第094話 文化祭最終日~良い最終回だったなー~
今日は文化祭の最終日である。
最終日の今日もメイド服を着て、学校に行く。
これまでと同様にクラスに顔を出した後、教室を出た。
「今日で最後かー。どうすんだ?」
例によって、肩にいるシロが聞いてくる。
「今日は中等部に行った後、瀬能の演劇を見に行く」
「ん? また、中等部か? 昨日はあんなに気まずかったのに」
昨日は地獄だった。
顔を引きつらせながら、応対するヒトミちゃん。
何で来るんだと、睨みつけてくるホノカ。
何もわかっていない母さん。
メイド服を着た俺。
カオスとはああいうことを言うんだな。
「ホノカのクラスにはもう行かない。アカネちゃんとカナタのクラスに行こう」
パーティーメンバーだし、売上に貢献しようではないか!
「あいつらも喫茶店だったな。よっしゃ! 行こうぜ!」
食いしん坊な蛇だなー。
俺はシロに急かされて中等部の校舎へと向かうことにした。
中等部の校舎に着くと、昨日と同様に、盛り上がっている。
俺は周囲に注目されながらも、アカネちゃんとカナタのクラスに到着した。
俺は例によって、列に並び、前後の客に宣伝をしながら待っていると、俺の順番がきた。
「いらっしゃいませ~、メイドさん一人、ごあんなーい」
接客してくれたのはアカネちゃんである。
アカネちゃんに案内されて、席に座る。
「何になさいますか~」
「アカネちゃん、おすすめは何?」
「一番高いやつです~」
そりゃあそうだろうな。
でも、客に言うなよ。
「一番高いやつってどれだ?」
俺はメニューを見る。
「一番高いのはこのデラックスパフェでーす」
デラックスパフェ、3000円。
高くね?
ぼったくりか?
「これを頼むと、女の子が横についてくるのか?」
「私についてほしいなら別料金でーす」
いらね。
「ちなみに、いくら?」
「いちまんえーん!」
本当にバカな子だよ。
「あっそ。シロ、この安いサンドイッチセットでいいか?」
「センパーイ、デラックスにしましょうよ~」
アカネちゃんが甘い声で、俺の体を揺すってくる。
将来、キャバクラで働けよ。
きっと、ナンバーワンになれるぞ。
「3000円はたけーよ」
「3000円の価値はあるんですー」
「お前食うか?」
俺は食いしん坊な蛇に聞く。
「食べる」
「えー……じゃあ、デラックスパフェとコーヒーで」
「やったー! デラックス入りまーす!!」
アカネちゃんは大声で注文を裏に伝えると、下がっていった。
「デラックスかー!」
「残さず、食えよ」
「残さねーわ」
デラックスってどのくらいだろう?
しばらく待っていると、アカネちゃんがデラックスパフェを持ってきた。
「おまたせでーす。センパイのためにカナタ君が作りましたー」
アカネちゃんはそう言って、デラックスパフェとコーヒーをテーブルに置く。
デラックスパフェは本当にデラックスであり、ファミレスとかにあるパフェの5倍はある。
確かに、3000円はするだろう。
というか、安くね?
「これ3000円?」
「そうですねー。では、始めます」
アカネちゃんはそう言うと、ストップウォッチを取り出した。
「え? 何?」
「センパイ、ちゃんとメニューに書いてあることを読んでくださいよ」
俺はアカネちゃんに言われてメニューを見る。
『早食いチャレンジ! デラックスパフェを30分で食べ終えたら、パフェ無料券をプレゼント! ※失敗したら追加で5000円を徴収します』
いや、これダメだろ。
よく、先生が許可したな。
「おい!」
「じゃあ、始めまーす」
「聞けよ!」
「よーい、スタート!!」
アカネちゃんは俺を無視して、ストップウォッチのスイッチを押す。
「シロ、がんばれ! 俺はこのクソガキに金を払いたくない!」
「任せておけ!」
シロはそう言うと、自分の体長より大きいパフェをがっつく。
こいつの胃袋がどうなっているかなど、今さらどうでもいい。
この胸焼けがしそうなほどの量のパフェを食べてくれればいいのだ。
「うまいなー」
しかし、こいつ、食いすぎじゃね?
ペース早くね?
まだ、5分も経ってないのに、半分がなくなっている。
そして、アカネちゃんが泣きそうだ。
「あ、あのー、センパイ、この企画の参加者は人間に限っていましてー」
「聞いてないぞ。そういうことはシロが食べる前に言え」
「で、でもー」
アカネちゃんが必死に言い訳を考えている間も、シロはパフェを食べ続けている。
「これ、原価が3000円を越えてましてー」
だろうな。
さっきまではフルーツやチョコが豪勢に乗っていた。
もうほとんど残っていないが。
「うまい、うまい」
まだ10分も経っていないのに、シロはほとんど食べてしまっている。
「このままだと、ウチの店がつぶれちゃいますー」
いや、つぶれねーだろ。
泣き落とし作戦でいくつもりかな?
「あー、食べた、食べた。そういえば、無料券をもらえるんだろ。もう一個食べるか」
「ひどい!」
アカネちゃんが可哀想になってきた。
「これ本当はいくらだ?」
「…………5000円です」
俺から倍近くの値段をぼったくろうとしていたらしい。
「じゃあ、5000円払うから」
「………はい」
俺は周囲の目が気になってきたので、逃げるように店を後にした。
帰り際、アカネちゃんに泣きながら二度と来るなと言われてしまった。
まさかのブラックリスト2件目である。
「お前、もう少し、ギリギリで完食しろよ」
「わりぃ、わりぃ。パフェなんて、滅多に食えねーから」
まあ、俺は甘いものをそんなに食べないから、シロにも買ってやることもない。
「あ、神条さん、来てくれてありがとうございました!」
教室を出て、シロと話していると、教室の中からカナタが出てきた。
「よう、アカネちゃんは泣いてたか?」
「いえ、ケロッとしてましたよ」
やっぱり嘘泣きだ。
どうせ、俺の悪口を言っているんだろうな。
「まあいいや、うまかったぞ」
俺はコーヒーしか飲んでねーけど。
「ありがとうございます。神条さん、朝、雨宮さんに誕生日プレゼントを渡しておきましたので」
「わかった。どうだった?」
「すごく喜んでましたよ。神条さんは後夜祭の時に渡すんですよね? 頑張って下さい!」
カナタは俺に報告を兼ねた激励をしにきたらしい。
本当に良い子だ。
「ありがとよ」
カナタにお礼を言うと、カナタは仕事中だったみたいで、教室へと戻っていった。
その後、俺は体育館へ行き、瀬能の演劇を見ることにした。
瀬能のクラスの演劇の演目は知らないものだったが、内容は悪くなかった。
俺は瀬能がきらびやかな衣装で演技をしている時に目が合ったため、ラブラブファイヤーの構えをしてやった。
瀬能はすぐに目を逸らし、平然と演技を続けていた。
気にしてないのかなーと思っていたが、演劇が終わった後にすげー怒られた。
そして、夕方となり、外部からの客が帰ると、文化祭は終わった。
残すは夜に行われる後夜祭である。
俺にとっては、この後夜祭が本番である。
シズルに誕生日プレゼントを渡すからだ。
今さらながら、やはりネックレスは重いんじゃないかなーと思ってきた。
「大丈夫だよ。シズルもちゃんと喜んでくれる」
俺が不安になっていると、シロが励ましてくれる。
「そうか?」
「安心しろ。あと、俺っちは食べすぎて、疲れたから先に家に帰る。送っていけ」
「めんどくせーよ」
「ハァ…………お前とシズルを2人っきりにしてやろうという俺っちの気遣いに気づけよ」
おー!
こいつって、すげーな!
「お前がバカなんだよ」
シロが呆れてながら言った。
俺、この文化祭で何回もバカと言われている気がする。
俺はシロの好意に甘え、シロを家に送ると、1人で学校に戻った。
そして、シズルの携帯に電話し、キャンプファイヤーが行われる校庭で待ち合わせた。
「お待たせー」
「よう!」
校庭と校舎の間にあるベンチで待っていると、シズルがやってきて、隣に座る。
「まだ、その格好なの?」
俺は未だにメイド服のままである。
「まあ、せっかくだし、最後まで、この格好でいようと思って」
「そうなんだ。ルミナ君が宣伝してくれたおかげで、売上はかなり良かったみたいだよ」
どうやら俺のメイド服とジュース券は好評だったらしい。
ナンパされた甲斐があったというものだ。
「それは良かった。楽しかったか?」
「うん。私は中学の時はこういうイベントに参加しなかったから」
シズルは中学時代に歌手をやっていた。
そのため、修学旅行などのイベント事には忙しくて、参加出来なかったらしい。
「良かったな。また、来年も再来年もあるから楽しみにしとけよ」
「だね! ルミナ君は来年もメイド服着るの?」
「来年には、男に戻っている予定だから着ない」
「似合ってるのに……まあ、どうせ男に戻ったとしても着ると思うよ。トランスハングルって、いつでも女になれるんでしょ?」
俺が男に戻るために求めているトランスハングルは性別を自由に変えることができるアイテムだ。
男に戻ったとしても、いつでも今の女の姿になれるらしい。
「シロはそう言ってたな」
「そういえば、シロは?」
「先に帰った。食いすぎて疲れたんだとよ」
「あー、アカネちゃんに聞いたけど、大きいパフェを食べたらしいね。アカネちゃんが泣いてたよ」
「嘘泣きだ。あいつはすぐに俺を悪者にする」
「だろうね。さすがに、もうわかるよ」
シズルとアカネちゃんも付き合いがそこそこ長くなってきたからわかるのだろう。
俺とシズルが話していると、キャンプファイヤーが始まり、校庭にいる生徒達から歓声が上がった。
「お! 始まった」
「きれいだねー」
シズルが言うように、燃え上がったキャンプファイヤーはかなりきれいだ。
「シズル」
「ん?」
バカだ、バカだと言われている俺でも、渡すのが今であることくらいはわかる。
「誕生日、おめでとう」
俺はアイテムボックスから包装紙に包まれたプレゼントを渡す。
「え!? 朝、カナタ君とアカネちゃんに貰ったよ」
「残念ながら、あれに俺は含まれていない。これが俺の分」
「あ、ありがとう」
シズルは驚きながら、俺からのプレゼントを受け取る。
「開けてもいい?」
…………開けるのか。
そりゃあそうか。
「ああ」
俺が許可を出すと、シズルは包装紙を丁寧にゆっくりと開ける。
ドキドキ。
そして、包装紙を開けると、中にあった箱を開けた。
ドキドキ!
「わあ…………」
シズルは小さく感嘆の声を漏らした。
「お前に似合うかと思って、それにした」
「あ、ありがとう。すごく嬉しいよ」
シズルは本当に嬉しそうな笑顔で俺を見る。
俺はなんとなく顔を逸らしたくなる気持ちになったが、逸らさなかった。
「良かった……俺はこういう贈り物をしたことがなかったから不安だったんだ」
「そうなんだ…………ねぇ、着けて」
…………えー、ハードル高いよー。
俺はそうも言えないので、シズルの手のひらにあるネックレスを手に取る。
すると、シズルは上半身をこちらに向けてきた。
俺は正面からシズルの首の裏に手を回す。
シズルの長く、艶やかな黒髪に手が当たり、すごくドキドキする。
そしてなにより、シズルのかわいい顔が目の前にあり、シズルの息づかいが聞こえてくる。
やべー、やべー!
青春を通り越して、大人な感じだー!
俺はネックレスを着けるのに手こずるかと思っていたが、手先が器用な俺はすんなりと着けることが出来た。
上手く出来て嬉しいような、もっと近くにいたかったような…………
俺はシズルにネックレスを着け終えると、手を放した。
「似合う?」
「ああ」
自分で言うのもなんだが、買う時にシズルに似合いそうなものを選んだ。
そして、それは間違いではなかった。
本当によく似合っていた。
「ありがとう。本当に嬉しい」
「うん」
気のせいか、シズルの目が潤んでいる気がする。
そんなに喜ばれると、嬉しい半面、恥ずかしくなってきた。
「誕生日、おめでとう」
「うん!」
俺は春にシズルと出会い、シズルの母親を救うためにダンジョンに行った。
そして、そこで女になってしまった。
女になってしまったことは俺のミスでもあるし、仕方がないことだが、嫌なこともたくさんあったし、悩んだこともある。
しかし、シズルと出会ったことを後悔したことはない。
今日、そのことを再認識できた。
そして、自分がシズルのことを好きだということも改めて認識した。
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