? 何で取ってないんだ?」
「グラディエーターは防御力が高いし、俺の場合は攻撃を受ける前に倒してからなー」
オーガだろうが、ミノタウロスだろうが、一撃だ。
俺強い!
「防御はいらなかったわけか……そんなんでよくやってこれたな」
「万能タイプより特化型の方が役立つんだよ」
「そうなのか?」
「ダンジョン探索はパーティーが基本だからなー。仲間同士で欠点を補い、長所を武器にするんだよ」
「へー。それにしては他のエクスプローラは万能型が多くないか?」
まあ、多いな。
「万能型のほとんどは第1世代と今の第3世代の連中だ。第1世代は手探りだったから、万能型の器用貧乏になったんだよ。俺達第2世代はそれを見てたから特化型になったの」
ユリコやショウコも万能型だが、あいつらは特殊だ。
「ふーん。お前が生贄って言ってたやつか……第3世代は?」
「俺達第2世代を見てだな。ウチのパーティーもだが、特化型は強いが、一度崩れるともろいんだ」
≪魔女の森≫は要である瀬能やちーちゃんが居なくなると、簡単に崩れてしまう。
特に瀬能がいないと、防御できる人間が誰もいないから後退しか手がなくなる。
「じゃあ、万能型の方がいいじゃねーか」
「そりゃあ、安定してるのは万能型だよ。実際、20階層程度で安定して稼げるのは万能型だし、そういうやつは多い。でもな、エクスプローラなんかいつまでも続けられねーよ。年々、体も心も衰えていくんだぜ? エクスプローラ自体が不安定な職業なのに、安定を求めるなんて馬鹿がやることだよ」
30歳くらいでダンジョン病を患って引退したら、それから先はどうするのか。
協会が次の職業を斡旋でもしてくれればいいが、そんなことをしてもらえるのは高ランクだけだ。
「お前って、バカのくせに、色々と考えてるんだな」
「バカは余計だ。まあ、昔、ショウコに聞いたんだよ」
ショウコは同期であり、同じパーティーだった。
その時に将来のことをちゃんと考えるように言われたのである。
「ショウコって、≪ヴァルキリーズ≫の副リーダーか……クランのお偉いさんともなると、ちゃんと将来を考えるもんだな」
「あいつは何も考えてねーよ。クソ金持ちだぞ」
「確かに、デカい家だったな……」
ショウコは政略結婚が嫌でエクスプローラになったらしい。
適当にやって、適当に生きるそうだ。
金持ちの考えることはわからん。
「将来のことを考えれば、上を目指すしかないんだよ。それには特化型が一番だ。30歳くらいまでエクスプローラやって、後の人生は貯めた金と信用で遊んで生きていく。素晴らしいだろう?」
「…………信用?」
あ、疑ってるな!
「俺は後輩指導が出来るし、俺がその場にいるだけで、揉め事は解決するんだぞ」
一撃だね。
「抑止力にはなるのか……まあ、お前の場合、将来はどうとでもなりそうだわな」
それ、良い意味で言ってるよね?
「まあ、そんな先の話より、まずは男に戻る方が先だがな――――ん?」
俺が話していると、シロがいじっていた俺の携帯が鳴った。
「誰から?」
俺は携帯の前にいるシロに聞く。
「マイから電話」
「マイちん? 俺は何も悪いことをしてないぞ」
「良いから出ろよ」
「爪磨いてて、手が離せないから、スピーカーモードにして」
「……はいよ」
シロは念力で通話ボタンを押したのか、着信音が消えた。
「マイちん、やっほー。何か用?」
『あ、ルミナ君? 急に電話してゴメンね。体調不良って聞いてたけど、大丈夫なの?』
「んんー? もう終わったから大丈夫だけど、そんなことを聞きたいの?」
マイちんは心配性だなー。
『あー、あれだったのね。まあ、大丈夫なら良かったわ。実はルミナ君に依頼の話が来てるのよ』
心配だから電話したわけではないらしい。
そりゃそうか。
「依頼ぃー? フッ!」
俺は答えながら爪に息を吹きかける。
『そう、依頼。って、ルミナ君、今何してるの? 忙しいなら後でかけなおすけど』
「大丈夫だよ。爪を磨いてるだけだから」
『…………そう』
爪を磨いてるくらいで引くなや!
「で? 誰から? 協会?」
『協会ではないわ。ちょっと特殊な依頼人だから、明日、協会に来てもらえない?』
特殊?
何か前もそんな依頼があったな。
「いいけど、だれー? また、マイちんの従妹?」
『シズルじゃないわよ。まあ、似た感じではあるわね。怪しい人じゃないから大丈夫よ。というか、貴方も知ってる人ね』
俺が知ってて、シズルに似ている人…………
いや、誰だよ。
「まあ、いいか。明日の放課後に行けばいいの?」
『お願い』
「他の連中も連れて行っていい? 依頼ならパーティーメンバーにも話しておきたいし」
『そうしてもらえる? そっちの方が向こうも安心するだろうし』
……どういう意味?
「俺は依頼人を殴ったりしねーぞ」
『そういう意味じゃないわよ。依頼人も同性がいたほうが良いって意味よ』
……同性?
え? どっち?
「男か女か、わかんないんだけど……どっち?」
『……ゴメン。依頼人は女性よ』
「はいはい、そっちねー。じゃあ、他の連中も連れて行くわ。マイちんの所に行けばいいの?」
『それでお願い』
「じゃあ、明日ねー」
『うん、ゴメンね。また明日』
マイちんはそう言って、電話を切った。
「依頼かー。何だろ」
「さあなー。他の連中に連絡しておこうか?」
「頼むわ」
俺が頼むと、シロは念力で携帯を操作しだした。
俺は爪を磨き終えた自分の手を見る。
うーん、俺の美しい白魚のような手が輝いて見える。
よーし!
足の爪もやるか……
攻略のヒント
企業や一般人がエクスプローラに依頼を行う場合は協会を通さなければならない。
また、高ランクのエクスプローラには指名依頼をすることも出来るが、高額であるので注意しよう。
『週刊エクスプローラ エクスプローラに依頼してみよう』より
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます